ホワイトカラー・エグザンプションに関する行政規則改正
―残業代支給対象年収が4万7476ドルへ倍増
連邦労働省は公正労働基準法(FLSA)に関する行政規則を改正し、残業代支給対象から除外する、いわゆるホワイトカラー・エグザンプションが適用となる年収を現在のほぼ倍となる4万7476ドルへ引き上げることを5月18日に公表した。施行はおよそ6カ月後の12月1日からとなる。
オバマ大統領が改正をうながす
ホワイトカラー・エグザンプションが社会的な問題としてとりあげられるようになったのは、ブッシュ政権下の2004年のことである。残業代は、公正労働基準法(FLSA)によって規定されている。
FLSAは、一週あたり40時間を超える労働について通常の5割り増しの賃金を支払うことを定めている。そのうち、真正な管理職(executive)、運営職(administrative)専門職(professional)の資格(capacity)で雇用される労働者は、FLSA第一三条(a)1により適用が除外されている。対象はホワイトカラー労働者に限定し、ブルーカラー労働者は除かれることから、通称、ホワイトカラー・エグザンプションと呼ばれる。
年収(週給)要件も、残業代の支給対象であるかの判断基準となるが、FLSAではなく、運用を定めた行政規則に基づいている。FLSAは連邦法のため、改正には議会による決議が必要だが、行政規則のために連邦労働省の判断で変更することができる。
今回、連邦労働省が公表したのは、行政規則の変更である。この変更は2014年にオバマ大統領が連邦労働省に対して行った見直しに関する指示が発端となっている。それを受けて、2015年に連邦労働省が改正案を公表した。その後は、7月6日から60日間の期限で実施された一般からの意見聴取期間で受け付けた要望を踏まえて改正案が練り直され、2016年5月18日の公表に至ったものである。
行政規則は、「俸給水準」「俸給基準」「職務要件」の三つにより、残業代支給の対象となるかどうかを判別している。
簡単に説明すれば次のとおりとなる。「俸給水準」は、一定以上の俸給額が支払われているかどうか。「俸給基準」は、賃金の支払い方が一時間あたりではなく月給であるかどうか。「職務要件」は、管理や経営および専門知識を必要とするものであるかどうか。
これら三つを満たした場合のみ、残業代の支給対象から除外されることになる。
生活できる賃金に向けて
今回の改正は、2004年のブッシュ政権下で行われた行政規則変更を見直すとことで、残業代の支給対象から除外された労働者の賃金を生活できるレベルに引き上げるという意味を持つ。
ブッシュ政権下で行われた行政規則変更ではじめてホワイトカラー・エグザンプションが実施されたと一般的には考えられているが、実際はそうではない。残業代の支給対象についてはもともとFLSAに織り込まれている。ブッシュ政権の改革は、労働者の多くが製造業で働いていた状況から、サービス産業へ移行することで、ホワイトカラー労働者が多くなったものの、「俸給基準」と「職務要件」に変更がないことで、FLSAおよび行政規則が有名無実化していた状況を見直すためだったのだ。
だが、そのことで、新たに設定された俸給水準である週給455ドルが適用され、年収2万3660ドルに留まる多くの労働者が生まれた。
今回の改正で、年収4万7476ドル、もしくは週給913ドルに引き上げられる。これにより新たに残業代の支給対象になる労働者は420万人にのぼると連邦労働省は推計する。「俸給水準」には新たに物価調整が導入され、2020年1月1日に5万1000ドルになる見込みだ。
なお、当初案からいくつかの変更がある。年収が5万440ドルから減額されたほか、現在すでに2万3660ドルより多い年収を得ている労働者は週40時間超の労働時間に対する1.5倍の割り増しは適用されない。
根強い反発の声
オバマ大統領の主導で進められている行政規則の改正だが、反対の声も根強い。共和党ポール・ライアン下院議員やウォルマート社など保守系政治家や低賃金労働者を多く雇用する企業が声明をだすとともに、改正の見直しを求めている。
予定通りに行政規則が改正されたとしても、経営者が労働者の区分や管理方法を変更するなどのコスト対策により、さまざまな混乱が生じる可能性がある。
(国際研究部 山崎 憲)
参考
- The Overtime Rule、United States Department of Labor
参考レート
- 1米ドル(USD)=101.19円(2016年9月29日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
2016年9月 アメリカの記事一覧
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