オンライン司法サービスの展開

カテゴリー:労使関係労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2020年1月

中国のネットユーザーは8.54億人に達し(注1)、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)、ネット検索、ネット購入、タクシー配車アプリ等が広く社会に普及している。インターネット技術を活用した産業や個人向けサービスの急速な発展にともない、政府は、インターネットを活用したさまざまな施策を打ち出している。そのひとつが司法におけるオンライン・サービスの取り組みだ。

「インターネット+行動計画」

2015年3月、李克強(リ コッキョウ)総理は、「インターネット+(プラス)行動計画」を提言した。インターネットやクラウドコンピューティング、ビッグデータ、IoT(モノのインターネット)などの情報技術と現代製造業との融合を推進し、Eコマース、産業インターネット(製造業におけるIoT)、インターネット金融などの健全な発展を促進することを通じて、アリババやテンセントをはじめとする中国IT企業によるグローバル市場の開拓を導くとした。

さらに同年7月、「『インターネット+行動』の積極的推進に関する指導意見」(注2)が提出され、具体的な行動計画が明らかとなった。計画には、11の重要分野 ―①創業・イノベーション、②知的生産(intelligent manufacturing)+生産ネットワーク(manufacturing network)、③現代農業、④スマートエネルギー、⑤金融包摂(financial inclusion)、⑥司法サービス、⑦高効率物流、⑧Eコマース、⑨交通、⑩生態環境、⑪人工知能― が挙げられた。

労働争議のオンライン・サービス ―「インターネット+調停・仲裁」

2016年11月、人力資源・社会保障部(以下、人社)から「『インターネット+人社』行動計画2020」(以下、人社行動計画)が発表された。「人社行動計画」は、総合業務、就業創業、社会保障、人材サービス、権益保障(注3)など複数分野にわたる、48の行動からなる。政府の発表した「インターネット+行動計画」の重要分野に含まれる「司法サービス」は、「インターネット+調停・仲裁」と呼ばれる行動テーマに反映されている。「インターネット+調停・仲裁」では、労働争議案件を巡るオンラインでの裁判申し立て、開廷予約、案件の処理進捗照会などのサービスを提供するとし、労働争議の速やかな解決を目指している。同行動計画の主な内容は表のとおり。

表:「インターネット+調停・仲裁」の行動計画
業務 内容
オンライン調停などのサービス 当事者にオンラインで調停、労働関連の法律・政策情報、処理進捗照会などのサービスを提供し、労働人事争議調停の「馬上弁・網上弁・就近弁」(即処理、オンライン処理、近くで処理)を実現する。
オンライン調停プロセスの標準化 ネットワーク技術などの情報手段を利用し、オンラインでの調停の申請・登録、担当調停機関・調停員の割当て、検証申請、調停などの一連の調停業務を標準化・管理する。
調停員名簿の作成・管理 調停機関や調停員の情報を統合し、調停機関と調停員名簿を作成し、管理する。
データ統計分析の強化 調停サービス・プラットフォームに基づいて、調停データを総合的に収集分析し、調停作業をサポートする。

出所:「北京などの7省・市における『インターネット+調停』の試験的実施」

労働争議のオンライン・サービス実現に向け、2019年1月、人力資源・社会保障部は「北京などの7省・市における『インターネット+調停』の試験的実施」を発表。北京市、黒竜江省、安徽省、河南省、貴州省、陜西省、甘粛省の7省・市を試行地域とし、試験的にネット上の労働争議処理を開始した。計画は、2019年1月から6月までを試行期間とし、7月から8月の間に試行作業の総括と調停サービス・プラットフォームの機能を完成、同8月から「インターネット+調停」サービス・プラットフォームを全国に普及、とされた。

現在は試行期間を終え、ネット調停の全国レベルでの普及を促進するため、「全国労働争議オンライン調停サービス・プラットフォーム新しいウィンドウ」が設置されている。これにより、ほとんどの手続きは窓口に出向かず、インターネットを通じて行うことができる。ネット調停の手順は次のとおり。

《開始》調停の申請 → 担当調停機関と担当調停員の割当て → 検証の申請 → オンライン調停あるいは現場調停の実施 → 判決の登録 → フィードバック《調停完了》

地方におけるオンライン・サービスの展開

広東省政府は、労働争議に関して、2020年までに、省・県レベルの仲裁機構のオンライン処理システムのカバー率を93%以上、省全域のオンライン事件処理率を80%以上、と計画している。さらに、中国の大手SNS であるWeChat(ウィーチャット)の公式アカウント(アカウント名は「粤省事」)を活用し、広東省の「電子政府」として、オンラインで調停・仲裁申請、処理予約、事件処理進捗照会などのサービスを提供している。また、調停請求の変更や審理中止、仲裁文書の電子版配信などのサービスを開発中である。

浙江省政府は、「オンライン上の多様な争議解決プラットフォーム新しいウィンドウ」(Online Diversified Dispute Resolution Platform)というウェブサイトを開設した。オンラインでの相談、評価、調停、仲裁(の申請)、訴訟などのサービスを提供している。さらにスマホから、Wechatの公式アカウントを通して同様の情報やサービスを受けることも可能となっている。

労働争議の調停と仲裁それぞれのサービス内容について全国的な状況を確認すると、オンライン調停は、申請から証拠提供、ビデオ通話調停、判決まで、オンライン上で解決できる仕組みが作られているが、オンライン仲裁はオンライン申請などの初期段階までの対応に留まっている。そのような中、今年11月12日、浙江省は「インターネット+調停・仲裁」オンラインプラットフォームを設置した(画像は同ポータルサイト)。これは、労働争議の調停・仲裁に対して、情報提供、法律援助のほか、窓口に行かなくても、すべての調停・仲裁の手続きをオンライン上で受けることを可能とした全国で初の試みである。

図:浙江省労働人事争議調停仲裁サービス・プラットフォームのポータルサイト
画像:図

出所:上記ポータルサイト新しいウィンドウより

「インターネット+訴訟」も開始

ネットビジネスの盛況で、これに関連する訴訟も急増中だ。プラットフォームでは、労働争議のほかに、Eコマース、ネットワーク・サービス契約、金融(借金、少額ローン)、オンライン上の著作権侵害などに関わる訴訟も扱われる。

2017年8月18日、杭州市で全国初のネット裁判所が設置された。杭州ネット裁判所では、訴状受付、訴状受理、送付、証拠交換、開廷前の準備、開廷、判決などの一連の訴訟手続きを、基本的にすべてオンライン上で行うことができる。2019年9月8日までに、杭州ネット裁判所では67337件の立件申請、28307件の訴訟受理が行われ、判決件数は22215件に上る。平均開廷時間が65%まで節約できたという。2018年9月には、北京ネット裁判所と広州ネット裁判所が、相次ぎ設置された。2018年9月9日から2019年8月31日まで、北京ネット裁判所は34263件の訴訟を受理し、25333件の判決が下された。平均開廷時間が37分、平均審理期間が40日であった。また2018年9月28日から2019年9月28日まで、広州ネット裁判所は、平均開廷時間が25分、25名裁判官で1人あたり1118件の判決を下し、全国1位となった。

参考文献

  • 中国政府網、国務院弁公庁、人力資源と社会保障部、最高人民法院網など

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