「大企業正規職部門」と「中小企業及び非正規職部門」の格差解消に向けた対策

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

韓国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2016年7月

韓国の関係省庁は2016年3月10日、合同で「労働市場の二重構造を通じた共生雇用促進対策」を発表した。本対策によって、労働者の処遇格差をもたらしているとされる労働市場の二重構造を解消していこうというものである。政府の言う労働市場の二重構造とは、「大企業正規職部門」と「中小企業及び非正規職部門」に二分化された構造を指し、また「大企業正規職部門」とは大企業や公共部門の正規職を、「中小企業及び非正規職部門」とは大企業の非正規職から中小企業の正規職、中小企業の非正規職までを含めた意味で用いられている。本対策によって、「大企業正規職部門」と「中小企業及び非正規職部門」の両部門が共生しながら雇用を促進していく社会の実現を目指すというものである。具体的には、硬直化した賃金体系の改善、元請けと下請け間の公正な取引秩序の確立、賃金上位10%の役職員の賃上げ自制――等を盛り込んだ内容となっている。以下、「労働市場の二重構造を通じた共生雇用促進対策」の概要を紹介する。

2部門間の労働者の処遇格差

賃金水準、労働条件、雇用の安定性等を基準に考えた場合、労働市場は、「大企業正規職部門」と「中小企業及び非正規職部門」の2つの部門に区分され、この2部門間には大きな格差が見られる。例えば、大企業正規職の賃金を100とした場合、中小企業非正規職の場合は34.6の水準である(注1)。また、勤続年数を見ても、大企業正規職部門の平均勤続年数が10年2カ月であるのに対し、中小企業及び非正規職部門のそれは4年4カ月である。

以上のように、韓国の労働市場に併存するこの2部門間の格差は歴然で、しかも「大企業正規職部門」に属する労働者の割合が全労働者の10.6%に過ぎず、残りの89.4%は「中小企業及び非正規職部門」に属しているというように偏在性が見られるうえに、「中小企業及び非正規職部門」から「大企業正規職部門」への労働者の移動は非常に限定的である。

アジア通貨危機以降の格差拡大

技術進歩とグローバル化経済の進展に伴い、R&D投資や経営革新等の経営力の違いにより、大企業と中小企業間の格差は一層拡大し、90年代中盤以降、労働市場の二重構造化が進んでいった。また、元請け・下請けという強い力関係によって、大企業は、景気変動によるマイナスの影響の大部分を下請け企業や協力企業に転嫁してきたことが、企業別に賃金水準が決定されるシステムを介して、労働者間に賃金や雇用の安定性の面で格差をもたらす結果となった。

更に、大企業の正規職を中心とした労働組合が、年功賃金型の賃金体系を基礎として、強い交渉力で賃上げを確保してきたのに対し、中小企業及び非正規職の賃上げは低く抑えられてきた。

特に97年のアジア通貨危機以降、雇用制度・慣行の硬直性のため、大企業は正規職の採用を回避し、直接雇用するのは中核となる人材に限り、それ以外は間接雇用または外注化する傾向を強めていった。

労働市場の二重構造の解消努力の成果と限界

政府はこれまでも、労働市場の二重構造の解消のための取組みを実施してきた。例えば、2014年2月に発表した「経済革新3カ年計画」には、大企業と中小企業の不公正な取引慣行の改善や、中堅・中小企業の競争力を強化していくための対策が盛り込まれた。また、2015年9月には労働市場の構造改革のための労使政による大妥協(注2)が成立し、労働市場の改善に向け、大企業側が一定の譲歩と配慮すること等の点で合意に至った。

これまでの対策の効果を、近年の指標で見ると、正規職の割合は、2012年の66.7%から2015年は67.5%と僅かではあるが上昇している。また、中小企業の平均売上高も、2012年の52億8200万ウォンから2015年は53億3800万ウォンへ伸びている。その他、ジニ係数は、2012年の0.307から2014年は0.302と変化を見せた。

しかしながら、以上の指標は、これまでの対策の限界と見ることもできる。例えば、OECD諸国と比較した場合、韓国の所得格差は依然として大きいと言える。2012年のデータになるが、低賃金労働者の割合(注3)は23.9%で米国の25.3%に次ぐワースト2である(表1)。また、性別で見た場合、低賃金労働者の割合は女性が圧倒的に高くなる(表2)。

表1:OECD主要国の低賃金労働者の割合(2009年以降)
(単位:%)
  2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
フィンランド 8.5 8.1 9.3 8.9 9.1 -
ギリシャ 15.1 13.3 12.3 11.8 13.9 -
デンマーク 7.3 7.6 7.5 7.6 7.9 -
日本 14.7 14.5 14.4 14.3 14.2 -
スペイン 16.4 15.7 15.1 14.6 - -
オーストラリア 14.4 16.1 16.9 18.9 15.8 -
ドイツ 18.7 19.1 19.7 18.3 18.8 -
イギリス 20.6 20.7 20.6 20.5 20.5 -
カナダ 20.6 21.2 21.6 21.8 21.0 22.5
アメリカ 24.8 25.3 25.1 25.3 25.0 24.9
韓国 25.0 24.7 23.8 23.9 24.7 23.7
  • 注:OECD諸国の平均は16.4%
  • 出所:統計庁が引用したOECDのデータを基に作成
表2:韓国における男女別低賃金労働者の割合(2009年以降) (単位:%)
  全体 男性 女性
2009年 25.0 16.5 41.0
2010年 24.7 16.1 40.4
2011年 23.8 16.0 38.2
2012年 23.9 16.5 37.3
2013年 24.7 16.6 38.9
2014年 23.7 15.4 37.8
  • 出所:統計庁

対策の概要

この度の「労働市場の二重構造を通じた共生雇用促進対策」は、これまでの取組の結果と限界に対応しようとするものである。具体的な内容は次のとおりである。

大企業・正規職部門の硬直性と不公正性の改善

本項目中に挙げられていることは、まず、公正な賃金体系等により、能力中心の人事慣行を確立していくことである。例えば、賃金のうち、賞与部分の割合を高めていくことや、成果による年棒制の適用を拡大していくという内容が含まれている。

また、元請け・下請け間の公正な取引秩序の確立が挙げられている。例えば、公正取引委員会の調査前に、自主的に是正を行った場合は、ペナルティを免除するというものである。その他、標準下請け契約書を普及させていくという内容も含んでいる。

共生雇用のための大企業と中小企業の労使協力の拡散

本項目では、賃金上位10%の役職員は賃上げを自制すること、また、賃金ピーク制を実施すること、青年層の雇用を拡大していくこと、中小企業・非正規職の処遇を改善していくこと――等が挙げられている。

また、大企業な中心となって、下請けや協力企業を選定する際には、派遣労働者の使用率等雇用構造を考慮して選定するなど、自主的な改善を求めている。

非正規職等脆弱層の処遇改善の強化

ここでは、正規職の採用慣行の促進、雇用構造の改善のための政策目標と目標達成のための対策を組み込んだロードマップの策定をはじめ、正規職転換支援金制度や雇用構造改善のためのコンサルティングを通じた正規職転換の促進策が挙げられている。

その他、建設労働者への賃金不払い防止対策や違法派遣の取締り強化対策といった内容も含まれている。

格差解消のための事業現場の監督強化

「非正規職の処遇改善及び差別解消」「脆弱階層及び青少年の保護」「長時間労働の改善」「不公正な人事慣行」の4分野を中心に、全国2万カ所の事業所の監督を実施するとしている。

今回政府が発表した「労働市場の二重構造を通じた共生雇用促進対策」について、イ・ギクオン雇用労働部長官は、「10%の大企業・正規職が得ている過度な果実を、90%の中小企業・非正規職の処遇改善と雇用安定のために分かち合っていくことが、労使政による大妥協の根本精神であり、本対策はその精神に基づき作られたものである。中小企業・非正規職の問題解決なくして、青年層の失業問題をはじめ、雇用危機を克服していくことは不可能である」とコメントするとともに、「労働市場の二重構造解消を通じた共生雇用を推進していくためには、現場において絶えず労働改革を実践していくことだけにととまらず、労働改革のための立法措置が必要である」と強調した。

資料

  • 「労働市場の二重構造を通じた共生雇用促進対策」(2016年3月10日関係省庁合同) 統計庁ウェブサイト

参考レート

関連情報