韓国政府が「セーフティーネット強化」計画を発表

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  • 国別労働トピック:2020年10月

韓国政府は2020年7月20日、ポストコロナ時代の長期戦略である「韓国版ニューディール総合計画」の細部推進戦略の1つとして、「セーフティーネット強化」計画を関係省庁合同で発表した。雇用・社会セーフティーネットの強化、人への投資の拡大(デジタル・グリーン人材の養成)を推進する方針を示している。同計画のうち、雇用・社会セーフティーネットの強化に関する政策の概要は以下のとおり。

計画の推進背景

新型コロナウイルスは、労働市場における弱者により大きな衝撃を与えた。2020年4月の事業体労働力調査結果によると、常用労働者数は前年同月比約1%減少したのに対し、臨時・日雇労働者・特殊形態労働従事者(契約の形式に関係なく労働者と類似の労務を提供しているにもかかわらず勤労基準法等が適用されない者)・プラットフォーム労働者等のその他の従事者数は約8%も減少した。これは賃金労働者中心に構築された雇用セーフティーネットの限界を示し、韓国の労働市場の二重構造と雇用セーフティーネットの脆弱性を如実に表している。韓国政府は、新型コロナウイルス危機を克服し、主要国に飛躍するための国家発展戦略として「韓国版ニューディール総合計画」を策定した。雇用・社会セーフティーネットを構築して、雇用形態の多様化と経済・産業構造の再編時に発生しうる国民の雇用不安を緩和するとともに、人間中心の投資を通じて未来型人材を養成し、デジタル・グリーン雇用への人材再配置を支援していく方針である。

全国民対象雇用セーフティーネットの構築

新型コロナウイルス危機を経験し、特殊形態労働従事者・フリーランス等の新しい就業形態に従事する者に対する保護が喫緊の課題となっている。

芸術家に対して雇用保険の適用を拡大する法律が成立し、2020年12月から施行される。また、特殊形態労働従事者に適用を拡大する雇用保険法改正案が9月国会に提出される予定である。芸術家・特殊形態労働従事者の労務提供特性を勘案し、非自発的離職だけでなく、一定水準以上の所得減少によって離職する場合にも、賃金労働者と同様に月平均報酬の60%の失業給付を最大9カ月(120~270日)受給できるようにする。

雇用保険の適用拡大に合せて、母性保護給付の対象も拡大し、2021年から芸術家・特殊形態労働従事者に出産前後給付を支給する。さらに、安定的な財源整備策を講じた上で、育児休職給付の対象を段階的に拡大する方針である。

社会保険料負担を軽減する「トゥルヌリ事業」の支援対象に、低所得(月の平均報酬が最低賃金の120%以下)の芸術家・特殊形態労働従事者を加え、労務提供契約の当事者(事業主)に雇用保険料の最大80%を支援する。

雇用保険の適用対象を拡大するため、関係省庁合同で「雇用保険非受給者解消企画団」を構成し、所得情報を迅速・正確に把握できる体系を構築する。2020年末までに「雇用保険非受給者解消ロードマップ」を整備し、2025年にはすべての働く国民(2,100万人)が雇用保険の保護を受けられるようにする。

労災保険の適用対象となる特殊形態労働従事者の職種について、2020年7月から現行の9職種を14職種に拡大した()。さらに、今後の研究結果に基づき、IT業種フリーランス、介護従事者等を適用対象職種に追加していく方針である。

表:労災保険適用対象の特殊形態労働従事者の職種
画像:表

出所:雇用労働部報道資料(2020年7月20日付)

包括的社会セーフティーネットの強化

社会的弱者が新型コロナウイルスや病気のような突然の危機状況が発生した時に貧困層に転落しないよう、社会セーフティーネットを強化する。

国民基礎生活保障制度(公的扶助制度)の生計給付扶養義務者基準を2022年までに廃止し、保障性が強化されるよう基準中位所得算定方式に改編する。

2021年に「韓国型傷病手当」を導入するための研究を行い、2022年に低所得層を対象としたモデル事業を実施した後、その結果に基づき、支給方式、支援条件、関連制度との連携等の具体的な制度導入策を整備する。

突然の危機状況発生時に社会的弱者が生計の困難を迅速に克服することができるよう、緊急福祉支援(失業,病気,災害等により所得を大幅に失った困窮者が対象)の規模を拡大する。

高齢者・障害者の所得保障を強化する。2021年から基礎年金最大支給額(月30万ウォン)の支援対象を所得下位40%から全受給者(所得下位70%)に拡大する。また、障害者年金基礎給付最大支給額(月30万ウォン)の支援対象を、障害者年金受給者のうち基礎受給者の上から2番目の階層から、全受給者(所得下位70%)に拡大する。

雇用保険非受給者の生活・雇用安定の支援

雇用保険をすべての就業者に拡大するには時間が必要であり、拡大しても恩恵を受けることができない人々(初めて就業の準備をする若者、長らく仕事をしていなかった女性、失業給付を全額受けても長期間就業できない失業者等)がいる。こうした雇用保険未加入状態にある就業弱者を支援するため、韓国型失業扶助である「国民就業支援制度」を2021年1月から導入する。

「国民就業支援制度」参加者の就業を支援するため、仕事経験プログラムを新設する。仕事をする意欲が足りない人々に対し、NGO・公共機関等で30日前後の短期間職務経験を提供する(2025年までに13万人に対し、1日2.1万ウォンを支援)。就業する意欲と能力はあるが職務経験が足りない人々に対しては、就業希望分野の民間企業で3カ月前後の職務中心インターン型プログラムを提供する(2025年までに3.6万人に対し、1月180万ウォンを3カ月間支援)。

低所得労働貧困層(基準中位所得の50%以下、若者の場合は中位所得の120%以下)に職業訓練等の就業支援プログラムを提供するとともに、生計支援のため求職促進手当(月50万ウォン×6カ月)や就業成功手当(就業後の勤続期間に応じて最大15万ウォン)を支給する。

雇用保険加入率が低い自営業者および零細企業の創業および再起を支援する。新規創業士官学校を拡大し(2022年17校)、新事業分野の予備創業者を対象に、教育(1カ月)、店舗運営実習およびメンタリング(4~5カ月)、事業化資金(1人当たり2,000万ウォン×5カ間)等をパッケージで支援する。また、零細企業の廃業負担軽減および再チャレンジ促進のため、事業整理・就業・再創業を支援する「希望リターンパケージ事業」を拡大する。事業整理、教育の後、就業成功時に転職奨励手当(最大100万ウォン)を支給する。業種転換・再創業教育(60時間)および1対1の専門家メンタリング、事業化資金(1人当たり1,000万ウォン)等の支援を行う。

雇用市場への新規進出および転換の支援

全国民雇用保険の推進、国民就業支援制度の導入により、公共雇用サービスに対する需要が増加するものと予想される。それに対応するため、可能なすべての雇用サービスをデジタル化する。求職者が雇用サービスを非対面で受けることができるよう、遠隔相談を導入し、AI求人・求職マッチングを高度化する。新たに雇用セーフティーネットに入ってくる特殊形態労働従事者等の就業弱者に対しては、きめ細やかな相談を通じて一人ひとりの就業問題の解消と福祉サービスとの連携を強化する。究極的に個人の経歴、訓練、資格等が蓄積された情報をベースに、全生涯(学業→労働市場進出→離職・失業/出産・育児→再就職→労働市場引退)にわたるきめ細やかな雇用サービスを提供する。

若年層に対しては、働く機会の提供および企業の採用余力確保のために採用奨励金を支給し、中小・中堅企業の中核人材マッチングを支援する。中小・中堅企業がIT活用可能な職務(実質的付加価値創出のためのコンテンツ企画、ビッグデータ等により雇用を類型化)に若年者を採用する場合、人件費を支援する(6カ月間、月最大180万ウォン、2021年5万人)。企業が若年者を短期採用して仕事の経験機会(企業がメンターを指定し、教育等を実施)を与える場合、人件費を一時支援する(6カ間、月最大80万ウォン)。理工系卒業生(学士、修士、博士)を選抜・教育して大学の保有技術を中小・中堅企業に移転させるとともに、就業と連係させる(2,100人、2021~2023年)。

熟年層に対しては、新たな雇用への転換支援のための再就職支援サービスを充実し、デジタル・グリーン関連職務への進出を促進する。中高年雇用希望センターで企業対象再就職支援サービスの設計・運営に関するコンサルティング・教育を提供する(2025年950カ所)。熟年適合職務雇用奨励金の支援対象としてデジタル・グリーン関連職務の人員を拡大する。熟年適合職務に高齢者を採用した中小・中堅企業対象に月最大80万ウォンを12カ月支援する。

地域に対しては、雇用危機憂慮地域を対象に、技術開発・専門人材の養成等の「雇用安定先制対応パッケージ」による支援を行う。地域が主導的に雇用事業を計画・推進して、雇用危機に先制的に対応できるようにする。

中小企業に対しては、経営危機におかれた中小企業研究所のR&D活動および中核研究人材の雇用維持のために基本研究課題(企業研究所のR&D活動維持のための自由主題研究)を支援する。

参考

  • 雇用労働部報道資料(2020年7月20日付)「働く幸せのための『セーフティーネット強化』計画発表 ―セーフティーネットの強化を通じてデジタル・グリーン・ニューディール成功の基板づくり―」

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