新型コロナウイルス感染症と子供ケアの変化
韓国労働研究院(KLI)は2020年11月、「COVID-19パンデミックと子供ケアの変化」と題する研究レポートを発表した。新型コロナウイルス感染症の感染拡大が子供のケアにどのような影響を及ぼしたかについて分析している。同レポートの概要を紹介する。
研究レポートの概要
KLIの研究レポートは、ソウル大学が2020年6月12日から7月6日までの25日間、オンラインで実施した「COVID-19と韓国の児童ケアに関するアンケート調査」(子供ケア調査)の結果を分析したものである。0歳から12歳の子供を持つ既婚男女の回答者1,252人(男性523人、女性729人)(表1)のうち、①共働き夫婦世帯の男性(284人)、②共働き夫婦世帯の女性(283人)、③男性片働き世帯の男性(101人)、④男性片働き世帯の専業主婦(237人)の合計905人を分析対象としている。
この研究では、共働き世帯に属する女性と男性片働き世帯に属する専業主婦、共働き世帯の男性と男性片働き世帯の男性など、上記①から④の分類を比較し、コロナ以前とコロナ状況下で子供ケアにどのような変化があったかについて分析を行っている。
男性 | (N) | 女性 | (N) | ||
---|---|---|---|---|---|
年齢 | 34歳以下 | 6.9 | 36 | 15.2 | 111 |
35~39歳 | 25.2 | 132 | 36.1 | 263 | |
40~44歳 | 41.9 | 219 | 34.0 | 248 | |
45歳以上 | 26.0 | 136 | 14.7 | 107 | |
最終学歴 | 中卒以下 | 0.2 | 1 | 0.0 | 0 |
高卒 | 6.1 | 32 | 11.0 | 80 | |
大卒 | 75.3 | 394 | 79.6 | 580 | |
大学院卒 | 18.4 | 96 | 9.5 | 69 | |
COVID-19以前の就業の可否 | 就業 | 95.2 | 498 | 64.9 | 473 |
非就業 | 4.8 | 25 | 35.1 | 256 | |
COVID-19状況下の就業の可否 | 就業 | 92.7 | 485 | 53.1 | 387 |
非就業 | 7.3 | 38 | 46.9 | 342 | |
世帯類型 | 共働き | 68.3 | 357 | 48.7 | 355 |
男性片働き | 24.5 | 128 | 38.8 | 283 | |
女性片働き | 2.3 | 12 | 4.4 | 32 | |
夫婦非就業 | 5.0 | 26 | 8.1 | 59 | |
合計 | 100.0 | 523 | 100.0 | 729 |
出所:ウン・ギス(2020)「COVID-19パンデミックと子供ケアの変化」『月刊労働レビュー』2020年11月号、韓国労働研究院
子供のケアに費やす時間の変化
子供のケア時間の変化についてみると、共働き世帯の働く女性はコロナ以前、1日平均5時間3分を子供ケアに費やしていた。しかし、コロナ状況下では、保育園や学校が休みとなり、外部のケア施設を利用できないケースが生じたため、子供ケア時間は1日平均6時間47分となった(1時間44分増)。男性片働き世帯の専業主婦への影響はさらに大きく、コロナ以前の子供ケア時間は1日平均9時間6分であったのが、コロナ状況下では12時間38分となった(3時間32分増)(表2)。
コロナ以前とコロナ状況下を比べて、共働き世帯の働く女性の子供ケア時間の増加数が専業主婦より少ないのは、仕事を続けながら子供ケア時間を増やすことが現実的に不可能であったためと推測される。
共働き世帯の働く男性の子供ケア時間は、コロナ以前は1日平均3時間8分であったが、コロナ状況下では3時間54分となった(46分増)。男性片働き世帯の男性の子供ケア時間は、コロナ以前は1日平均3時間1分であったが、コロナ状況下では3時間30分となった(29分増)。
本人 | 配偶者 | |||
---|---|---|---|---|
コロナ以前 | コロナ状況下 | コロナ以前 | コロナ状況下 | |
共働き女性 | 5:03 | 6:47 | 3:02 | 3:50 |
専業主婦 | 9:06 | 12:38 | 2:18 | 2:47 |
共働き男性 | 3:08 | 3:54 | 4:40 | 5:37 |
片働き男性 | 3:01 | 3:30 | 9:37 | 12:27 |
出所:ウン・ギス(2020)「COVID-19パンデミックと子供ケアの変化」『月刊労働レビュー』2020年11月号、韓国労働研究院
注:分析対象は共働き世帯の女性(283人)、男性片働き世帯の専業主婦(237人)、共働き世帯の男性(284人)、男性片働き世帯の男性(101人)。
夫婦間の子供ケアの分担状況
夫婦間の子供ケアの分担意識についてみると、共働き世帯の働く女性が回答した自身の子供ケアの分担割合は、コロナ以前が51.2%、コロナ状況下が51.7%でほとんど変化がなく、男性配偶者の分担割合も、コロナ以前が19.6%、コロナ状況下が19.5%で同様の認識を示している(表3)。男性片働き世帯の専業主婦が回答した自身の分担割合は、コロナ以前の69.6%からコロナ状況下は80.2%へと大幅に上昇する一方、男性配偶者の分担割合は、コロナ以前の14.1%からコロナ状況下は12.7%へと低下している。
男性片働き世帯の専業主婦が回答した自身の分担割合は、コロナ以前の69.6%からコロナ状況下の80.2%へ大幅に上昇する一方、男性配偶者の分担割合は、コロナ以前の14.1%からコロナ状況下は12.7%へと低下している。
共働き世帯の働く男性が回答した自身の子供ケアの分担割合は、コロナ以前の24.7%からコロナ状況下は27.4%に上昇し、女性配偶者の分担割合は45.8%から44.4%に低下している。男性片働き世帯の男性が回答した自身の子供ケアの分担割合は、コロナ以前の19.6%からコロナ状況下は22.7%に上昇し、配偶者(専業主婦)の分担割合は65.4%から68.7%に上昇している。
これらの結果から、コロナ状況下の子供ケアは、専業主婦に大きな負担を強いていることが分かる。しかし、子供のケア時間の増加率をみると、男性片働き世帯の専業主婦と共働き世帯の働く女性とであまり差がなく、子供ケアの増加時間数が比較的少ないことをもって、働く女性の子供ケア負担が大きくないとは言えない。
共働き夫婦世帯 の働く女性 |
専業主婦 | 共働き夫婦世帯 の働く男性 |
男性片働き世帯の 男性 |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
コロナ 以前 |
コロナ 状況下 |
コロナ 以前 |
コロナ 状況下 |
コロナ 以前 |
コロナ 状況下 |
コロナ 以前 |
コロナ 状況下 |
|
本人 | 51.2 | 51.7 | 69.6 | 80.2 | 24.7 | 27.4 | 19.6 | 22.7 |
配偶者 | 19.6 | 19.5 | 14.1 | 12.7 | 45.8 | 44.4 | 65.4 | 68.7 |
その他 | 29.3 | 28.8 | 16.3 | 7.0 | 29.5 | 28.2 | 15.0 | 8.6 |
合計 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
出所:ウン・ギス(2020)「COVID-19パンデミックと子供ケアの変化」『月刊労働レビュー』2020年11月号、韓国労働研究院
注:分析対象は表1と同じ。
子供ケアに関する態度
コロナの状況が子供と接する態度にどのような影響を与えているかをみると、共働き世帯の働く女性がコロナ状況下で子供と過ごす時間が増えて良かったと肯定的に回答した割合(そのような方である+非常にそうである)は80.8%と非常に高く、共働き世帯の働く男性の肯定的な回答割合も71.8%と比較的高い(表4)。共働き世帯は、子供ケアの家庭内分担割合が大きく変化していない状況で子供と一緒に過ごす時間が増えたことが肯定的な認識につながっているとみられる。
男性片働き世帯においては、働く男性が子供と過ごす時間が増えたことを肯定的に評価する割合は81.1%と非常に高い一方、専業主婦の肯定的な回答割合は65.8%と4つのグループの中で最も低い。専業主婦は、子供とより多くの時間を過ごすことができて良かったかという設問に、「全然そうではない」と回答した割合が7.9%に達している。
全然そうではない | あまりそうではない | そのような方である | 非常にそうである | N (人) | |
---|---|---|---|---|---|
共働き女性 | 3.9 | 15.4 | 67.7 | 13.1 | 130 |
専業主婦 | 7.9 | 26.3 | 54.0 | 11.8 | 152 |
共働き男性 | 2.4 | 25.8 | 64.5 | 7.3 | 124 |
片働き男性 | 0.0 | 19.9 | 70.3 | 10.8 | 37 |
出所:ウン・ギス(2020)「COVID-19パンデミックと子供ケアの変化」『月刊労働レビュー』2020年11月号、韓国労働研究院
注:この質問項目はCOVID-19以前に比べCOVID-19により子供と過ごす時間が増加した回答者のみに適用された。そのような理由で表4の事例数は表5の事例数と差がある。
コロナ状況下において、子供と離れて一人でいる時間が切実に必要だったという設問に対しては、共働き世帯の働く女性の56.5%、男性片働き世帯の専業主婦の76.4%が肯定的な回答(そのような方である+非常にそうである)を示している(表5)。他方、男性の肯定的な回答は、共働き世帯の男性が33.1%、男性片働き世帯の男性が41.6%にとどまっている。
全然そうではない | あまりそうではない | そのような方である | 非常にそうである | N (人) | |
---|---|---|---|---|---|
共働き女性 | 10.3 | 33.2 | 37.8 | 18.7 | 283 |
専業主婦 | 4.6 | 19.0 | 31.2 | 45.2 | 237 |
共働き男性 | 16.9 | 50.0 | 29.2 | 3.9 | 284 |
片働き男性 | 12.9 | 45.5 | 36.6 | 5.0 | 101 |
出所:ウン・ギス(2020)「COVID-19パンデミックと子供ケアの変化」『月刊労働レビュー』2020年11月号、韓国労働研究院
専業主婦の子供ケア負担軽減が必要
韓国政府はこれまで、働く女性のキャリアの断絶を懸念して、仕事と家庭生活の両立を支援するための政策を積極的に推進してきた。他方、専業主婦の子供ケアの負担に関しては、比較的関心が薄かった。KLIの研究レポートは、働く女性だけでなく、無給の子供ケアの主体である専業主婦の負担を正確に認識し、子供ケアの客観的、主観的負担を軽減するための政府と社会の関心と政策的対応が求められると主張している。
参考
- ウン・ギス「COVID-19パンデミックと子供ケアの変化」『月刊労働レビュー』2020年11月号、韓国労働研究院
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