企業の経営分析に情報技術の活用
 ―雇用喪失抑制への期待

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2019年12月

経営難に陥っている企業を情報通信技術や人口知能(AI)などによって顕在化し、倒産を未然に防ぐことで雇用の喪失を防ぐ試みをフランス政府が始めた。

公的機関の膨大なデータの組み合わせ基づく分析

フランスでは年間、6万社の中小・零細企業が倒産している。2012年に生産性回復委員会(注1)が設立され、経営が困難に直面している企業のうち、特に従業員400人未満の中小零細企業を支援するための取り組みが政府によって始まった。2016年からはDIRECCTE(企業・競争・消費・労働・雇用局)とURSSAF(社会保障及び家族手当に関する保険料徴収連盟)の主導によって、企業の倒産リスクを浮き彫りにするツールの開発がすすめられた。この施策はフランス東部のブルゴーニュ・フランシュ・コンテ地方で実施された。

SIGNAUX FAIBLES」(シニョー・フェーブル、直訳すれば、「わずかな兆し」)と名付けられたこのツールは、AIを駆使して、企業の経営状態を顕在化し、今後18カ月以内の倒産リスクを検出するというものである。2017年からDINSIC(注2)(政府や公共サービスにおける情報通信技術の利用促進を進めている省庁横断組織)の支援及びフランス銀行(中央銀行)のデータ供給により、ブルゴーニュ・フランシュ・コンテ地方で試験運用されてきた。

「シニョー・フェーブル」は、URSSAFやDIRECCTE、フランス銀行など様々な公的機関が持つ膨大なデータを処理することによって経営状態を分析する。その特徴はこれまで単体で収集活用されていた各機関のデータを組み合わせることにある。これにより従来にはない分析結果が得られるようになった。

具体的には従業員の離職、部分的失業の増加(注3)、社会保険料の納付状況、請求書の未払い等が複合的に分析されることになる。その分析結果で経営難に陥る可能性が高いと判断された企業には、政府(注4)やDIRECCTE、URSSAF、フランス銀行などの企業活動支援を担当する職員が派遣される。経営再建には、地元の地方圏議会やフランス投資銀行、商事裁判所などと連携しながら、必要な最もふさわしい解決策、例えば、組織再編成や融資、債務整理、技能開発や職業訓練、経済的理由の解雇の回避などが提案される。

2018年には、このツールによって、同地方の8県の63社の経営状態悪化の兆しが検出された。そのうちの48社を行政担当者が訪問し、経営者とともに経営状態の分析を行い、83%の企業に対して再建策を実施した(注5)

行政組織の垣根を排除した取り組みに期待

「シニョー・フェーブル」は、ブルゴーニュ・フランシュ・コンテ地方以外に、南西部のヌーベル・アキテーヌ地方やオクシタニー地方、南東部のオーベルニュ・ローヌ・アルプ地方、北部のオート・ド・フランスで展開されていたが、2019年中に、全国に展開されることとなった。

従来の経営再建プログラムでは、支援が必要となる企業の経営状態は、問題が顕在化した時点では手遅れとなっている傾向があった。今回決定された全国展開に対して、経済財務省企業総局長は、企業の経営上の問題を早期に把握することによって、政府としても早期に企業支援が可能となり、倒産件数を減少させ、ひいては雇用喪失の回避につながると強調している(注6)

「シニョー・フェーブル」は、公共サービスを担う国の行政組織・機関の垣根をなくし、様々なデータを結集する取り組みとしても注目されている。

(ウェブサイト最終閲覧:2019年12月16日)

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