COVID-19と労働者保護
 ―危機への迅速な対応が必要(OECD雇用見通し)

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  • 国別労働トピック:2020年9月

OECD(経済協力開発機構)は2020年7月、「OECD Employment Outlook(OECD雇用見通し)」を発表した。新型コロナウイルスによる今世紀最も深刻なパンデミックは大恐慌以来最悪と言われる経済危機を引き起こし、影響を受ける労働者や企業への継続的な支援が欠かせないと、OECDは指摘している。以下、資料の概要を紹介する。

経済活動の急速な縮小による雇用危機

新型コロナウイルス拡大に伴う極めて不透明な状況や感染の懸念に加え、公衆衛生ガイドラインに沿った自粛や強制的なロックダウン(都市封鎖)の影響により、経済活動が急速に縮小している。新型コロナウイルス危機が始まった4月以降、新規失業保険申請者数が多くの国で急増した(図1)。アメリカではロックダウンから2カ月後の5月末までに、失業保険申請者数が4000万人を超えた。こうした新規失業保険申請者数の急激な増加は2008年の世界金融危機時に観測された増加を上回るものであり、今回の経済的打撃がより広範囲で突発的だったことを反映している。

図1:各国の失業保険申請の増加数
―2020年2月を100とした場合の4月の登録失業数(季節未調整)
画像:図1
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注:「登録失業」とは、公共職業安定所に登録された求職者を指す。「拡張失業保険」とは、従来は失業保険の適用対象外の者にも暫定的に失業保険を拡張するもので、アイルランドの「COVID-19パンデミック失業手当」とアメリカの「パンデミック失業支援(PUA)」が該当する。

出所:OECD(2020)

OECD諸国の失業率は楽観的シナリオでさえ世界金融危機のピーク時を上回り、2020年第4四半期には9.4%に達すると予想されている。既にアメリカとカナダでは失業率の急上昇が見られた。アメリカでは2月から4月にかけて失業率が3.5%から14.7%まで上昇して歴史的高水準となり、カナダでも5.6%から13.0%まで上昇した。ただし、これら2カ国の場合、初期の失業率の急上昇はレイオフ(一時解雇)によるもので、新規失業者の大多数は半年以内に元の職に戻ると予測されている。

多くのOECD諸国では、雇用維持スキームがこの雇用危機の影響を緩和している。雇用維持スキームは経済活動の一時的な減少を経験した企業の雇用を維持し、短時間勤務やレイオフのために労働時間が減少した労働者に所得支援を行うことを可能にする。OECD諸国全体でおよそ6000万人の労働者が、雇用維持スキームを申請した企業に所属している。5月の調査によると、ニュージーランドでは従業員の66%、フランスでは50%以上、イタリアとスイスでは40%以上、オーストリア、ベルギー、ドイツ、ポルトガルでは約30%に対する雇用維持助成金を企業が受給していることが分かった。なお、多くの都市でロックダウンが解除された現在、スキームの利用率は初期よりも低くなっていると見られる。

労働市場への打撃 ―脆弱な労働者及び女性に顕著な影響

新型コロナウイルス拡大による労働市場への打撃は、極めて大きい。2020年の平均雇用率は2019年に比べ、4.1~4.5%低下する予測だ。平均で労働人口の39%がテレワークをしているものの、企業が新規採用を停止し雇用維持助成金で従業員の雇用を維持する中、多くの国で就業者数が激減した。特に低技能者や若年者、季節労働者といった脆弱な労働者と女性が顕著な影響を受けている。

低賃金労働者は、新型コロナウイルス危機の初期にとりわけ影響を受けた。彼らの多くはロックダウン下で必要不可欠なサービスの提供に従事し、就労中の感染リスクにさらされていた(注1)。また、低賃金労働者は、新型コロナウイルスによる操業停止の影響を受けた業界(宿泊業界や飲食サービス業界など)でも数多く働いており、仕事や収入の喪失に苦しんでいる可能性が高い。イギリスでは週単位の収入を階層別に見たとき、低所得者が新型コロナウイルスの影響で操業停止した業界で働いている確率は、高所得者の約7倍であった。さらに、低賃金労働者はテレワークできる可能性が低い。多くのOECD諸国の4月時点のリアルタイム調査によると、労働者を所得階層で4段階に分けたとき、高所得者は低所得者に比べて在宅勤務できる可能性が平均で50%高かった(図2)。

図2:OECD諸国における4月中旬の所得階層別労働状況
画像:図1
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出所:OECD(2020)

非典型就業者(自営業者、季節労働者、パートタイム労働者など)やインフォーマル労働者、プラットフォーム労働者などは、仕事や収入を喪失する可能性が高い。さらに、彼らの多くが雇用維持スキームや失業給付を利用できないため、さらに深刻な状況にある。

非典型就業者は、ヨーロッパのOECD諸国において封じ込め政策で最も影響を受けた業界で働く全ての就業者の40%を占めている。ロックダウン開始後の調査によれば、オランダでは労働時間の減少を予測する人が自営業者は48%と被雇用者(27%)より高く、イギリスでは前週より収入の減少を報告する人が自営業者は75%と被雇用者(25%以下)より高かった。一方、一時的な契約を結んでいる労働者数は契約が更新されず激減した。特にカナダでは臨時雇用の労働者数と雇用期間が1年以下の労働者数が、それぞれ30%以上激減した。

若年雇用もまた、急速に悪化している。例えば、カナダでは若年労働者数が2月から5月にかけて33%減少した。今回の危機後の労働市場のデータから、若年労働者は一般的に安定した職に就いておらず、宿泊施設や飲食サービスなどの打撃の大きかった産業で大きな割合を占めていることが示唆されている。また、今年学業を修了する若者は度々“コロナ世代”と言及されるが、彼らは仕事の経験や仕事を見つけるチャンスが乏しいまま卒業することとなる。

女性は世界金融危機時と異なり、男性より雇用が大幅に減少している。新型コロナウイルス危機の影響を最も受けている産業に従事する労働者の多くは女性であり、女性の方がレイオフされやすい傾向にある。例えばEUでは、3月の失業率が男性(1.6%)より女性(4.5%)のほうが高かった。さらに、保育施設や学校の閉鎖が、女性の家庭での無給労働の負担を増やしている可能性がある。

緊急政策の再編と、適切で迅速な支援が必要

各国の新型コロナウイルス危機に対する緊急政策は、その規模と範囲において前例のないものだ。OECD諸国の大多数は企業に対する直接的・間接的な金融支援に加え、働けないもしくは失業している労働者に対する所得支援を強化・拡大してきた。経済活動再開に伴い、労働者の安全の確保や、適切な所得保障と雇用支援を提供することは引き続き重要である。しかし同時に、企業活動の促進や支援の再編が求められる。一般的に危機の初期に実施されたすべての所得支援プログラムの期間、対象、給付額を再検討し、持続可能であることや労働インセンティブ(意欲)への効果を確認する必要がある。

今回の報告書の発表に際して、アンヘル・グリアOECD事務総長は「各国はコロナウイルス危機に対する初期対策に基づいて、この雇用危機が本格的な社会的危機にならないように、あらゆる手を尽くす必要がある」と述べた。その上で、「景気の悪化が長期化するリスクと、労働市場での見通しが永続的に損なわれる可能性が高い若者のリスクを最小限に抑える」よう、各国に支援を呼び掛けている。

参考資料

  • OECD資料 OECD Employment Outlook 2020: Worker Security and the COVID-19 Crisis
  • OECD(2020/7/7) Urgent action needed to stop jobs crisis becoming a social crisis

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