世界経済の回復への道のりは不透明
―OECD、経済見通し
OECD(経済協力開発機構)は2020年6月、「OECD Economic Outlook(OECD経済見通し)」を発表した。OECDは当該資料において、新型コロナウイルス危機により世界経済の見通しが立たないなか、2つのシナリオを提示している。2020年第4四半期に第2波が到来し再びロックダウン措置が実施された場合のダブルヒット・シナリオと、感染拡大を押さえ込み第2波を避けられた場合のシングルヒット・シナリオである。以下、資料の概要を紹介する。
世界経済の落ち込み ―特にヨーロッパ諸国に顕著
多くの政府が実施した厳しい新型コロナウイルス封じ込め措置は、ウイルス感染の拡大を抑え死者数を減少させるために必要な措置であったが、政府への信頼感の低下及び金融情勢の圧迫が重なり、生産・消費・雇用の縮小を短期間に引き起こした。多くの国で操業停止期間中にGDP(国内総生産)が20%以上減少するとともに失業率が急上昇しており、世界経済は1930年代の大恐慌以来、最大の不況を経験している。
世界全体のGDP成長率は、ダブルヒット・シナリオでは2020年に7.6%低下し、2021年には2.8%上昇するものの、危機以前の水準を大きく下回る予想だ(表1)。一方、シングルヒット・シナリオでは2020年に6.0%低下するが、2021年には5.2%上昇し危機以前の水準にほぼ戻ると予測された。それでも、多くの先進国では2021年までに、一人当たり実質所得の伸びの5年分以上が失われる可能性がある。
ダブルヒット・シナリオ | シングルヒット・シナリオ | ||||
---|---|---|---|---|---|
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2020年 | 2021年 | |
世界全体 | 2.7 | -7.6 | 2.8 | -6.0 | 5.2 |
G20 | 2.9 | -7.3 | 3.1 | -5.7 | 5.5 |
ユーロ圏 | 1.3 | -11.5 | 3.5 | -9.1 | 6.5 |
アメリカ | 2.3 | -8.5 | 1.9 | -7.3 | 4.1 |
日本 | 0.7 | -7.3 | -0.5 | -0.6 | 2.1 |
韓国 | 2.0 | -2.5 | 1.4 | -1.2 | 3.1 |
ブラジル | 1.1 | -9.1 | 2.4 | -7.4 | 4.2 |
南アフリカ | 0.2 | -8.2 | 0.6 | -7.5 | 2.5 |
中国 | 6.1 | -3.7 | 4.5 | -2.6 | 6.8 |
インド | 4.2 | -7.3 | 8.1 | -3.7 | 7.9 |
出所:OECD公表データより筆者作成
全ての国でGDPの減少が予測されるものの、主要経済圏の成長予測には大きな差がある。長期間にわたる厳しい封じ込め措置が実施されたことを反映し、ヨーロッパ諸国では経済的影響が特に大きい。ユーロ圏の2020年のGDP成長率は、ダブルヒット・シナリオで11.5%低下し、シングルヒット・シナリオでは9.1%低下する予測である。アメリカ及び日本では、ダブルヒット・シナリオでそれぞれ8.5%、7.3%、シングルヒット・シナリオで7.3%、6.0%低下する予測である。韓国は的確に的を絞り、それほど厳しくない封じ込め措置を実施したことで、ダブルヒット・シナリオでは2.5%、シングルヒット・シナリオでは1.2%低下する予測だ。
多くの新興国では効果的に対応するために必要な医療システムのリソースが不足していることが多く、商品価格の下落、送金の減少、外需の低迷、金融情勢の逼迫などにより、パンデミックの打撃がさらに深刻化している。例えば、ダブルヒット・シナリオの場合、ブラジル及び南アフリカではそれぞれ9.1%、8.2%、シングルヒット・シナリオでは7.4%、7.5%の落ち込みになると予想される。中国とインドでは比較的影響が少なく、ダブルヒット・シナリオではそれぞれ3.7%、7.3%、シングルヒット・シナリオでは2.6%、3.7%の低下と予測されている。
短期間に失業率が大幅に上昇
労働市場の状況は大幅に悪化しており、雇用の喪失や労働時間の短縮を反映して失業申請や短時間労働制度の申請が急増している。危機が始まって以来、テレワークの増加は多くの国で労働時間の短縮を緩和してきたが、イギリス国家統計局及びカナダ統計局の調査結果によると、定期的にテレワークができる労働者は2分の1以下である。
ダブルヒット・シナリオの場合、OECD諸国の失業率は2020年第4四半期における約12.6%をピークに、その後も高い水準で推移し、長期失業の定着によるヒステリシス(注1)・リスクや、意欲を失った労働者の労働参加率が低下するリスクを高める。OECD諸国の失業率は2021年には9%近くに改善すると予測されるものの、金融危機のピークをまだ上回る数値であり、2019年度末の失業率を3.5%上回っている(表2)。
ダブルヒット・シナリオ | シングルヒット・シナリオ | ||||
---|---|---|---|---|---|
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2020年 | 2021年 | |
OECD諸国 | 5.4 | 10.0 | 9.9 | 9.2 | 8.1 |
イギリス | 3.8 | 10.4 | 10.0 | 9.1 | 7.8 |
スペイン | 14.1 | 20.1 | 21.9 | 19.2 | 18.7 |
アメリカ | 3.7 | 12.9 | 11.5 | 11.3 | 8.5 |
ドイツ | 3.2 | 4.6 | 5.3 | 4.5 | 4.3 |
フランス | 8.4 | 11.3 | 11.2 | 11.0 | 9.8 |
イタリア | 9.9 | 10.7 | 11.9 | 10.1 | 11.7 |
日本 | 2.4 | 3.4 | 3.9 | 3.2 | 3.2 |
出所:OECD公表データより筆者作成
失業率の急激な上昇はイギリス、スペイン、及びいくつかの小規模な開放経済圏でも予測されるが、短期的には一時的な支援プログラムが急激な労働所得の減少を緩和している。アメリカでは前例のない影響が見られ、4月の失業率(季調値)は14.7%と大恐慌以降最も高い数値となった。
より少ない変化はドイツ、フランス、イタリア、日本で予測される。日本ではこれまでのところ、操業停止の時期や程度の違いを反映して労働市場の変化はそれほど顕著ではない。しかし、失業率は上昇しており、向こう半年間の消費者心理を示す消費者態度指数は4月に過去最低を記録した。日本の失業率はダブルヒット・シナリオの場合、2020年第4四半期の4.0%をピークに高止まりする予測だ。
大規模な不況がもたらす複数の傷跡、長期化の可能性も
新型コロナウイルス危機に伴う大規模な不況は、国民所得や個人消費の減少、いくつかの業界における企業の破綻などを引き起こす。OECD諸国の中央値ではダブルヒット・シナリオの場合、一人あたりの国民所得が2020年に9.5%減少する予測だ。2021年にいくらか回復したとしても2013年の水準に留まり、パンデミック前の予測と比べ10.5%以上低い。
個人消費と投資は今年大幅に減少することが予測され、2021年に徐々に回復する見込みだ。OECD諸国では2020年の個人消費の水準がダブルヒット・シナリオの場合10.75%、シングルヒット・シナリオの場合8.5%減少すると予測される。また、OECD諸国の2020年の投資はダブルヒット・シナリオの場合12.75%、シングルヒット・シナリオの場合10.5%減少すると予測される。
ほとんどの国々でロックダウン措置の緩和が始まっているが、戦略は国や地域、業界によって異なる。海外旅行、スポーツ観戦などの幾つかの活動の停止は、多くの経済圏でしばらく続く可能性がある。シャットダウン(操業停止)の影響を最も受けた業界(小売り・卸売り、宿泊・飲食サービス)では、十分な能力がなかったり需要が回復しない場合には、多くの事業が破綻する可能性がある。2019年末時点で特定のOECD諸国、新興市場経済圏の上場企業、および大規模な非上場企業のうち、25%の企業が2020年に期限が到来するすべての債務を賄うのに十分な資金を持っていなかった。
大規模な政策と、国際協力の強化が必要
当該資料を公開したローレンス・ボーンOECDチーフエコノミストは、「回復に向けた綱渡りのために、桁外れの政策が必要とされている」と述べている。また、「経済活動とインフレが落ち込み、失業率が高い限り、緩和的な金融政策と公的債務の増加は避けられない」としつつ、「負債で賄われる支出は最も脆弱な人々や、より強固な経済への移行に必要な投資を支援するために十分に的を絞ったものでなければならない」と指摘した(注2)。さらに、「国際協力なしに完全な世界経済の回復はない」として、国際協力の強化を各国へ呼びかけている。
注
- ヒステリシス(hysteresis)とは、過去に発生したダメージが、その後も長期的に多大な影響を及ぼす現象のこと。「履歴現象」「履歴効果」とも言われる。ここでは、一時的な雇用喪失により技能(スキル)が失われ、高い失業率が長期化して定着してしまう事態に陥る現象を示している。(本文へ)
- OECD諸国では、政府の最終財政支出は2020年に4~4.25%上昇する見込みだ(2018、19年には平均で年間2%程度の上昇だった)。比較的大きな上昇はイギリス、韓国、オーストラリア、日本、ドイツで予測される。(本文へ)
参考資料
- OECD資料 OECD ECONOMIC OUTLOOK Volume 2020 Issue 1
- OECD(2020/6/10) Global economy faces a tightrope walk to recovery
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