社会保障会計の赤字拡大
 ―コロナ禍による影響で債務償還期限を延長

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2021年6月

連帯・保健省は2021年3月15日、2020年の社会保障会計(注1)の赤字総額が386億ユーロに達し、前年の19億ユーロから大幅に拡大したことを発表した。新型コロナウイルス感染拡大に伴う公衆衛生と経済の危機に対処するため、2020年12月に国会で成立した2021年社会保障予算法において想定した490億ユーロほどは大きくなかったものの、史上最大の赤字を記録した。これまでの最大の赤字は、2008年の金融危機の影響による2010年の280億ユーロであったが、2020年の赤字はそれを大きく上回った。

社会保障の累積債務完済予定を9年間延長

2020年は社会保障制度の全ての部門で赤字となった。その中でも、医療部門の赤字は、304億ユーロに達し、2019年の15億ユーロから大きく増加した。年金部門の赤字は、23億ユーロ増の37億ユーロだった。高齢者最低所得保証の給付などを担う老齢連帯基金の赤字は、9億ユーロ増の25億ユーロとなった。労災部門と家族部門は、2019年には黒字であったが、2020年にはそれぞれ、2億ユーロと18億ユーロの赤字に転落した。

社会保障制度で発生した累積債務は、社会保障債務償還公庫(Cades)に移転され、その返済(償還)や利子の支払い、債務の借り換えなどを行うしくみになっている。Cadesは1996年に設立された公的行政組織であり、経済・財務省や連帯・保健省などの指揮・監督下にある(注2)。社会保障債務返済拠出金(CRDS)全額 と一般福祉税(CSG)の一部などが財源である。CRDSは、社会保障制度の債務の返済を目的として1996年に導入された租税で、勤労所得や資産所得などに0.5%課税され、その全額がCadesの収入となる(注3)

Cadesの2020年の収入176億ユーロは、161億ユーロが債務の返済に、15億ユーロが利子の支払いに充てられた(注4)。コロナ禍以前は、Cadesの全ての債務を2024年までに償還できる計画になっていたが、コロナ禍の影響を受けて、1360億ユーロに上る社会保障制度の債務が、2020年以降順次、Cadesに移転されることが決まった。そのため、2024年に完了予定だったCadesに移転された債務の償還は、2033年まで9年間延長されることになった。

毎年の収支均衡の優先する必要性

社会保障財源高等評議会(HCFiPS)から首相に2021年3月24日提出された報告書(注5)によると社会保障会計の赤字は、少なくとも2024年まで、毎年200億ユーロを超える見込みである。毎年、150億ユーロ以上が社会保障会計の債務の返済に充てられるため、赤字が続き財政均衡を達成できず、新たな負債に繋がっている。HCFiPSの報告書は、この悪循環を断つために今後数年間、毎年の収支均衡を優先する必要があると指摘している。具体的には、2033年まで延長されたCadesの債務完済予定を更に先へ延ばし、返済は利子の支払いのみとする選択肢も提示している。つまり、債務返済(Cadesによる返済分)の一部または全額を支出に回し、単年度の収支均衡を目指すべきであるとしている。

また、医療部門は大幅な赤字が続くことが予想されているため、支出の抑制に取り組むと同時に収入源を増加させる必要性を強調している。医療政策の見直しによる支出の減少、長期的な視点に立った未病対策への注力などの支出を抑制する対策とともに、徴収と給付に関する不正への重点的な取り組みや保険料の引き上げによる増収の必要性にも言及している。

徴収と給付の不正は、企業による就労時間の過少申告や新規採用者の申告漏れなどが該当し、HCFiPSは2020年に57億ユーロから71億ユーロの社会保険料(失業保険部門も含む)の負担逃れがあったと推計している(注6)

(ウェブサイト最終閲覧:2021年6月28日)

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