不当解雇補償額に関する労働法典改正の影響

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  • 国別労働トピック:2018年9月

2017年9月の労働法典改正によって、不当解雇の補償額に上限と下限が設定された(注1)。これまで不当解雇で訴訟になれば、高額な補償額の支払いを命じられる可能性があり、企業が経営判断による解雇に踏み切れない場合が多くあるとされていた。今回の改正で解雇に要する費用を事前に予測することが可能となり、従来よりも費用が低くなるとされている。企業経営の柔軟性を高め、経済の活性化をめざす改革とされているが、不法な解雇の乱用を懸念する声もある。

勤続年数2~5年の場合に引き下げの可能性

司法省の不当解雇に関する調査結果によると、労働裁判所から出される補償額は、勤続2年から5年の場合、平均で月給8カ月相当であり、勤続20年以上の場合は15カ月相当であった(注2)。今回の改正は勤続年数に基づいて補償額の上限と下限が法律で規定されている。勤続年数が2年から5年の場合、上限が月給の3.5カ月から5カ月に設定されたため従来よりも引き下げられるケースが出てくる(図表参照)。その一方で、勤続年数が20年以上の場合、補償額の平均と今回の上限額とほぼ同じ水準のため大きな影響はないとされている(注3)

図表:解雇補償額の改正前と改正後の違い
改正前 改正後
勤続年数 補償額(平均) 勤続年数 補償額下限 補償額上限
2年~5年 8カ月 2年~3年 3カ月 3.5カ月
4年~5年 5カ月
20年以上 15カ月 20年~21年 15.5カ月

出所:政府発表資料および新聞報道等より作成。

使用者側にとって利点を考えれば、従業員規模の大きな企業で高額な補償金を支払うケースがあったため、従業員規模で300人以上の大企業が改正の恩恵を受けるとされている。

労相は労使双方にとって利益、労組には否定的な見方も

ペニコー労相は、解雇補償金の上限額設定は、雇用労働者と使用者の双方にとって利益となるとしているが、労組の中には否定的な見方もある。確かに、解雇補償金の最低額は従来、規定されていなかった従業員数10人以下の労働者が今回の改正で対象に加えられるものの、補償額は0.5か月分から3カ月分という少額にとどまる(勤続年数が1年以上3年未満の場合0.5カ月分、11年以上でも3カ月分)。しかも、従業員数11人以上の企業では、勤続年数2年以上の場合の最低額が従来の6カ月分から3カ月分に引き下げられるなどの不利益変更が行われるかたちだ。こうした状況に加えて、上限設定によって解雇が乱用されるようになり、雇用が一層不安定になると労働総同盟(CGT)は指摘している(注4)

高齢者に影響の懸念

労働裁判所で不当解雇が争われた判例を検討してみれば、勤続年数が短い場合や高年齢の補償額の引き下げの懸念が浮かび上がってくる。

従業員10人以下の家具店で働いていた勤続年数が1年強の56歳女性が解雇された判例では、再就職が困難な高年齢が考慮され10カ月分の補償額となった。しかし、下限が0.5カ月、上限が2カ月となる今回の法改正に従えば、大幅な引き下げとなる。

情報サービス産業の大手企業で勤続15年だった61歳男性は、年金受給開始まで数年残っているという状況を考慮されて、20.5カ月分の補償額が認められた。この場合3カ月分から13カ月分に引き下げられる。

労働者側は補償額の減額に対抗するために、年齢差別による解雇として訴えることもできる。今回の改正による上限適用対象外となる差別やハラスメントを伴う解雇として労働者側が訴える余地が残されており、今後、増える可能性がある(注4参照)

(ウェブサイト最終閲覧日:2018年8月28日)

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