同時多発テロによる商業施設や交通機関など経済への影響
―GDPが0.1ポイントマイナス、経済・財務省の推計

カテゴリー:雇用・失業問題統計

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  • 国別労働トピック:2016年5月

2015年11月13日にパリ首都圏で発生した同時多発テロによるフランス経済に対する影響が見え始めている。GDPが0.1ポイントマイナスという経済・財務省の推計が公表されている上に、現地紙の報道によれば、ホテルや商業施設、公共交通機関に対する影響が見られる。政府は社会保険料の納付期限を延長するなどの対策をとっている。

シェンゲン協定圏内の貿易、10~20%減との試算も

仏首相府下の調査機関フランス・ストラテジーが2月3日発表した調査報告書(注1)は、国境交通の短期的な制限では大きな損害が生じることはないが、国境検査が恒常化すると影響は大きいと指摘している。欧州26カ国のシェンゲン協定(注2)域内で国境検査を復活した場合の経済的影響は、2025年時点で協定加盟国全体のGDP0.8%に相当する1000億ユーロ超に達すると推計している。フランスに限れば130億ユーロに上り、GDPの0.5%に相当する。国境検査が恒常化すれば、人や商品の移動が制限され、観光や商業全般で打撃を受ける。観光客では、日帰り客で5%減、宿泊を伴う客で2.5%減が加盟国全体で見込まれる。2016年2月現在、フランスには約35万人の越境労働者がいる。彼らの通勤時間が増えて生産性が低下する恐れがあるだけでなく、越境労働が減少する可能性もある。

国境検査が実際に再開されたデンマークとスウェーデン間では、両国を往復する通勤者の所要時間が増加した。近年、サプライチェーンは国境を越えて分散化する傾向がある。そのため、商品の輸送時間の増大は、経済活動に大きなマイナスの影響となる。フランスの貿易量の半分は、シェンゲン協定加盟国を相手とする。したがって、国境検査が恒常化すれば、貿易量は11.4%の減少となる可能性がある。また、輸送等のコストが3%程度増大するとも見込まれており、結果としてシェンゲン協定圏内の貿易は10~20%下落することが懸念されている。

15年1月のテロより深刻な影響

パリ首都圏のホテルでは、2015年11月13日のテロ直後から、多くの予約がキャンセルされた。その割合は、同年1月のシャルリエブド誌本社襲撃テロ後の状況と比べてはるかに落ち込みが大きかった。パリ首都圏商工会議所の調査(注3)によると、テロ直後の土曜日(11月14日)と日曜日(同15日)の夜の客室稼働率の低下は、前年の同時期と比べて、それぞれ20.8ポイント、23.1ポイント低下だった。一方、1月のテロ後は2.8ポイントの低下にとどまっていた。宿泊客による自発的なキャンセルに加えて、コンサートや大規模展示会、会議が軒並み中止や延期された。15年1月のテロの影響からようやく回復の兆しが見えていたホテル業界は、11月のテロが発生し大きな打撃を受けることになった。

パリのホテルの客室稼働率は、15年11月から12月期に16%低下した。なお、1月から2月は、3%の低下にとどまった。会計事務所のイン・エクステンソ社のオリヴィエ・プティ氏のインタビューを配信したAFP通信の2016年2月11日の記事(注4)によると、テロの影響は「高価格帯やレジャー色の強いホテルで大きな影響があった」 とする。

航空や地下鉄、バスへの影響

航空業界への影響も大きかった。テロ直後の1週間で、パリ行きの航空機の予約数の27%がキャンセルされた(注5)。日刊紙Le Figaroの取材に応えたAirFrance-KLMのアレクサンドル・ド=ジュニヤック社長は、「テロ後、予約の取り消し数が、新規の予約数を上回っているが、数週間後に回復する」と述べた(注6)ように、11月末には、予約率(提供座席数に対する予約割合)は、前年の水準まで回復した。テロの影響は、5000万ユーロの売上減少にとどまり、3カ月から6カ月でその穴埋めができるとする。一方で、パリ行きの航空券の新規予約の減少が続いているとする報道もある(注7)

パリ交通公社RATPによると、パリの地下鉄(メトロ)やバス、一部の郊外電車RERの乗客数は、通常の半分にとどまり、その後も10%減で推移した。

百貨店来客数の減少

クリスマス前の小売業も打撃を受けた。高級百貨店がひしめくオスマン通りのデパートの来客数は、テロ直後に30%から50%減少した。テロ1カ月後の売上は、それ以前と比べて15%減少した。衣料品店では、来客数が約20%から30%減少した。

パリ首都圏商工会議所が11月19日に行った電話調査によると、商店(小売店)の88%について、テロ以降、来店者数が減少したと回答した。特に、観光地において顕著で、外国人観光客の来店数が減少した。商店の4分の3以上で売上高が減少し、食品以外を販売する小売店及びカフェ(特にテラス席)では8割以上の店舗で売上が減少した。テロ直後の週末には、商店の63%が臨時休業、あるいは短縮営業したと回答しており、食品以外の小売店では75%に達した。ヨーロッパ最大の民間レジャー施設であるパリ・ディズニーランド(パリ郊外)では、テロ翌日の11月14日から17日の臨時閉園後の来園者数は、通常の半分に留まり、2015年第4四半期の売上高は前年同期比で1.1%減となった(注8)

同時テロから3カ月が経った後の2016年2月現在、ホテルやレストランでもテロの影響が続いており、客数はテロ以前の水準に戻っていない(注9)。パリの中心部の繁華街、レ・アルの老舗レストランのル・ピエ・ド・コションは、客数の減少に伴って、日曜日から水曜日に行っていた24時間営業を取りやめた。これは、1947年の開業以来、年中無休で24時間営業していた伝統を崩すものとなった。飲食業の業界団体、SNRTC(注10)によると、12月後半の2週間のレストランの来客数は、対前年比で20%減少となった。

フランスモード研究所によると、衣料関連の個人支出は11月に対前年比で7.7%減少となったが、12月についても3%の減少となった(注11)

派遣労働者数が減少

経済・財務省・財務総局の推計によれば、パリ同時多発テロによってGDPが20億ユーロ減少した。これは、国内総生産の0.1ポイント引き下げに相当する。経済相官房は「このような例外的な出来事の影響を図るための指標を決定するのは非常に難しい」ため、減少額は暫定値だとしている。

中央銀行のフランス銀行は、2015年第4四半期のGDP伸び率予想を、0.4%から0.3%へと下方修正した(注12)。これは、テロの影響を考慮したものである。一方で、2015年の経済成長率の予想(1.2%増)は変更しなかったが、それはテロの影響は比較的軽微であるとの判断による(注13)

雇用への影響を示す公式な数値は公表されていない。人材派遣業界の経営者団体プリス・マンプロワが公表する資料によれば、商業に関係する部門での影響が顕著であり、パリにおける15年11月の派遣労働者数が10%程度減少した。この他の地域としては、南部の観光名所の多いミディ=ピレネー地域圏、プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏で減少が見られた。

社会保険料納付期限の延長による企業支援

こうした状況で政府は企業に対する支援策を講じている。例えば、テロの影響で事業所の一時閉鎖などを余儀なくされた企業を対象に、社会保険料の納付期限延長を決定した(注14)。また、公共投資銀行(BPI)は、パリとその近郊のホテルを対象として、売上の減少幅に応じて、融資の返済期限を6カ月延期する。興行・劇場等には、文化省が400万ユーロの緊急支援の支出を決定している。

(国際研究部)

(ウェブサイト最終閲覧:2016年4月26日)

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