労働者派遣等改正法
―4月から実施へ

カテゴリー:非正規雇用労働法・働くルール多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2017年1月

労働者派遣の柔軟性を確保しつつ、低賃金化や濫用の防止を目的とする労働者派遣等の改正法案が2016年11月25日、連邦参議院(上院)で承認された。同法は、すでに連邦議会(下院)で10月21日に可決されており、2017年4月1日から施行される。

主な改正点

主な改正点は以下の4点である。

(1)派遣期間の上限設定-無制限から18カ月へ

派遣期間の上限は、労働市場改革(ハルツ改革)(注1)によって、当時の24カ月が撤廃された。今回の改正では、再び上限を18カ月に設定した。但し、これには「労働協約による逸脱」が認められており、実効性は未知数との指摘もある。しかし、少なくともこれまで労働協約の適用や事業所協定がなかった職場では、期間延長のために派遣先が事業所協定を締結する必要がある。これにより、協約当事者(労使)による話し合いやルールづくりの進展等が期待されている。

(2)均等待遇措置 ―遅くとも9カ月迄に

従来の労働者派遣法(AÜG)でも初日からの均等待遇が原則とされていたが、労働協約による逸脱が認められていた。その結果、派遣労働者の9割が労働協約で定められた低い賃金で働き、連邦統計局によると、7割は特に低い賃金水準(全労働者の中位賃金の3分の2未満)で働いている。

こうした実態をふまえて改正法では、派遣後9カ月以内に派遣先企業の労働者との均等待遇実施を原則とし、一定の条件下でのみ労働協約の逸脱を認めている。具体的には、派遣先の直用労働者の協約賃金に近づけるため、派遣後6週間以内に段階的に割増賃金を支払うことや、遅くとも派遣後15カ月以内には均等待遇の実現を協約で定めなければならない。

(3)スト破りの利用を改めて禁止

これまでも、ストライキ中の職場で「派遣労働者が労働を拒否する権利」は認められてきた。しかし、派遣労働者は雇用上の身分が非常に不安定なため、派遣先の使用者の意向に逆らってまで本人が労働を拒否することは難しい。さらに近年、スト破りの手段として実際に派遣労働者が利用されていることから、今回の改正では、ストライキ代置労働者としての派遣の使用が明確に禁止された。

(4)請負濫用防止を目指す措置

また、今回の改正では偽装請負や偽装自営(注2)の濫用防止も図られた。これまで判例法で形成されてきた「労働者性の判断基準」を改めて民法典の条文として明文化する。その他、事業所の全労働者に選ばれた委員で構成される事業所委員会に対する使用者の情報提供義務に、「使用者と労働関係にない者(派遣労働者や請負労働者)に関する詳細な配置計画(労働時間、労働場所、労働内容等)」などが盛り込まれた。さらに、派遣元と派遣先が締結する契約書では、「労働者派遣」であることを明記し、「誰を派遣するか」を特定した上で、派遣に先立ち、本人にも「派遣労働者」であることを通知する義務が新たに導入された。

変遷と規制の再構築の試み

ドイツの派遣労働は、1972年に労働者派遣法(AÜG)が制定されて以来、数十年にわたり、主に規制緩和の流れの中で発展してきた(図表1)。その目的は、企業から出される柔軟化の要請に対応し、派遣労働の雇用可能性を拡大することだった。しかし、規制緩和が進む一方で、一部の使用者寄りの労働組合が不当に低い賃金の労働協約を締結したり(注3)、同一企業で正規労働者が安価な派遣労働者に代替される事態が発生する(注4)など、派遣労働をめぐる問題も増加した。そのため2012年には、派遣労働者に対する最低賃金の導入や、派遣が「一時的」であることを明文化し、規制の再構築が行われた。今回の改正法案は、この再構築の流れを汲んでいる。

図表1:労働者派遣遣法(AÜG)の主な変遷
施行日 主な改正内容
1982年1月1日
  • 建設業の現場作業への派遣禁止
1985年5月1日
  • 派遣期間上限の延長(3カ月→6カ月)
1994年1月1日
  • 派遣期間上限の延長(6カ月→9カ月)
1997年4月1日
  • 派遣期間上限の延長(9カ月→12カ月)
  • 初回に限り、派遣労働契約期間と派遣期間の一致を容認
  • 有期派遣労働契約の容認(更新は最大3回まで)
2002年1月1日
  • 派遣期間上限の延長(12カ月→24カ月)
  • 同一派遣先企業での均等待遇原則の導入(13カ月以降)
2003年1月1日
  • 派遣期間上限の撤廃(24カ月→無制限)
  • 派遣労働契約期間と派遣期間の一致の禁止の撤廃
  • 再雇用制限の撤廃
  • 建設現場における派遣制限の緩和(労働協約による容認)
  • 派遣労働初日からの均等待遇原則の導入(失業者派遣や労働協約による逸脱可能)
2012年1月1日
  • 派遣労働者に対する最低賃金の導入
  • 労働者派遣の「一時的」利用に関する条文が新たに追加
2017年4月1日
(予定)
  • 派遣期間上限の再設定(無制限→18カ月。但し、労働協約による逸脱可能)
  • 同一派遣先企業での均等待遇原則の導入(9カ月以内。但し、労働協約による逸脱可能)
  • ストライキ代置労働者(スト破り)としての派遣利用の禁止
  • 請負契約の濫用防止(労働者概念の明確化、事業所委員会への情報提供義務、契約時の特定化など)

出所: Bundesagentur für Arbeit (2016)をもとに作成。

図表2は、法改正と派遣労働者数の推移を重ねて示したものである。ここからは、2003年の規制緩和後の大幅な人数増加や、世界金融危機時の急激な落ち込みと需要に連動した急激な回復など、増減を激しく繰り返しながら、長期的には増加している様子がうかがえる。2015年には、95.1万人に達していた。

図表2:労働者派遣法(AÜG)の改正と派遣者数の推移 (単位:人)

図表2のグラフ

出所:Bundesagentur für Arbeit (2016).

与野党は対立のまま

今回の改正について連立与党であるキリスト教民主同盟(CDU)のシーヴェリング議員は、「少数の”腐ったリンゴ”(悪徳な派遣元や企業)が、派遣のイメージを悪くしている。我々は、派遣業界の強化と労働者への搾取を防止するため、派遣期間の上限(18カ月)と均等待遇(9カ月)を導入する。派遣は、労働市場の柔軟性に欠かせず、低技能労働者にとっても労働市場にアクセスしやすいというメリットがある」と説明している。

他方、野党である左派党(Die Linke)のエルンスト議員は、「9カ月以上派遣される労働者は全体の25%のみで、大多数の派遣労働者は、均等待遇の対象から外れる。偽りに近い法案で、この改正がどれほど公益にかなうか疑問だ」として、激しく非難している。同じく野党である緑の党(Die Grünen)も労働者派遣法(AÜG)の抜本的な改正を求めており、与野党の対立の溝は埋まっていない。

しかし最終的には、連立政権の議席数の多さから、同改正法案は両院で可決され、成立した。

参考資料

  • Bundesagentur für Arbeit(2016) Arbeitsmarkt in Deutschland –Zeitarbeit – Aktuelle Entwicklungen, Bundesministerium für Arbeit und Soziales ”Leiharbeit/Werkverträge”, Industry Analysts Daily news(24 October 2016), Alexander Spermann (2013) Sector Surcharges for Temporary Agency Workers in Germany IZA Policy Paper No. 67, 山本陽大・山本志郎(2016)「ドイツにおける労働者派遣法および請負契約の濫用規制をめぐる新たな動向」『労働法律旬法 No.1872』 ほか

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