半数近くのミニジョブが最低賃金未満
―WSI分析

カテゴリー:非正規雇用労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2017年5月

2015年1月1日にドイツでは史上初の法定最低賃金(時給8.5ユーロ)が導入された。しかし、経済社会研究所(WSI)の調査によると、導入後も、ミニジョブ労働者の約半数が8.5ユーロ未満の時給で働いている実態が明らかになった。

ハルツ改革以降、200万人増

ミニジョブ(僅少労働)は、パートタイム労働の一種で、雇用機会の拡大を目的として収入が月450ユーロ以下の場合に、所得税と社会保険料の労働者負担分が免除される制度である(但し、使用者は免除されず、税金、健康保険、年金保険の計30%の負担義務がある)。2003年の「ハルツ労働市場改革」(注1)で、ミニジョブの報酬上限を325ユーロから400ユーロ(注2)に引き上げた代わりに、週労働時間の制限(上限15時間)を解除し、時給の下限を事実上廃止した。そのため、以降、この雇用形態は短期間で急速に拡大した。

その後、2015年1月1日の法定最低賃金(時給8.5ユーロ)の導入に伴い、ミニジョブもその適用を受けて再び時給の下限が設けられた。なお、2017年1月1日には、最低賃金時給が8.5ユーロから8.84ユーロへ引き上げられている。 2014年のミニジョブ労働者は計750万人で、2003年のハルツ改革以降、約200万人増加している(注3)。このうち、ミニジョブの専業従事者は510万人で、本業のほかに税負担のない副業としてミニジョブに従事する者は240万人であった。多くは、小売、飲食、宿泊、保健・医療施設、福祉施設、ビル清掃業などのサービス分野で働いている。

休暇関連の違反ケースも

今回のWSI調査では、最低賃金の導入前後で「ミニジョブ労働者の時給がどのように変化したか」について、ドイツ経済研究所(DIW)の社会経済パネル調査(SOEP)と、ドイツ労働市場・職業研究所(IAB)の社会保障・労働市場パネル調査(PASS)の2つのリソースを用いて分析が行われた。

その結果、最低賃金の導入によって、時給8.5ユーロ以上で働くミニジョブ労働者の割合は4割から5割に増加したものの、残りの半数は最低賃金未満で働いていたことが分かった。また、ミニジョブ労働者の5人に1人は時給5.5ユーロ未満という特に低い賃金で働いていたが、最低賃金導入前後で、その割合は殆ど変わらなかった(図表)。

図表:ミニジョブ労働者の時給額(2014年、2015年)
図表:画像

  • 出所:WSI(2017)

分析を行ったWSIのプッシュ研究員とザイフェルト研究員は、「最低賃金がミニジョブ労働者全体に行き渡っていない明白な兆候がある」と述べた上で、「最低賃金違反とともに、法的請求権を有しているはずの病気休暇や有給休暇等についても、違反しているケースが多く見られた」と指摘。今後は、ミニジョブ労働者に対する最低賃金の履行確保と労働環境の改善が重要だと結論付けている。

ミニジョブに対する労使の見解

ミニジョブ労働者の半数が最低賃金未満で働いている現状について、労使ともに憂慮する事態だとしているが、ミニジョブそのものに対する考えは、労使で異なる。ドイツ使用者団体連盟(BDA)は、「闇労働(社会保険料負担から逃れる目的で届出なしに行われる労働)の防止に重要な役割を果たしている」として評価している。一方、ドイツ労働総同盟(DGB)は「社会保険義務のある雇用を空洞化させ、低賃金セクターを固定させる要因になっている」として、批判的に捉えている。

参考資料

  • Böckler Impuls Ausgabe 03/2017, Deutsche Welle(30.01.2017), IAB Panel "Arbeitsmarkt und soziale Sicherung" (PASS), Bundesagentur für Arbeit サイトほか

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