最低賃金委員会、コロナ後を視野に4段階の引き上げを勧告

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最低賃金委員会は6月30日、最低賃金(時給)を、2021年1月1日に9.50ユーロ、同年7月1日に9.60ユーロ、2022年1月1日に9.82ユーロ、同年7月1日に10.45ユーロへ、4段階に分けて引き上げるよう政府に勧告した。

コロナ不況下の引き上げ勧告

最低賃金委員会開催の前には、連邦統計局が毎回、それ以前に労使交渉で決定した協約賃金全体の引き上げ率を提示する。今年2月のデータによると、次回は9.82ユーロへ引き上げが示唆されていた。

しかし、その後コロナ禍で急速に悪化した経済状況の中で開催された委員会では、前例のない不況下で引き上げの凍結を求める使用者側委員と、大幅に引き上げることで購買力を高めて消費を増やす重要性を主張する労働者側委員の主張の隔たりが大きく、当初は調整が難航した。

しかし、最終的に、21年1月はコロナ禍による企業への影響を考慮して、現行の最低賃金(時給9.35ユーロ)を基点とした場合、1.6%増の小幅な引き上げ(9.50ユーロ)に留め、1年遅らせる形で22年1月に9.82ユーロへ引き上げ、同年7月にコロナ後の経済回復を見据えて、同11.8%増(10.45ユーロ)へ大幅に引き上げる勧告案で決着した(図1)。

図1:ドイツの最低賃金時給の推移(2015年~2022年) (単位:ユーロ)
図1:画像

この結果について、ドイツ使用者団体連盟(BDA) のシュテフェン・カンペテル会長は「コロナ危機で深刻な影響を受けた経済を回復させるためには、労使ともに長期的な視野に立った雇用の確保が不可欠で、最低賃金はどの産業の使用者にとっても支払える額であることが重要だ。今回の勧告案はそれを満たしている」とする。一方、ドイツ労動組合総同盟(DGB)幹部のステファン・ケルツェル氏は、「調整は難航したが、最終的に委員全員の満場一致で決まった。2年後の7月の最低賃金は、現行から11.8%増加し、労働者の財布も合計で20億ユーロ増えるだろう(注1)」と述べて、労使双方の委員はともにウィンウィンの決着であることを強調した(BDA/DGBサイト、各種報道)。

労働社会相、引き上げを歓迎

フベルトゥース・ハイル労働社会大臣(SPD)は、今回の勧告案を歓迎した上で、今秋には、最低賃金法23条に基づき、最低賃金法全体の見直しのための総合評価を行う予定であることを明らかにしている。

評価の結果次第では、最低賃金委員会の参集頻度(現在は2年ごと)や決定方法について変更される可能性もある。

ハイル大臣は、「今秋の総合評価の結果を待ち、今後はさらに安定的に最低賃金を発展させていきたい」とコメントしている(BMASサイト)。

勧告を受けて、ドイツ政府は今後、数カ月以内に正式な最低賃金の引き上げ額を決定する。

最低賃金委員会の構成と役割

勧告を行った最低賃金委員会は、最低賃金法(MiLoG)に基づき、1名の議長、6名の議決権を有する常任委員(労使各3名)、2名の議決権を持たない学術分野の委員(諮問委員)で構成されている。また、常任委員と諮問委員は、グループ毎に必ず1名以上の男性もしくは女性を含めなければならないとされる(注2)。また、最低賃金の改定額の検討にあたっては、①労働者の必要最低限の生活を保障する額であること、②公正で機能的な条件の競争力を維持できる額であること、③雇用危機を招かない額であること(雇用確保)、④協約賃金の動向に従うこと、の4点を考慮した総合的な評価を行わなければならない(最低賃金法9条)、とされている。

2015年、初の法定最低賃金を導入

ドイツでは、2015年1月1日に全国一律の法定最低賃金(当時時給8.5ユーロ)が初めて導入された。

導入前は、業種別の最低賃金はあったが、全産業に適用される最低賃金は存在しなかった。その代わりに、労使は産別を中心に団体交渉を行い、そこで決定した協約賃金を拡張適用することで、未組織労働者へ波及させてきた。しかし近年、産業構造の変化や労働協約適用率の低下、低賃金労働の拡大などが続き、労使だけで賃金の下限を設定し、その協約賃金を労働者全体に行き渡らせることが次第に困難になった。その結果、約10年の議論を経て、2015年に最低賃金制度が導入された。

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