最低賃金、2017年から8.84ユーロに引き上げ

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最低賃金委員会は6月28日、現在8.5ユーロの最低賃金時給を、8.84ユーロに引き上げるよう勧告した。これを受けて連邦労働社会省は、2017年1月1日から同委員会の勧告通り、最低賃金を時給8.84ユーロに引き上げることを決めた。2015年1月1日に最低賃金が導入されてから初めての引き上げとなる。

引き上げ率は4%

最低賃金委員会の議長を務めたヤン・ツィリウス(Jan Zilius)氏によると、今回の引き上げ額は、全会一致で決定した。

最低賃金導入後に締結した約500の労働協約を基に連邦統計局が算出した平均賃金上昇率は3.2%で、これに最近妥結したばかりの統一サービス産業労組(Ver.di)の公務分野の賃上げ率(4.75%)の実績等が考慮された。失業率は、東西統一以来(過去25年で)最低を記録し続けており、賃上げ交渉を行う労働者の追い風となっている。最低賃金委員会は、以上のような情勢を総合的に判断し、時給8.84ユーロにすることを決定した。引き上げ率は4.0%になる。

2014年8月の最低賃金法(MiLoG)制定以降、連邦政府が最低賃金額の適切性を判断するために設置した常設の最低賃金委員会による決議は今回が初めてで、今後、このような決議は、2年ごとに実施される。

最低賃金は、国内で働く全ての成人労働者(18歳以上)に適用される。ただし、長期失業者が再び雇用されてから最初の6カ月間、インターンシップ期間が3カ月未満の実習生、職業訓練生などは除外される。
政府の推計によると、今回の引き上げで、400万人近い低賃金労働者が恩恵を受けることになる。

労使は概ね歓迎、異義の主張も

多くの労使団体は今回の引き上げを歓迎している。一方、一部の組織は、異義を唱えている。

社会政治擁護団体(Sozialverband VdK)のウルリケ・マッシャー(Ulrike Mascher)理事長は、現地の報道(DPA)の取材に応えて、「最低賃金額は、フルタイム労働者が必要最低限の収入を得ることができる時給でなければならない。また、その収入は、退職後の年金計算の基礎となるため、退職者が必要最低限度の生活ができる金額でなければならない」と述べ、今回の最低賃金の引き上げは、そのためには不十分だと主張している。

一方、ミュンヘンにあるIfo経済研究所のクレメンス・フュースト(Clemens Fuest)所長は、「大量の難民を受け入れている現状において、最低賃金を引き上げるのは得策ではない」として引き上げそのものに反対をしている。フュースト氏は最低賃金委員会の諮問委員でもある。

こうした賛否の声に対して、国際公共放送Deutsche Welleは、「”最低賃金が全産業・全土に対して設定されると、価格上昇と雇用喪失を引き起こし、急激に失業率が悪化する”として、経済界は最低賃金導入に強く反対していたが、これまでのところ、そうしたことは現実には全く起きていない」としている。

【最低賃金委員会について】

メンバーは、1名の議長と、6名の議決権を有する常任委員(労使各3名)、2名の議決権を持たない学術分野の委員(諮問委員)で構成される。常任委員、諮問委員ともに必ず1名以上の男性および女性を含めなければならない。最低賃金委員は、5年ごとに新たに任命する。

【最低賃金委員会のメンバー】

  • 議長 1名
    1. Jan Zilius、大手エネルギー会社(RWE)等の監査などを歴任。
  • 労働者代表 3名
    1. Robert Feiger、建設・農業・環境産業労組(IG BAU)等の役職を歴任。
    2. Stefan Körzell、金属産業労組(IG Metall)、ドイツ労働総同盟(DGB)等の役職を歴任。
    3. Michaela Rosenberger、食品・飲料・旅館業労組(NGG)等の役職を歴任。
  • 使用者代表 3名
    1. Dr. Reinhard Göhner、ドイツ使用者団体連盟(BDA)等の役職を歴任。
    2. Valerie Holsboer、 食品・飲料・旅館業使用者団体(ANG)等の役職を歴任。
    3. Karl Sebastian Schulte、ドイツ手工業会議所(ZDH)等の役職を歴任。
  • 諮問委員(学術代表)2名
    1. Prof. Dr. Clemens Fuest、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学 教授。
    2. Dr. Claudia Weinkopf、デュイスブルグ・エッセン大学 教授。

Mindestlohnkommissionサイトより筆者作成

参考資料

  • Mindestlohnkommissionサイト、Bundesministerium für Arbeit und Sozialesサイト、Deutsche Welle (28.06.2016)、Archy World News (June 28, 2016) ほか

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