社会保険料率の引き下げ続く

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2019年7月

2019年4月1日、国務院は社会保険料率引き下げ措置(以下:「措置」)を通知した。景気安定を重視する政府は、都市部従業員基本養老(年金)保険料率の新たな引き下げや、失業・労災保険料率引き下げの適用期間延長などを施行し、企業の負担減少を目指す。その他、中央政府による年金基金の地域間調整および社会保険料徴収制度の一元化についても定めた。

社会保険料率の引き下げ政策

1997年に導入された都市部従業員基本養老(年金)制度において、年金保険料率は「企業が賃金総額の20%前後(地方政府の裁量で決定)」、「従業員が個人賃金の8%」と定められている。しかし、2016年5月以降、国務院は段階的に企業負担部分の年金保険料率を引き下げる措置をとってきた(20%を超える地域では20%まで引き下げ、20%の地域では一定の条件下、19%まで引き下げることを認めた)。今回の「措置」(注1)により、2019年5月1日以降、都市部従業員基本養老(年金)保険料率(企業と政府系事業組織を含む)の企業負担部分が、16%まで引き下げられた。

また期限付きで施行中の「失業保険料率の引き下げ」も再度延長することが決定した。失業保険は、企業負担と個人負担による納付が必要である。保険料率は地域によって異なる。企業負担が2%以下、個人負担が1%以下のところが多かったが、2015年3月に合計保険料率が3%から2%へ、2016年5月に2%から1~1.5%へ段階的に引き下げられた。また、2017年1月、一年間の暫定措置として、合計保険料率が1.5%の地域において、1%へ引き下げられることとなった。その後、この適用期限が、2019年4月30日まで延長されていたところ、今回さらに、2020年4月30日まで延長となった。

労災保険料(注2)についても引き下げが行われた。これは個人負担がなく、企業負担のみの社会保険である。労災保険については、まず2015年10月、業種別に8段階の異なる料率(0.2%、0.4%、0.7%、0.9%、1.1%、1.3%、1.6%、1.9%)が設定され、実質的な引き下げが行われた。その後、2018年5月1日から2019年4月30日の期限で、労災保険料率が引き下げられたが、今回の「措置」で、2020年4月30日まで引き下げの適用期限が延長された。労災保険料率の引き下げ規定に関しては、労災保険基金の累計残高の支給月数が18~23ヶ月に達した場合、当該地域の労災保険料率が現行率基準より20%引き下げられ、支給月数が24ヶ月以上に達した場合、同50%引き下げられる。

年金基金の地域格差の是正

従前の年金基金は、国内で統一的な管理・運営下に置かれず、各地方政府に委任された状態であった。地域間で経済発展の不均衡が進むと、若者が故郷を離れ、高齢者人口が高い地域が現れるなどして、地域間で年金徴収額・年金基金残高に大きな差異が生まれた。その格差是正に向け、2018年7月1日から、企業従業員基本養老保険(年金)基金の中央調整制度が開始された。中央調整制度は、各地域からの基金の徴収・配分、管理および財政補助などを規定する。そのなかで、新たに「中央調整基金」が設立された。「中央調整基金」は各省の年金基金から上納金を集め、その総額を一定の計算式に基づいて各地に配分する。すなわち、より黒字の地域から赤字の地域に資金が流れる仕組みとなっている。各地域の上納比率は3%と設定されており、半年間で全国の徴収額は2422.30億元に達した(表1)。上納された額(徴収額)が最も多かった地域は、広東省、江蘇省、北京市、浙江省、山東省、上海市で、全体の半分以上を占めた。一方、配分を最も多く受けた受益地域は、遼寧省、黒竜江省、四川省、吉林省、湖北省だった。

年金保険料の企業負担部分の引き下げに伴い、年金基金残高が赤字の地域、あるいは年金基金の支出が収入を上回る地域の財政が一層悪化することが予想される。「措置」は、こうした年金基金の地域間格差を防止するため、各地域の上納比率を3%から3.5%に引き上げることを定めた。これにより、地域間の年金基金格差を緩和し、地域間の年金基金給付負担の均衡を図る。

表1:年金基金の中央調整制度実行状況 (単位:億元)
地域 徴収額 配分額 差額
広東省 370.8 133.8 237
北京市 197 65.6 131.4
浙江省 190.9 136.6 54.3
江蘇省 239.4 185.6 53.8
上海市 165.2 114 51.2
福建省 78.9 35.7 43.2
山東省 169.3 129.9 39.4
チベット 3.2 3.2 0
雲南省 37.3 37.3 0
貴州省 36.3 36.3 0
新疆ウイグル自治区 24.6 25.9 -1.3
青海省 6.1 8.4 -2.3
海南省 12.2 15.1 -2.9
寧夏回族自治区 9.6 13.2 -3.6
天津市 42.3 48.2 -5.9
新疆建設兵団 9 31 -6.5
河南省 84.2 91.7 -7.5
陝西省 42.7 51.6 -8.9
甘粛省 20.7 31 -10.3
安徽省 54.4 69 -14.6
広西チワン族自治区 36.5 51.1 -14.6
江西省 50.6 66.7 -16.1
山西省 32.7 50.3 -17.6
重慶市 65.2 84.7 -19.5
河北省 58.2 88 -29.8
内モンゴル自治区 27.5 58 -30.5
湖南省 53.2 87.6 -34.4
湖北省 76.5 122.7 -46.2
吉林省 29.5 78.6 -49.1
四川省 98.6 187.5 -88.9
黒竜江省 34.2 126.1 -91.9
遼寧省 65.5 173.4 -107.9
合計 2422.30 2422.30  

注1:調整期間:2018年7月1日~2018年12月31日

注2:差額=徴収額―配分額

社会保険料徴収制度改革と企業負担軽減のバランス

「措置」は、社会保険料の徴収・管理に対して、企業利益に反しない範囲で、漸進的な形で管理の一元化を進めるという、以前の規定を若干修正する内容も含んでいる。

社会保険料の徴収作業は、もともと地域によって、社会保険機構か税務局かのいずれかに任せされていた。しかし、社会保険機構は企業従業員賃金の状態を把握しておらず、保険料徴収の際に適正な保険料を徴収できないケースが少なくなかった。これを是正するため、2018年7月「国税地方税徴収体制改革法案」(注3)により、2019年1月1日に各地域の税務機関へ徴収業務が移管することが定められた。この場合、企業に社会保険料の負担がこれまで以上にかかる可能性がある。

従って、今回の「措置」では、政府系事業組織の社会保険費用と都市農村住民基本養老(年金)保険、基本医療保険の徴収は、2019年1月1日から各地域の税務機関へ移管されるが、企業従業員社会保険料の徴収に関しては、原則として現行の徴収体制を継続的に行うという「成熟一省、移行一省」(地域ごとに、徴収状況が安定したら、地域の税務機関に移管する)の方針が明確にされた。すなわち、養老保険徴収の税務機関への一斉移管は見合わされた。

企業従業員基本養老保険(年金)基金の徴収・配分、基金管理などの一元化は、2020年末までに実現することが目指されている。

参考資料

  • 中国政府網、中国国家税務総局、新華網、経済日報、第一財経.

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