職場における男女格差をめぐる是正策

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2016年5月

統計局が3月に発表した資料によると、ドイツの「男女賃金格差」は21.6%と、EU平均(16.1%)を大きく上回った。同時期に発表された「管理職の女性割合」も29%と、EU平均(33%)に及ばなかった。総じてドイツは、他のEU諸国と比較して職場における男女平等が進んでいるとは言い難く、政府は現在、様々な政策を用いて男女格差の是正を図ろうとしている。

男女格差の現状 ―いずれもEU平均に及ばず

(1)賃金格差21.6%(EU28カ国中25位)

2014年におけるドイツの男女賃金格差は21.6%と、EU平均の16.1%を大きく上回り、EU加盟28カ国中25番目だった(図表1)。格差が最小だったのはスロベニアの2.9%で、最大はエストニアの28.3%だった。

図表1:男女の賃金格差(EU諸国比較、2014年) (単位:%)
図表1:画像

  • 出所:Eurostat(2016). (注)p=暫定値、E=推計値

(2)管理職女性割合29%(EU28カ国中19位)

次に管理職の女性割合を見ると、ドイツは29%で、EU平均(33%)を若干下回り、EU加盟28カ国中19番目だった(図表2)。管理職女性割合が最高だったのはラトビアの44%で、最低はキプロスの17%だった。なお、ここで言う「管理職」は、国際標準職業分類(ISCO)(注1)によって、“指導的な地位”として分類された者で、CEO、経営者、幹部なども含まれる。

図表2:管理職における女性の割合(EU28カ国比較、2014年) (単位:%)
図表2:画像

  • 出所:Statistisches Bundesamt(2016).

男女格差の要因

連邦家族省(BMFSFJ)は、男女の賃金格差が大きく、管理職の女性割合が少ない理由には、複雑かつ多岐にわたる構造上の問題があるためだとしている。その上で以下の事項を例示している;

  1. 異なるキャリア選択:清掃、介護、保育、小売りなどの低賃金職種に女性が多い、
  2. 育児・介護等の家族責任を理由としたキャリアの断絶が多い、
  3. 女性が再就職する場合、フルタイムではなく、パートタイムやミニジョブ(パートタイムの一種)を選択することが多い、
  4. 乏しい昇進機会・少ない女性管理職:パートタイム労働者が管理職に就くことは難しい、
  5. 性別役割分担等の社会的固定概念(女性という理由のみで雑用をさせる、程度の低い業務をさせる等)が依然として職務評価や賃金格差に影響しており、男女の「間接差別」につながっている。

なお、こうした構造的要因を取り除き、同一産業、同一資格、同一職務の男女のみで比較した場合でも、賃金格差はなお7%程度残る。

法制度による取り組み

こうした男女格差を解消するため、政府は様々な是正策を講じている。

今年1月1日からは、職場の意思決定に関与する管理職の女性割合を引き上げ、一般労働者にその効果を波及させることを目的とした「女性クオータ法(Gesetz zur Frauenquote)(注2)が導入され、大手企業108社に対して監査役会の女性比率を30%以上とすることが義務付けられた。今後は、これにより、企業文化の変革や、職場におけるさまざまな場面での男女平等が加速することが期待されている。

さらに、男女の同一労働同一賃金(注3)を徹底するために、今年夏を目途に男女同一賃金法案(Gesetzesvorhaben zur Lohngerechtigkeit für Frauen und Männer)が連邦議会で審議される見込みである。連邦家族省(BMFSFJ)によると、同法案は、賃金支払い決定方法の透明性と公平性を高めることを目的としており、従業員500人以上の大企業を対象に、男女同一労働同一賃金の取り組み状況の報告の義務付けなどが盛り込まれている。

このほか、保育の拡充、両親手当制度の拡充、介護休業制度の改善など、女性がハンデを負いやすい構造上の要因を最小限に抑えるための施策などが実施されている。加えて、2015年1月1日から導入された全国法定最低賃金(時給8.5ユーロ)は、多数の女性が働く低賃金職種の待遇改善に重要な役割を果たし、男女賃金格差の解消にも寄与した、と政府は一定の評価をしている。

各種プロジェクトの実施

法制度による是正措置のほか、様々なプロジェクトも実施されており、以下に概要を紹介する。

(1)職務評価ツール「EVA-Liste」

男女同一賃金の取り組みを実効性のあるものにするため、政府は、ハンスベックラー財団が開発した職務評価手法の評価リスト「EVA-Liste新しいウィンドウ」の利用を勧めている。EVA-Listeは、性中立的な質問を通じて労働協約による職務評価を評価することができる簡易なツールで、男女の公平な賃金に寄与することを目的としている。

(2)プロジェクト“未来に向けた地方女性の声”(LandFrauenStimmen für die Zukunft)

都市部よりも男女格差が大きい地方に焦点を当てたプログラムで、講座やネットワーキングを通じた問題への取り組みを促している。

(3)政労共同プロジェクト“女性ののぞみは何か?経済的自立だ!”(Was verdient die Frau? WirtschaftlichEUnabhängigkeit!)

女性の経済的自立の強化を目的としたプロジェクトで、政府と労働組合のナショナルセンターであるドイツ労働総同盟(DGB)が共同で行っている。主に学校を卒業してこれから労働市場へ参入しようとしている若年女性等をターゲットに、当該の年代が興味を抱くようなソーシャルメディアを利用したり、女性が好むようなデザインのクイズサイト「リハーサル(Die Generalprobe新しいウィンドウ)」を運営し、生涯にわたるキャリア継続の奨励と様々な関連支援情報の提供等を行っている。

(4)政労使共同プロジェクト「ガールズデイ/ボーイズデイ」

このほか、技術や理工研究分野へ女性の参加促進を目指す「ガールズデイ」という大規模な若年層への職業紹介イベントを政労使が連携して実施している。ガールズデイは、政労使がアクションパートナーとなり、企業、大学、研究機関などの職業(訓練)・研究紹介イベントに、若い女性(主に小中高校生)を招待するものである。連邦雇用エージェンシー(BA)も参加しており、MINT(数学、IT、自然科学、工学/技術)分野の職業を選択した場合、他の職種よりもキャリアや賃金の展望が高い点などを強調している。2011年からは「ボーイズデイ」も開始されている。これは、より多くの男性の参加が求められている介護や教育(特に幼児教育)分野の職業紹介イベントに若い男性(主に小中高校生)を招待するものである。

以上、ドイツの取り組みを大まかにとりまとめた。EUは昨年末、2020年までに加盟各国の女性の雇用率をさらに引き上げて男女格差をなくし、男女ともに75%の雇用率を達成することなどを目指すための文書「男女平等へ向けた戦略的取り組み2016-2019(Strategic engagement for gender equality 2016-2019)」を発表しており、ドイツはこれに沿って、今後も様々な格差解消策に取り組んでいく。

参考資料

  • BMFSFJ(Mi 16.03.2016 Entgeltungleichheit, Di 08.03.2016 “Einkommensgerechtigkeit: Perspektiven von Frauen im Alter von 30 bis 50 Jahren zur eigenen Existenzsicherung und Alterssicherung”, Do. 14.08.2014 Der Entgeltgleichheit einen Schritt näher - Die EVA-Liste zur Evaluierung von Arbeitsbewertungsverfahren und Beispielanalysen,), DISTATIS (Pressemitteilung Nr. 075 vom 07.03.2016)、DW(18.03.2016、08.03.2016、02.03.2016、04.03.2016), DELTA-Instituts (Do. 14.08.2014), EUrostat ほか。

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