雇用審判所、ウーバーのドライバーを労働者と認める判決

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2016年11月

ロンドンの雇用審判所は10月下旬、労働者としての法的権利を求めて雇用主を提訴したウーバー社のドライバーの主張を認め、最低賃金の適用や有給休暇の付与などの権利を保障すべきとする判決を示した。契約上は自営業者だが、実態は従属的なこうした労働者が、裁判やストライキ、デモなどの手段に訴えるケースが相次いでいる。

自営業者か、労働者か

ウーバー社は、ロンドンを中心に国内の複数の都市で配車サービスのアプリケーションによるプラットフォームを提供している。約4万人のドライバー(うち3万人がロンドン)がこれを通じて予約制ハイヤーサービスに従事しており(注1)、ロンドンではおよそ200万人が利用者として登録されている。

ウーバー社は、配車サービスにかかわる自社の位置付けについて、あくまでアプリケーションの提供者であり、配車サービス自体は乗客との「契約」に基づいてドライバーが提供するもの、としている(注2)。このため同社は、ドライバーとの間には雇用関係や委託関係等はなく、ドライバーは同社の「顧客」として配車サービスを提供する自営業者(independent company)である、との立場をとる(注3)

雇用審判所への申し立てにおける原告側(注4)の主張は、ドライバーにはサービスの提供において自営業者としての自律性は認められておらず、ウーバー社によるこうした規定は実態を反映していないというものだ。これには例えば、乗客が乗車するまで目的地は知らされず、目的地までのルートや料金も実質的にウーバー社側の主導で設定されていること、また乗客による評価システムや、配車のオファーに応じた(あるいは拒否・キャンセルした)頻度や比率などによる管理を受け、要求水準に達しない場合にはペナルティ(最も重い場合はアプリケーションの利用停止)も設けられていること、などが挙げられている。このため、ドライバーは自営業者ではなくウーバー社に雇用された労働者(worker)であるとして、最低賃金の適用や有給休暇の付与などの雇用法上の権利を保証することを同社に求めている。

これに対してウーバー社側は、ドライバーは他社でも働けること、サービス提供の可否やその種類を任意に決められること、車両の運用やライセンス取得の費用もドライバーが負担していることなどを挙げ、彼らは自営業者であるとの従来からの立場を維持している。アプリケーションの利用方法に関して各種の規定を設けている点については、サービスの水準を維持するという両者の共通の利益を反映しているにすぎない、としている。さらに、ドライバーの大半は働く時間や場所を選択できることなどを理由に、自営業者として働くことを自ら選択している、と述べている。

また、ドライバーが労働者と認められる場合、最低賃金制度が適用されるが、その算定には何を労働時間とみなすかが関わる。原告側は、少なくともアプリケーションを利用している(配車依頼を受けられる状態にある)時間については労働時間とすることを求めているが、ウーバー社側は乗客を乗せている時間のみが労働時間であるとしており、両者の主張には開きがある(注5)

雇用審判所は最終的に10月下旬、ドライバーを労働者と認め、最低賃金や有給休暇などの法的権利を保証すべきであるとの判決を示した。判決文は、ウーバー社は配車サービスの提供に中心的な役割を負っているとして、アプリケーションの提供者にすぎないとする同社の主張を一蹴、実際には存在しないドライバーと乗客の間の「契約」や、ドライバーを「顧客」と表現するなど、架空の事柄やいびつな用語などに、懐疑的な立場を明確にしている。また、労働時間の範囲についても原告側の主張を概ね認め、ドライバーがライセンス上営業を認められた地域でアプリケーションを使用している時間は、労働時間とみなすべきとの判断を示した。

ウーバー社側は、この判決を不服として控訴を決めている。一方、原告側の代理人として本件を支援した法律事務所は、他の多数のウーバー社のドライバーから、本件に関連した相談を受けており、今後数百人が同様の申し立てを行う可能性があると述べている。

「ニセ自営業者」問題の広がり

実態は従属的な労働者でありながら、契約上は自営業者として扱われる、いわゆる「ニセ自営業者」(bogus self-employed)をめぐる問題は、従来から認識されていたが、金融危機以降の労働市場における自営業者の拡大(注6)、またシェアリングエコノミーの普及などを背景に、近年広がりを見せており、一部では、労働者としての権利保護や労働条件の改善などを求めて、自営業者が合同でデモやストライキ、裁判などの手段に訴える状況にも発展している。例えば、飲食店からの料理の宅配サービスを提供するデリバルー(Deliveroo)の自営業者が8月、企業側の一方的な報酬体系の変更(時間当たりから歩合制へ)に抗議してストライキを実施、政府も企業側を批判する異例の事態となり、結果的として企業側はプランを撤回した(注7)。また、自転車配送サービスに従事する自営業者4名が、労働者としての地位を求めてそれぞれの雇用主(計4社)を雇用審判所に提訴しているケースも、11月から審理が開始される。申し立てを支援している労働組合Independent Worker of Great Britainは、この問題に対する認知度を高めるためにも、本件は和解に応じて個別の案件として収拾するつもりはなく、必要なら最高裁まで争うとしている(注8)。

ウーバー社のドライバーを労働者と認める今回の判決は、こうした動きをさらに活性化させるとみられる。

政府や議会の間にも、この問題への取り組みの動きがある。9月には、宅配業大手のヘルメス社で配送を請け負う自営業者が、実態としては労働者に近く、一部で最低賃金を下回る状況にあるという問題が現地メディアにより報じられた。議会雇用労働委員会の委員長も務めるフィールド労働党議員は、配達員およそ80名からのレポートなどを元にまとめた報告書(注9)を首相に提出して対応を要請。結果として、歳入関税庁が、同社における自営業者の利用について調査を行うこととなった。なお、歳入関税庁は数年前にも同社の調査を行ったが、その際には自営業者との請負契約の状況を適正と認めていたという。

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