移民・難民に関する法改正

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  • 国別労働トピック:2018年12月

移民と難民に関する制度を改正する「移民管理及び難民保護に関する法案」が2018年8月1日に下院で可決された(注1)。この法案は、不法移民に関する対策強化、難民保護申請に関する行政手続きの期間短縮のほかに、高度外国人材の受入促進を目的としている。

不法滞在者の規制強化

移民管理及び難民保護に関する法における不法滞在者の取り扱いの主なポイントは次の3点である。①許可証不所持者の合法確認のための拘束時間を現行の16時間から24時間に延長する。②指紋の押捺を拒否した場合、国外退居処分とする。③不法移民の拘留期間は現行では最長45日だが、状況に応じて90日間まで延長できるとする。外国人が公共の場で職務質問を受け、有効な滞在許可証を所持していない場合、警察は身柄を拘束して身分確認の手続きに入る。犯罪者やテロリストなどの危険人物を誤って釈放しないために、不法滞在者の送還に必要な出身国政府への照会、帰国手続きに要する日数を加味したかっこうだ。

難民保護申請の手続迅速化

難民申請の審査期間の短縮のため手続きを改善し受入態勢を整え、平均6カ月以内にすることを目指す改正も盛り込まれた。これは、2017年に新規の難民保護(庇護)申請数が10万人に達し、申請から認定または却下までに要した日数が平均で約15カ月となっている実状に対応したものだ。申請の可能な期間を従来の入国後120日間までから90日間に短縮し、申請が却下された場合の全国庇護権裁判所に対する異議申し立て可能な期間を30日間から15日間に短縮する。申請の条件を厳しくする内容も盛り込まれている。現在、難民保護申請はパリ首都圏集中している。それを各地方圏に分散する措置も盛り込まれた。申請者は受入が認められた地方圏に居住することが義務づけられ、違反した場合は住居や難民保護申請者手当の権利を失う。この他、難民認定が却下された者が「補充的な保護」(注2)と認められた場合、滞在許可証の有効期間を従来の1年から4年に延長されることになる。

高度外国人材の滞在促進

有能な外国人材の受け入れ促進策も盛り込まれた。「才能者パスポート制度」と学生や研究者の受入と卒業後の定着の促進がその具体策である。「才能者パスポート制度」は、革新的な企業の従業員やフランス社会への貢献が期待できる人材の滞在の促進を目的としている。学生や研究者の受入と定着の促進には、学業修了後に一定水準以上の能力がある者に対するフランス国内の就職支援が行われる。

法改正の背景―難民の急増と難民間の衝突

フランス南東部イタリア国境に接するオートアルプ県では、イタリアから西アフリカ出身の難民の流入が急増している。イタリアに送還された難民の数は2017年には1900名となり、前年の315名から大幅に増加した。地中海沿いの仏伊国境地帯の警備が強化され難民の流入が難しくなったため、難民は海岸線の北方から越境を試みている。オートアルプ県では4月21日から22日の週末にかけて難民のフランス入国を巡り、極左と極右の両グループの活動によって混乱が起きた(注3)

混乱はドーバー海峡に面したカレーでも起きている。イギリスへの密航を計画して野宿中の500人から800人のアフガニスタンやエリトリア、スーダン出身者の間で衝突が2月に起き、負傷者が発生した(注4)。原因は、アフガニスタン系とアフリカ系の間で食事の配給場所をめぐってのものだった。警察との緊張状態も続いており、支援団体の食糧品の配給時に警察が催涙ガスを使用するなど非人道的な行動が問題となっている。

改正法には与野党から反対の声も

改正法には多くの反対の声が上がっている。労働総同盟(CGT)の全国庇護裁判所(CNDA)代表は、難民保護申請が却下された場合の意義申し立て可能期間が短縮について、書類準備、弁護士との連絡、法定翻訳などの実務の現実を踏まえると異議申し立てが事実上不可能となると指摘している。政権与党の国会議員や大統領に近い有識者の間では、法案が難民や移民に対して抑圧的であると批判している。一方、右派は移民や難民に対して寛容過ぎるとして、移民政策の基本を再検討する必要な時期に小刻みな改正は無意味と批判している(注5)

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