組合活動の規制を強化

カテゴリー:労使関係

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2017年7月

政府が5月末に公表した労働組合の組織状況に関する統計によれば、2016年における労働組合員数は前年から27万5000人と記録的に減少して621万6000人となり、組織率は1.2%減の23.5%となった。調査開始以降で最大となる減少は、政府の歳出削減策に伴い、教育業で人員削減や非正規労働者が増加している影響が大きいとみられる。労働争議の参加者数や損失日数も低い水準で推移する中、政府は昨年成立した労働組合法に基づき、この3月から、労働組合に対するさらなる規制強化を進めている。

組合員の減少は歳出削減が影響か

労働組合員数は、1970年代末以降減少が続いており、過去20年間で組合員数は696万2000人(1996年)から2016年には621万6000人に、また組織率は34.1%から23.5%に、それぞれ低下している(図表1)。この間、2000年代の前半には、公共サービス関連部門(教育、行政、保健・福祉など)を中心に組合員数の増加もみられたものの、製造業における継続的な減少を背景に、民間部門では減少が続いた。また、金融危機以降の民間部門(製造業のほか、建設業、運輸・倉庫業、金融保険業、情報通信業など)における急速な減少と、続く歳出削減の時期における公共部門での減少が、組合員数をさらに押し下げる要因となった(図表2)。

調査開始以降で最大の減少幅となった昨年からの減少(27万5000人減)は、その大半が教育業(15万5000人減)で生じたものだ。正確な理由は不明だが、労働組合は、教員の高い離職率や、補助教員の大幅な削減、継続教育カレッジや高等教育機関における臨時雇い労働者やパートタイム労働者の増加、さらにここ数年の賃金抑制策により給与水準が停滞する中で、組合費を負担に感じる労働者が拡大している可能性などを指摘している。

図表1:労働組合員数と組織率の推移 (千人・%)
図表:画像

  • 出所:Department for Business, Energy and Industrial Strategy (2017) "Trade union membership 2016"

図表2:業種別労働組合員数と組織率の変化 (千人・%)
図表:画像

  • 出所:Department for Business, Energy and Industrial Strategy (2017) "Trade union membership 2016"

なお、統計局が公表している労働争議に関する統計によれば、労働損失日数は90年代以降、低い水準で推移しており、労働争議の参加者数についても、2015年には約8万人と120年ぶりともいわれる低水準に達している(図表3)。

図表3:労働争議参加者数と労働損失日数の推移
図表:画像

  • 出所:Office for National Statisticsウェブサイト

ストライキの実施をより困難に

こうした中、昨年5月に成立した労働組合法に基づき、労働組合に対する各種の規制強化策の導入が3月から開始された。公共部門ではここ数年、歳出削減の一環として実施されている賃金抑制や人員削減、年金に関する条件の切り下げなどをめぐって、労働組合によるストライキやデモが発生しており、政府は新たな規制の導入をこうした状況への対応策と位置づけている。

3月に導入された制度改正の柱は、ストライキの実施手続きに関する規制強化だ。労働組合には、ストライキに先立って組合員に実施の賛否に関する投票を行うことが義務付けられているが(注1)、従来は投票率にかかわらず、投票者の過半数が賛成票を投じることが要件となっていた。新たな規制は、対象となる組合員による投票率が50%以上であることを投票成立の要件とするもの。これを下回る場合、ストライキの実施は違法となり、雇用主はストライキによって生じた損失を労働組合に請求することができる。特に、医療、教育、消防、交通、入国管理といった「重要性の高い」公共サービス部門については、組合員全体の4割相当の賛成を義務付ける(注2)。投票には有効期限を設け、ストライキ等を実施しないまま6カ月(雇用主の合意がある場合は9カ月)を経た場合は、改めて投票を実施しなければならない。このほか、投票用紙には、交渉の争点や、賛否を問う行動の内容(争議、争議未満の抗議行動など)および期間を含むより詳細な情報を記載することが求められる。

また、ストライキの実施に際して、使用者側に行うこととされている事前通告の時期も、従来の7日前から14日前に延長されている(注3)。ピケッティングの実施に際しては、代表者を決めて警察当局に連絡先などを登録することが義務付けられる。政府は、ストライキに参加しない労働者に対する脅迫や嫌がらせの予防をその目的に挙げている。

このほか、労使団体の活動の監査を目的として設置されている認証官(Certification Officer)の権限が強化された(注4)。労使団体により詳細な活動報告を義務づけるとともに、監査に際して要件とされていた組合員等からの苦情や通報がなくとも(さらに、雇用主やメディアなど第三者からの通報によっても)、監査を行う権限が与えられた。また、監査制度の運用に関して労使団体に負担金の拠出が義務付けられることとなった(注5)

組合費徴収や職場委員の活動にも規制を強化

ストライキ以外の活動についても、各種の規制の導入が予定されている。例えば2018年3月には、組合員から徴収される組合費のうち、政党への献金や、組合・非営利団体等の政治的な活動などの財源となる「政治基金(political fund)」に関して、組合員の合意(opt-in)が義務付けられる。現在、486万人の組合員から年間でおよそ2450万ポンドの基金が徴収され、多様な活動のほか、一部は労働党への献金にも充てられており、その財源に影響を及ぼすとみられる(注6)。加えて、公共部門における組合費のチェック・オフについても、実施にかかる費用を労組による負担とするほか、組合員がチェック・オフ以外の方法によって支払いを行うことができるよう対応することが求められることになる(注7)。

また、公共部門における労働組合の職場代表の活動時間を制限する制度改正も、今後の実施が想定されている。国務大臣は、公共部門の雇用主に対して、職場における組合代表の数や就業時間に占める組合活動時間(facility time)の割合などの情報の公表を求めるとともに、この割合を制限する権限を雇用主に付与する二次法の制定を行うことができることになる(注8)

参考資料

参考レート

2017年7月 イギリスの記事一覧

関連情報