最低賃金の引上げを検討する委員会の設立

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  • 国別労働トピック:2017年9月

ミャンマーには最低賃金を定める法律(1949年最低賃金法)があったものの、50年以上の間、実質的な効力がない状態だった。そのため軍事政権から民政移管後の2013年に実効性をもたせる目的から新たな法律が制定され、2015年9月から全国一律で日給3,600チャットとして施行されている。法律は2年に一度の最賃額の見直しを定めており、2017年2月、引き上げを検討する委員会が設立された。

2015年の最賃施行から2年が経過

ミャンマーの最低賃金法は、イギリスから独立後間もない1949 年に、イギリスの1945 年賃金委員会法とインドの1947 年最低賃金法を引き継ぐ形で制定された。しかし、50年以上の間、実質的に機能する制度ではなかった(注1)。2011年に政権が軍政から民政に移行したことを契機として、新たに2013年最低賃金法が制定された。最賃額は、政労使からなる全国最賃委員会の議論に基づいて決定される。委員は労働、農業、畜産、経済、商業、生産、社会政策関連の省庁や労使団体からの代表者のほか、労使に対して中立的な立場の賃金専門家を含めることができる規定となっている。現在の最賃額は日給3,600チャット(約293円(7月31日時点))であり、2 年ごとに見直すことができる(注2)

2015年の施行から2年を経過して最賃の改定が話し合われることになり、新たに全国最賃委員会が設立された。労働・入国管理・人口大臣を委員長として、政府からは農業・畜産水産・灌漑省、運輸・通信省などの副大臣や事務次官が参加し、労使からは全ミャンマー労働連盟や手工業・サービス労働者連盟、縫製業者協会や小売業者協会などから代表が参加するほか、研究機関から経済学の専門家もメンバーに名を連ねている(注3)

現行3,600チャットでは生活が困難だとして労働者がデモ

2年前に定められた最賃額は、労使双方から不満の声が上がっていた。労働者側は人間らしい生活を送るためには不足しているとする一方で、使用者側にとっては最賃額が高すぎるために事業の継続が難しいということが不満の中身だった。

労働者側は、2015年9月の施行当初から4,000チャットを求めるデモを行っていた(注4)。この動きは今回の最賃委員会設立を受けて高まっている。2017年3月19日にはヤンゴン市内で1500人の労働者が5,600チャットの最賃を要求してデモ行進を行った(注5)。 ミャンマーのインフレ率はここ数年、8~12パーセントで推移しており、ヤンゴン市内では10平米程度の住居費だけでも月7万チャット程度かかる。食費や光熱費、医療費などの諸経費を考えれば、日給3,600チャットで生活するのは難しいということが引上げを求める根拠になっている(注4参照)

縫製業では工場を閉鎖する企業も

一方使用者側は、縫製業を中心として低賃金の産業ではコストの引上げが利益に見合わないとして閉鎖される工場もあった(注6)。2015年当時、縫製業の労働者の平均日給は1,500から2,500チャット程度だった。新規採用の未熟練労働者の賃金を以前の4~5倍にする必要がある企業もあった。整理解雇により人件費を削減する工場もあり、深刻な経営危機に陥る例も見られた。諸手当を廃止したことから、労使紛争に発展するケースもあった。

地域別・業種別最賃も検討

現行の最賃制度は全国一律に定められており、地域間や業種間の賃金水準の格差への対応がなされていない。額の設定に物価水準が反映されていないことや、委員会での議論の過程が非公開だったことが問題視されている。2017年の最賃額決定ではこの点を課題として議論が進められる(注7)

(ウェブサイト最終閲覧日:2017年7月31日)

参考レート

  • 100ミャンマーチャット(MMK)=8.1004円(2017年9月5日現在 Exchange-Rate.org新しいウィンドウ)

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