最低賃金とひとり親をめぐる議論

カテゴリー:雇用・失業問題非正規雇用労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2017年8月

ひとり親の賃金が最低賃金と同じ水準である場合、フルタイムで働いたとしても、生活に必要な収入を得られないことが、政府の試算で明らかになった。

フルタイムでも暮らせない

今回の試算は、野党である左派党(Die Linke)の質問に対して、連邦労働社会省(BMAS)が明らかにしたもの。それによると、最低賃金(時給8.84ユーロ)で、フルタイム労働をした場合、月に約1,444ユーロの収入を得ることができる。ここから税金、社会保険料、生活費(注1)を差し引くと、家賃と暖房費にかけられる金額は、残り339ユーロになる。公的な統計では、6歳未満の子どもがいるひとり親世帯が必要とするその額は、月平均457ユーロであり、毎月かなりの赤字になってしまう。また、実際に6歳未満の子どもがいるひとり親世帯の9割(87%)は、最低レベルの所得階層におり、貧困リスクが非常に高い(注2)

必要最低限の生活保障額とは

ドイツの最低賃金は、2015年1月1日に時給8.5ユーロで導入され、2017年1月1日に8.84ユーロに引き上げられた。最低賃金を決定する際には、最低賃金法(MiLoG)9条に基づき、以下の4つの側面を考慮しなければならない。

  1. 労働者の必要最低限の生活を保障する額であること
  2. 公正で機能的な条件の競争力を維持できる額であること
  3. 雇用危機を招かない額であること
  4. 労使が妥結した労働協約賃金の動向に従うこと。

現地の報道(Deutsche Welle)によると、上述の1の点について、左派党のクラウス・エルンスト副総裁は声明の中で、「最低賃金でフルタイム働いても、必要最低限の生活費を稼ぐことができないのは、おかしい」と批判する。その上で、最低賃金を時給12ユーロに引き上げるよう求めている。「そうすれば低賃金雇用の拡大を抑制し、労働者が部分的に福祉給付に頼ることなく、最低限の年金確保にもつながる」と同氏は主張する。

政府、最賃導入の成果を強調

左派党の批判に対して、連邦労働社会省(BMAS)は、最低賃金の導入で何百万人もの労働者が恩恵を受けた点を強調する。さらに、労働者の生活保障以外にも、「競争力維持」や「雇用確保」の面も考慮する必要があり、最低賃金委員会(注3)において2年毎に金額が再評価される点などをあらためて説明した。

増加するひとり親、4割が福祉に依存

連邦統計局によると、ひとり親世帯の割合は、2014年時点で20%に上る。つまり、子どもがいる世帯の5人に1人はひとり親世帯である。この割合は1996年の14%から6ポイント増加した。また、ベルテルスマン財団の調査によると、ひとり親世帯の4割近く(39%)は、「求職者基礎保障(ハルツIV)」と呼ばれる福祉的給付に依存している。「求職者基礎保障」は、主に長期失業者やその家族の生活保障を目的とした制度である。同制度では、求職者本人に「失業手当Ⅱ」を、同一世帯の就労能力のない家族に「社会手当」を給付する(表1)。

表1:求職者基礎保障の標準給付額(月額)(単位:ユーロ)
受給資格者 2017年
単身者(成人1人あたりの標準月額)、単身養育者(ひとり親)の受給資格者 409
家計を一つにして同居するカップル 368
独自の家計を営まない、またパートナーと家計を一つにしない成人の受給資格者 327
14歳から18歳未満の若者 311
6歳から14歳未満の子供 291
0歳から 6歳満の子供 237
  • 出所:BMAS (2016)

上述のベルテルスマン財団の調査によると、ひとり親の大多数は母親で、約半数は元配偶者から養育費等の財政的支援を受けていない。また、ひとり親の多くはパートタイムで、平均週30時間働いている。これは働く母親全体の平均より4時間長い。

調査を担当したフンケ研究員は、ひとり親世帯の増加と貧困問題に対処するため、最低賃金を含む包括的な政策が必要だと結論付けている。

参考資料

  • Bertelsmann Stiftung (2017)Alleinerziehende unter Druck, Deutsche Welle(13.1.17, 20.10.14), BMAS,BMFSFJほか。

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