有期雇用契約の規制緩和措置
 ―新型コロナ対策の景気回復促進

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2020年8月

新型コロナウイルス感染拡大の対策として、労働法の規制を緩和する措置が取られている。ロックダウン解除後の景気回復を促進するための法改正として、有期雇用契約(CDD)及び派遣労働の利用条件を緩和する措置が6月19日から施行された。

労使合意を条件に有期雇用の更新回数、契約期間の規制緩和

フランスにおいては、無期雇用契約が通常の契約と考えられており、有期雇用契約(CDD)や派遣は、一定の条件下で認められている。傷病・出産休暇など休職中の従業員の一時的な代替や企業活動の一時的な増加への対応、季節労働などに限られ、その期間及び更新回数なども制限されている(注1)。一般的には、有期雇用も派遣も、更新回数は2回までで、契約期間は合計で18カ月に制限されている(注2)(注3)。ただ、マクロン政権下の2017年以降、この規制は緩和される方向にあり、産業レベルの労使合意があれば、上限を超える更新回数または契約期間の延長が可能となった(注4)。20年6月にはコロナ禍の対応として、企業単位の労使合意によって更新回数または契約期間の上限を超える契約を可能とする措置がとられた。

この企業単位の労使合意というのは、労働組合または従業員代表との間で締結されるもので、零細企業では従業員投票によることもできる。今回の改正では、2つの契約の間の待機期間(有期雇用の契約終了後に、同一ポストで同じ労働者を有期雇用として採用できない期間)(注5)を短縮する措置も盛り込まれている(注6)。これらの改正は、2020年12月末までの暫定的な措置(2020年12月31日までに締結される雇用契約まで有効)とされている。

夏季の繁忙期のホテル、レストランで利用される想定

この措置は、特にホテルやレストラン業、観光業で利用されると考えられている。例えば、ホテルなどの営業が数カ月にわたって停止され、部分的失業となっていた有期雇用契約の従業員の中には、契約期限が6月末までで、有期雇用として契約の更新ができない場合に、当該従業員を営業再開後の夏の繁忙期に向けて雇用することは規定上、不可能であった。今回の法改正で、経験を積んだ従業員を継続して雇用して営業再開を迎えることが可能となる。失業者を増加させないだけではなく、既にその企業内での研修を受け、実務を熟知しており、営業再開の後の即戦力となる労働力を確保できる上に、経済状況が不透明な中、無期雇用契約(CDI)での採用を躊躇する企業の現状を考慮したものである(注7)。その一方で、今回の措置は12月末までの限定的な措置だが、野党からは不安定な雇用を常態化するリスクがあるという批判もある(注8)

有給休暇の強制取得、週労働時間の上限に関する特別措置

有期雇用に関する改正以外にも、コロナ禍の対策として、政令の制定などによる様々な特別措置を講じている。

有給休暇の取得を強制する場合、雇用主は従業員に対して、通常、4週間前の通告が必要であるが、1日前の通告で可能となった(注9)。ロックダウン中に有給休暇の消化を促すことによって、政府の負担となる部分的失業を軽減することを目的としている。

また、週労働時間について、原則として、12週間の平均で週44時間以上の就労が禁じられているが、48時間まで引き上げるとともに、長時間労働が必要な産業・業種については60時間まで可能とする措置が取られている。夜間や日曜日の就労の条件も緩和された。これにより医療従事者などの長時間労働が可能となった。

さらに、企業内での新型コロナウイルス蔓延を防ぐために必要な措置を、雇用主がただちに採ることが可能となった。従来は、労働組合などとの協議が必要であり、その適用までの周知期間が必要だったが、雇用主の判断に柔軟性を与え、一定の経済活動を確保することが可能となった(注10)。だが、労組との協議を経ずに決定されたため、労働組合側からの反発を引き起こした(注11)

(ウェブサイト最終閲覧:2020年8月24日)

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