国際比較を通して見た日本
 ―OECD雇用見通し

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  • 国別労働トピック:2020年10月

OECD(経済協力開発機構)は2020年7月、「OECD Employment Outlook(OECD雇用見通し)」を発表した。国別ノート「How does Japan compare?(国際比較を通して見た日本)」では、日本における新型コロナウイルスによる労働市場への影響や、日本が行った緊急政策をまとめている。以下、資料の概要を紹介する。

労働時間の減少と失業率の上昇

今世紀最も深刻なパンデミックは、大恐慌以来最悪と言われる経済危機を引き起こした。OECD諸国全体のGDPは2019年第4四半期に対し、2020年第2四半期までに15%近く減少すると予測されている。OECD諸国全体の失業率は、2020年2月の5.2%から5月は8.4%に上昇した。

データ入手可能な国々における危機の最初の3カ月間の総労働時間は、世界金融危機時の同期間と比較して平均10倍以上減少している(図1)。日本では、新型コロナウイルス危機の最初の3カ月間の平均労働時間の減少率は7.9%であった(世界金融危機時の減少率は2.6%)。他のいくつかの国に比べて減少幅は小さかったものの、2020年4月の総労働時間は2019年末のピーク時を19%近く下回っている。

図1:新型コロナウイルス危機の最初の3カ月間(もしくは2カ月間)の総労働時間減少率
画像:図1
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注:新型コロナウイルス危機の開始月は、日本は2020年1月、その他の国は2020年2月。世界金融危機の開始月は2008年10月。

出所:OECD(2020)

OECDはパンデミックの進展が不明確であることを受け、2つのシナリオ(2020年後半にパンデミックの第2波が「来る場合」と「来ない場合」)を提示している。第2波が避けられた場合でも、OECD諸国全体の雇用は2020年に4.1%減少し、2021年も1.6%の成長にとどまると予測される。そして、結果的に、OECD諸国全体の失業率は2020年末に過去最高となる9.4%に上昇し、2021年も7.7%までしか改善しないと予測されている。また、第2波が避けられなかった場合には、現在の危機はさらに悪化し、長期化するとみられる。

日本の雇用は、2020年の第3四半期までの1年間で2.0%減少し、その後徐々に回復する見込みだ。急激な経済の収縮にもかかわらず、日本の失業率は2019年12月の2.2%から2020年5月は2.9%と僅かな上昇にとどまる。しかし、これは特に女性の労働力参加率が大幅に低下したことが一因となっている。なお、第2波が避けられた場合、日本の失業率は2020年の第2四半期には3.6%にまで上昇すると予測されている。第2波が来るシナリオでは、失業率は4.0%に達すると予測される。他の多くの国と異なり、この水準は2008年の世界金融危機時のピークを下回っており、OECD平均の7.7%を大きく下回る水準である。

前例のない規模の労働・社会政策

OECD諸国は危機による好ましくない結果を抑制し、労働者やその家族、企業を支援するために、前例のない方法・スピード・範囲・深さで対応してきた。各国は労働者の新型コロナウイルスへの感染を減らすためにテレワークを促進し、仕事を休まざるをえない親を支援するための措置を取った。また、OECD諸国の大多数は経済活動の一時的な減少を経験した企業における雇用を保つために、雇用維持スキームを導入、もしくは拡大した。

1)テレワーク補助金

各国はテレワークが許されるすべての事業でテレワークへの迅速な移行を促進するために、企業に対する金融的・非金融的支援を通して、テレワークの利用を容易にするための数々の政策を講じた。

例えばイタリアでは、企業と従業員が組合との事前合意及び書面による合意なしに、従業員の希望する場所でテレワークを行うことができるよう、テレワークの手続きを簡素化した。日本は、新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを新規で導入する中小企業事業主に対し、100万円までを上限に、費用の50%の補助金を受給できるようにした。韓国はフレキシブルワーク導入助成金への申請手続きを簡素化した。ベルギーでは、雇用主が在宅勤務をする従業員のデスクや事務用品などの在宅勤務に関連する費用を賄うために、月170ユーロの税・社会保障費を免除できるようにした。

危機前の水準と比べ、在宅勤務する労働者の比率は大きく増加した。4月中旬時点の調査によれば、在宅勤務している労働者の比率は、スウェーデン、カナダ、ポーランドで30%未満、オーストラリア、イギリス、アメリカで50%程度、ニュージーランドで60%だった。

2)仕事を休まざるをえない親に対する特別休暇

新型コロナウイルスの影響によって学校や保育所が閉鎖している間、仕事を休まざるをえない親のために、多くの国が特別有給休暇(または特別所得支援)を導入、もしくは拡充した。これらの国のほとんどでは、一定期間の特別有給休暇もしくは特別所得支援が受けられる。例えば、韓国では1人の親につき10日、アメリカでは12週間、カナダでは4カ月までとなっている。一部の国では学校や保育所が閉鎖されている間、特別有給休暇は延長される。特別有給休暇を取得する権利は、ほとんどの国で代替ケアの手配ができないことが条件となっている。

いくつかの国では、特別有給休暇を取得した労働者は、給与の定額(ベルギー、カナダ、韓国等)か、給与の固定部分(フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ等)を受け取っている。しかし、ほとんどの国では、雇用主負担を最小限に抑えるか、一般課税や社会保険を利用して特別休暇の資金を完全に調達するかのどちらかを検討している。日本は子供の世話を理由に有給休暇(年次有給休暇を除く)を取得させた企業に対し、労働者1人あたり1日15,000円を上限として助成を行った。

しかし、自営業者はほとんどの国で既存の家族介護休暇制度から除外されており、子供の世話や就学ができなければ、大幅な収入の損失に直面する可能性がある。そのため、日本を含む一部の国(注1)では、自営業者に対しても特別有給休暇(または特別所得支援)を拡大している。

3)雇用維持スキーム

雇用維持スキームは多くのOECD諸国にとって、コロナ危機の雇用や社会への影響を抑制し広範囲なレイオフ/解雇を避けるための主要な政策ツールの一つである。各国は今回の危機にあたりアクセスの簡素化と受給範囲の拡大(OECD諸国のうち22カ国)を行ったり、危機に対応して新しいスキームを導入(10カ国)したりした(表1)。雇用維持スキームには、ドイツのKurzarbeitやフランスのActivité partielleのように、労働していない時間に対して直接助成する、短時間労働や一時帰休制度の形態がある。また、オランダのEmergency Bridging MeasureやオーストラリアのJob Keeper Paymentのように、労働した時間に対して助成する賃金助成制度の形態がある。

日本は労働者の雇用を守るため、雇用調整助成金を拡充した。雇用調整助成金は、一時的な休業に伴い、事業主が労働者に休業手当を支払う場合、その一部を助成する制度である。雇用調整助成金を受給するためには、新型コロナウイルス危機前は企業の売上高または生産量などが3カ月以上10%減少していることが要件とされていたが、危機後は1カ月以上で5%減少した場合に受給できるようになった。この助成金は、雇用保険に加入していない非正規雇用労働者にも、「緊急雇用安定助成金」として雇用調整助成金と同様に申請できるよう拡大された。助成割合は、中小企業は最大100%、それ以外の企業も最大75%まで引き上げられた。また、政府は労働者一人1日あたりの助成額の上限を8,330円から15,000円に引き上げた。さらに、事業主が労働時間を短縮したにもかかわらず当該助成金を申請しなかったために、支援を受けられずにいる中小企業の労働者を対象とした新たな制度も導入された。

表1:各国の雇用維持スキーム
  危機前から労働時間短縮スキームがあった国 アクセスと範囲を増加させた国 給付額を増加させた国 非典型雇用労働者のためのアクセスを増加させた国 新しい労働時間短縮スキームを作った国
日本  
アメリカ    
イギリス        
ドイツ  
フランス  
韓国    

出所:OECD公表データより筆者作成

参考資料

  • OECD(2020/7/7) Urgent action needed to stop jobs crisis becoming a social crisis
  • OECD資料 OECD Employment Outlook 2020: Worker Security and the COVID-19 Crisis
  • OECD資料 OECD Employment Outlook 2020: Worker Security and the COVID-19 Crisis, HOW DOES JAPAN COMPARE?

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