労働者の約半数が時給15ドル以下
―民間シンクタンク報告

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  • 国別労働トピック:2016年10月

オックスファム・アメリカと経済政策研究所は、アメリカで働く労働者の約半数が時給15ドル以下となっているとの共同報告書を発表し、最低賃金引き上げの重要性を訴えた。また、経済政策研究所は、売上高上位350社のCEOの年間報酬平均が一般的な労働者の276倍であり、1964年の20倍と比較すれば大きな格差があるとし、高額所得者に対する所得税の引き上げによる格差是正の必要性を指摘している。

5830万人が時給15ドル以下

貧困問題解消を目的とする国際共同NPO、オックスファム・アメリカとリベラル系シンクタンク、経済政策研究所は、アメリカの労働者の多くが低賃金、有給の病気休暇の不備、残業代未払いの状態にあるとする報告書を発表した。

2015年の労働者の43.7%、5830万人が時給15ドル以下で働いているだけでなく、4170万人が時給12ドル以下、年収にして2万5000ドル以下の状態にあるとする。この金額は連邦政府が提示する4人世帯の貧困ラインをわずかに上回るにすぎない。

低賃金労働者とその家族は何らかの生活保護を受けていることが多いが、もし連邦最低賃金を現行の7.25ドルから12ドルに引き上げれば、こうした生活保護に費やす連邦予算を170億ドル削減できるとしている。

5100万人が有給の病気休暇なし

公共部門で雇用される労働者の86%に有給の病気休暇がある一方で、民間企業で雇用される労働者の46%に有給の病気休暇がない。

有給病気休暇を義務付けている州は全米で5つに留まっており、5100万人以上の労働者に有給の病気休暇がない。その内訳をみると、賃金の高低により差が現れる。低賃金労働者の80.6%が有給の病気休暇をもたないのに対して、比較的に賃金の高い労働者では21.4%に留まっている。

また、無給の病気もしくは看護休暇を低賃賃金労働者が取得した場合、七人に一人が職を失う事態に直面している。これに対し、たとえばインフルエンザに疾患した状態で勤務し、同僚や顧客に感染が広がることで大きな経済損失を招いており、その額が年間1600億ドルにのぼっているとし、有給の病気休暇に関する法制化の必要性を指摘している。

残業代支給対象拡大のための政策を指示

報告書は、低賃金労働者の状況を改善するために、残業代支給の重要性についてもとりあげている。ギャラップ社が2014年に報告した調査結果をあげ、労働者の労働時間が平均週47時間であり、そのうちの約4割が週50時間以上働いているとする。この数字は、公正労働基準法(FLSA)が定める残業代支給対象となる週40時間を超えている。しかし、その多くが公正労働基準法の行政規則が定めるホワイトカラー・イグザンプションにより、残業代支給対象から除外されている。

残業代支給対象者を拡大し、低賃金にとどまる労働者の賃金を増やすため、連邦労働省は2016年12月にFLSAの行政規則改正を計画している。いまだ多くの大企業や共和党が改正の見直しや延期を求めているなか、報告書はすみやかない改正の実施を訴えている。

CEO報酬は1978年比で941%増

一方で、経済政策研究所は、一般的な労働者と、売上高上位350社のCEOの2015年の年間報酬が276倍だったと報告した。

格差は、1999年に376.1倍ともっとも大きくなったのち、リーマンショック後の2008年に195.8倍へと低下したが、ふたたび上昇に転じている。だが、もともと格差が大きかったわけではなく、1964年には20倍ほどだった。それが、1986年に50倍(51.9)、 1994年に100倍(122.6)、1996年に200倍(233.0)、1997年に300倍(321.8)と推移してきた。1990年代半ばから急速に格差が拡大しているかっこうだ。

報告では、CEO報酬の伸びがスキルや生産性と無関係に上昇している一方、一般の労働者の報酬の伸びが低くとどまっていることから、高額所得者に対する所得税の引きあげが必要だと指摘している。

(国際研究部 山崎 憲)

参考

  • Economic Policy Institute, OXFAM America,(2016) “FEW REWARDS,AN AGENDA TO GIVE AMERICA’S WORKING POOR A RAISE”.
  • Economic Policy Institute, OXFAM America,(2016) “Stock market headwinds meant less generous year for some CEOs, CEO pay remains up 46.5% since 2009”.

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