シェアリング・エコノミー下の請負労働者に団体交渉権:カリフォルニア州で審議中

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2016年6月

スマートフォンやパーソナルコンピューターのアプリケーションを仲介して、サービスの利用者と提供者をつなぐシェアリング・エコノミーは、多くの個人請負労働者をうみだした。

このことが、雇われて働くことを前提としてつくられた労働者の権利や労働条件と社会保障の維持において、予想しなかった問題を引き起こすようになっている。

そうしたなか、シェアリング・エコノミー下の労働者の数がもっとも多いカリフォルニア州で、個人請負労働者が労働組合を組織して、仲介企業と団体交渉を行うことができるようにする法案がカリフォルニア州ロレーナ・ゴンザレス州議会議員より提出され、審議中となっている。

請負労働者に団体交渉権を与える議論 ―シアトル

法案は4月20日に州議会の労働委員会を5対2の賛成多数で通過した。個人請負労働者に労働組合の組織化と団体交渉権を認めようとする動きは、2015年12月のシアトル市についで二例目である。

シアトル市は、ウーバーやリフトといったライド・シェアサービスを提供する企業に運転手リストの提出を義務付ける法案を市議会で採択した。このリストは、労働組合組織化のための投票に用いられる。シアトル市のタクシー運転手を組織する労働組合、チームスターの地方組織であるLocal 117は、すでに2014年からライド・シェアサービスで働く請負労働者の組織化に取り組んでおり、下部組織としている。

しかし、シアトル市のエド・マーレー市長は、労働者の組織化が職場に公正さをもたらすものとして肯定的にとらえながらも、個人請負労働者の組織と仲介企業との団体交渉手続きには新たに構築しなければならない部分が多いとして、条例成立に必要な署名を拒んでいる。

反対の理由としてもっとも大きなものは、個人請負労働者と仲介企業が行う交渉の結果として結ばれる協約が労働条件を規定すれば、それはすなわち、価格協定となり、連邦法が定める独占禁止法に抵触することになるということである。歴史をひもとけば、アメリカの労働組合が合法的に団体交渉権を獲得するようになるまで、ほとんど同じ議論があった。これが克服されたのは、ニューディール期である。一方、ニューディール期につくられた全国労働関係法(NLRA)は、個人請負労働者を除外している。

だがしかし、ICTの進化により登場したシェアリング・エコノミーは、雇われて働くことでつくられてきたさまざまな仕組みに変化をもたらすことになった。個人請負労働者は、仲介企業と対等な関係にあるわけではなく、垂直的な提携関係の下位に位置付けられる。その結果、契約単価の決定に関与する権限がないにもかかわらず、労働時間や最低賃金などを定める公正労働基準法の適用から外れてしまう。健康保険や年金といった社会保障からも枠外に置かれる。こうした力関係の非対称性を解消する手段として、労働組合の組織化と団体交渉権を認める方向にシアトル市は舵を切ったのだ。

旧来の法的枠組みをどう乗り越えるか

カリフォルニア州でも独占禁止法の問題をどのように解決するかが課題である。労働委員会を通過した後に、司法委員会の裁決となる。8月31日が年度内の期限であり、それまでに法的な問題をクリアしなければならない。

アメリカ商業会議所は、シアトルの条例が独占禁止法および全国労働関係法に違反しているとして3月に提訴している。カリフォルニア州でも商業会議所と連携する企業グループが懸念を表明する手紙を州議会司法委員会に提出した。

カリフォルニア州でもチームスターは法案に支持を表明している。しかし、チームスターを含む労働組合側は、従来の団体交渉プロセスに混乱をきたすことや、雇用労働者以外に団体交渉権を認めることが既得権を崩すものになる可能性があるとして、全面的に賛成しているわけではない。

とくに、チームスターはシアトル市と同様にカリフォルニア州で個人請負の状態にある運転手を既存の労働組合に加入させることで、法的扶助等を提供するなど、独自路線を歩みつつある。

(国際研究部 山崎 憲)

参考

  • Mahoney, Laura., (2016) "California Bill to Allow Gig Workers to Organize n Hold", Daily Labor Report, Apr. 26, 2016.
  • Shukovsky, Pau., (2015) "Expects Challenges to New Uber Ordinance", Daily Labor Report, Dec. 15, 2016.

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