コロナ禍の食肉産業における外国人労働者
 ―環境改善に向けた法案を閣議決定

カテゴリー:外国人労働者労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2020年10月

メルケル連立政権は7月29日、食肉産業における下請や派遣の利用を禁止する「労働保護管理法」案を閣議決定した。背景には、複数の食肉処理工場で新型コロナウイルスのクラスター(集団感染)が発生し、そこで働く外国人労働者に対する搾取的な労働・生活環境に批判が集中したことがある。

1500人超のクラスターが発生

ドイツ西部のノルトライン=ヴェストファーレン州政府は、ギュータースロー郡の食肉処理工場(Toennies社)で働く労働者7000人のうち1553人が新型コロナウイルスに感染していた事態を受け、5月の規制緩和後初となる外出規制を、当該地域に6月24日から1週間再導入した。この大規模なクラスターの発生以前にも、複数の食肉処理工場でクラスターが相次いでおり、その要因を探る過程で、工場で働く外国人(多くはポーランドやルーマニア等、東欧出身者)の過酷な労働・生活環境に注目が集まった。

搾取的な労働・生活環境

現地の報道(Deutsche Welle)によると、外国人労働者の多くは、工場を保有する食肉企業に直接雇用されておらず、派遣会社や下請け業者(孫請け業者)から派遣された間接雇用/契約労働者として働いていた。また、長時間労働が常態化し、残業代の未払いや、使用者による法定傷病休暇の取得拒否、抗議者の即時解雇等も横行していた。

このほか業者は現地の空き家を買い取り、「寮」として外国人労働者を住まわせ、相当額の寮費を徴収していた。そして、寮の台所や風呂、トイレは清掃が行き届かない不衛生な状態で大勢が共用し、クラスターが発生しやすい状況だった。こうした外国人労働者の搾取的な環境は、新型コロナウイルス流行前も労働組合などから批判されていたが、今回の大規模クラスター発生でその実態が広く知れわたり、食肉企業や中間業者に批判が殺到した。

閣議決定された法案の概要

政府は上述の問題を踏まえて、今後は食肉企業に直接雇用義務を課す予定だ。閣議決定された労働保護管理法(Arbeitsschutzkontrollgesetz)は、50人以上が働く食肉企業では直接雇用労働者のみが働けるとし、労働環境や宿舎に一定の基準を設け、監視や罰則を強化すること等が盛り込まれている。具体的な内容は以下の通り;

  1. 食肉産業で、事業の核となる部分に外部人材を登用することを禁止する。食肉処理工場を保有する企業は、事業の核となる労働者全員に対して責任を負う。この規定は、「請負契約(Werkverträge)」は2021年1月1日から、「派遣労働(Leiharbeit)」は2021年4月1日から適用する。ただし、従業員数49人以下の精肉店は、適用対象外とする。
  2. 同法は全州に適用する、統一した法的拘束力のある事業主監査規定を定め、特にリスクの高い産業は重点的に監査を実施する(担当は労働安全衛生当局)。
  3. 従業員宿舎(事業所の敷地外も含む)に関する最低基準を設ける。
  4. 雇用主は、全従業員に関する居住地と勤務地を監査当局に報告する義務を負う。これにより効果的な監査を実施する。
  5. 従業員の最低賃金規定が遵守されているか効果的に監査するため、労働時間管理のデジタル化を義務づける。
  6. 労働時間法に違反した場合の罰金を現行の最大1万5000ユーロから3万ユーロへ引き上げる。
  7. 連邦労働社会省内に「労働安全衛生委員会」を設置し、そこで(法案の)要求事項を満たすための規定等を定める。

法案の目的について、フベルトゥース・ハイル労働社会相(SPD)は、「食肉産業の労働・宿舎環境の劣悪さはこれ以上看過できない。また、1日16時間の長時間労働も同様に看過できない。現状改善のため、職場と宿舎に対する適切な監査の実施と明確な雇用主責任の所在を明らかにすることが重要である。今回の法改正によって、請負契約の乱用に終止符を打ち、雇用主への監査を強化し、違反時の罰金を引き上げ、労働時間のデジタル管理を進め、食肉産業のみならず幅広い産業を対象に宿舎の最低基準を規定する。雇用主は下請け企業の背後に隠れるのではなく、自社で働く者に対して直接責任を負う必要があり、本来あるべき雇用形態に戻す。我々は労働者を守り、食肉産業の一部の無責任な事業形態を終わらせる」と説明した。その上で、法案は50人以上の労働者がいる規模の大きい食肉企業を対象としたもので、各地域にある小規模な精肉店は対象外としている点を改めて強調した(BMAS、各種報道)。

労組は歓迎、事業主団体は反発

今回の法案について、食品・飲料労組 (NGG)は「歴史的進展」として歓迎している。他方、ドイツ家禽産業中央協会(ZDG)の代表は、需要変動に応じた派遣労働者や下請業者の柔軟な活用は食肉産業に欠かせないものであり、政府は食肉生産を危機に晒していると強く反発している。

参考資料

  • BMAS Pressemitteilungen(29. Juli 2020), Deutsche Welle(29.07.2020,21.07.2020、05.08.2020,09.08.2020),ZDG Pressebereich(29.07.2020)ほか。

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