コロナ禍で金属産業に打撃
 ―IGメタル、週4日勤務制の要求へ

カテゴリー:雇用・失業問題労働条件・就業環境

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2020年11月

ドイツ最大の産別である金属産業労組(IGメタル、220万人)は、2021年の産別労使交渉で、大量解雇を避けるために週4日勤務制(週休3日制)を要求しようとしている。主力の自動車産業では、以前から生産現場の変革等による人員削減が続き、そこに新型コロナウイルスの流行が追い打ちをかけた格好だ。労働組合の雇用確保に向けた新しい取組みを、以下に紹介する。

40万の雇用が消失する恐れ

ドイツの自動車産業では、ディーゼル車やガソリン車から、ハイブリッド車や電気自動車の生産へ移行する「Eモビリティ化」の流れが加速している。現在、自動車産業に直接雇用されている労働者は約83万人、国内総生産(GDP)の約5%を占める。しかし、NPM(Nationale Plattform Zukunft der Mobilität)が2020年1月に発表した報告(注1)によると、2030年までにその半数近い40万人分の雇用が消失する可能性がある。

今後、生産拡大が見込まれる電気自動車に要する部品は、ディーゼル車やガソリン車の6分の1のみであり、生産に要する労働者数も非常に少ない。同時に、電気自動車は、より容易なデジタル化や自動化が可能だ。そのため、Eモビリティ化が加速すると、当該産業の雇用構造は深刻な打撃を受ける可能性がある。

報告を発表したNPMは、「モビリティ(車を単なる物ではなく、包括的なサービスの提供手段として捉える新しい考え方)」をめぐる技術的・法的・社会的な変化を背景に、連立政府の合意の下で設置されたプラットフォーム(組織)である。2018年9月から、モビリティの将来に関する様々な議論を開始している。NPM自体は政府から独立した機関であり、技術的側面も含めた選択肢や規制の在り方等を検討し、政府へ提言する役割を担う。上述の報告を発表したのは、6つあるワーキンググループ(WG)のうち、「WG4:モビリティと自動車・蓄電池製造、主要金属とリサイクル、職業訓練と資格」で、主に自動車のデジタル化や自動化が、企業の競争力や雇用維持にどのような影響を与えるかを調査し、対策を検討している。

今回NPMが発表した最悪のシナリオ予想-40万の雇用が消失する可能性-について、ドイツ自動車工業会(VDA)は、「非現実的なシナリオだ」としながらも、急速な変化の中で、一定の雇用喪失を避けられないことを認めている(Deutsche Welle)。

雇用確保のための週4日勤務制

以上のような生産現場の変革によって、自動車を中心とした金属産業では、以前から人員削減等が続いていた。そこに今回の新型コロナウイルスの流行が産業全体に深刻な追い打ちをかけた格好だ。こうした中、金属産業労組のイェルク・ホフマン会長は8月15日、金属産業における労働者の雇用確保のため、次の産別労使交渉で、週4日勤務制(週休3日制)の導入を要求することに言及。また、労働日数の減少に伴い、賃金が減る労働者に対しては、賃金の引き上げ等の調整をした上で、一定の賃金補償が必要だとの見方を示した。

金属産業労組はすでに2018年、介護や育児を行う労働者が、週労働時間を最大2年間、現行の週35時間から28時間へ短縮できる権利を労使交渉で勝ち取った実績があり、今回の要求もこの実績を踏まえている。

要求に対する反応

フベルトゥース・ハイル労働社会相は、金属産業労組の要求案について、「労働時間を削減して、減少した賃金を部分的に補償する方式は、労使が合意し、時給を引き上げる取組み等を行うのであれば、適切な措置かもしれない。関連政策を前向きに検討したい」と述べて、好意的な反応を示している。

他方、ドイツ使用者団体連盟(BDA)のシュテフェン・カンペテル会長は「賃金調整をした上で週4日勤務制を導入することは、新型コロナウイルスによる打撃をさらに悪化させるだけだ」と述べて、反対している。

また、ドイツ労働市場・職業研究所(IAB)のエンツォ・ウェーバー教授は、「近い将来、少子高齢化による労働力不足が深刻になる。今後は、労働の質を高めるため、変革に応じた職業訓練や資格に投資し、労働条件を向上させることが、生産性向上や経済成長に欠かせない」と指摘した上で、「労働時間を短くするのは良いが、現段階で重要なのは時間の柔軟性をより高めることだ」と指摘している。

参考資料

  • Deutsche Welle, NPM , News ABC, AHK, FAZ,The localほか。

関連情報