2019年の最低賃金、月額182ドルに
2019年1月1日から適用される最低賃金が、月額182ドルに決まった(注1)。現行の額は170ドルから7.1%の上昇となる。
首相の5ドル上乗せにより労組提案額に
カンボジアの最低賃金の改定は、政労使3者の代表28名からなるが労働諮問委員会(Labour Advisory Committee)で審議される。その審議結果が労働・職業訓練大臣に対して答申され、最終的には首相によって決定される。今回の委員会では、当初、使用者側は177ドルを提案し、労働組合側は189ドルと182ドルの提案があった。話し合いの結果、労働組合側は、182ドルを提案することとなった。10月4日の委員会での投票の結果、使用者側案が多数を得て、労働・職業訓練大臣に答申された。この結果を受けて、フン・セン首相は、最終的に182ドルとすることに決定した。これは、委員会の答申の額に5ドル上乗せする政治的な判断であり、2016年の改定から恒例となっている。
2016年以降、引上げ率の低下
最低賃金は、2013年から2015年まで急激に引上げられた(図表1参照)。2013年の改定では31.1%の引上げ、2014年は25.0%引上げ、2015年は28.0%引上げだった。2016年の改定の審議から、客観的基準(注2)が用いられるようになり、2016年の引上げ率は9.4%、2017年は9.3%、2018年は11.1%と、引上げ幅は落ち着きを見せている。2018年は総選挙が実施される年だったため政治的判断も影響して、2018年1月の改定では、若干、引上げ率が上がった。今回の2019年の改定は、近年では低い引き上げ率となった。
図表1:最賃額と引上げ割合の推移(1997年~2019年)
出所:政府発表資料より作成
最賃引上げによる直接投資への影響を懸念する声
生活水準の向上や消費拡大のために、最低賃金の引き上げは必要不可欠だが、急激な引上げは諸外国からの直接投資に影響を与えることになるため、懸念材料となっている。
カンボジアの最賃水準は周辺国と比較して相対的に高いと指摘する声もある。労働集約型産業に依存するカンボジアは、海外直接投資を誘致するために周辺国よりも賃金水準を低く抑える必要性が指摘されている。2012年にタイ・プラス・ワンの目的から、カンボジアに生産拠点を構えた日系企業によると、カンボジアの賃金水準はタイと比較して3分の1程度だったことが魅力だったが、最近は6割程度にまで上昇しているという。
ただ、既述のとおり2016年の最低賃金の改定からは、客観的基準に基づく引上げ額の算定を行っており、政労使にとって妥当性の高い決定方式が定着しつつあると言える。
注
- 実際の手取り最賃額は、通勤手当7ドルと皆勤の場合の手当10ドルを含めれば、199ドルとなる。(本文へ)
- 客観的基準とは、インフレ率、生計費、家族の状況という社会的基準とともに、生産性、競争力の確保、労働市場の状況、各産業部門の利益率という経済的基準の7つの要素からなっている。(本文へ)
参考資料
- Kong Meta, Minimum wage for 2019 set to be decided, 5 October 2018., Phnom Penh Post
- Ven Rathavong, New minimum wage now $182, Khmer Times, October 5, 2018ほか。
(ウェブサイト最終閲覧日:2019年1月11日)
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