雇用労働部が非正規職に関する総合対策案を発表
―非正規職処遇改善及び労働市場活力向上法案

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  • 国別労働トピック:2015年4月

雇用労働部は2014年12月29日、「非正規職総合対策案—非正規職処遇改善及び労働市場活力向上法案」を発表した。

所得格差の拡大・両極化、労働市場の二重構造、こうした問題に関する議論の争点が非正規職対策に集約される中、本対策案が総合的な対策となり得るかが注目される。

2014年8月までの統計によれば、有期契約、派遣、下請けなど、非正規職として働く労働者は607万7000人で、賃金労働者の32.4%に上る。不安定な雇用形態、正規職との処遇の差異、これらの解決に向けた本対策案は、非正規職対策だけにとどまらず、正規職の今日までの雇用慣行の見直しにも注目した内容となっている。

大きな柱は次のとおりである。

  1. 各雇用形態における非正規職の労働条件の改善
  2. 公共部門における非正規職の労働条件の改善
  3. 労働市場の公正性と活力の向上

以下、各々についてその概要を抜粋して紹介する。

1.各雇用形態における非正規職の労働条件の改善

契約社員(期間制及び派遣労働者)については、現行制度では最長で2年間となっている契約期間を、35歳以上の労働者については当人の希望があれば、2年間延長できるようにし、合計で4年間としようとするものである。そして、4年間の勤務を終えた契約社員を、正規職に転換させなかった使用者には、2年間の延長期間中に支給した賃金の10%を離職手当として、支払う義務が課される。また、退職手当を受け取れる要件も緩和する。現行では、同一の企業において「1年以上」働けば、労働者には退職手当が支給されるが(注1)、この退職手当の受給に必要な勤務期間を「3カ月以上」に短縮しようというものである。この効果は、195万人の労働者に及ぶと推定されている。なお、退職手当は、離職手当とは別のもので、4年の勤務期間を終えた非正規職を正規職に転換しなかった使用者は、退職手当とは別に離職手当も支払わなければならないことになる。

労働者派遣については、現在、派遣可能な業種は32業種に制限されているが、これを、55歳以上の高齢者と高所得専門職については、派遣可能な業種を大幅に拡大し(注2)、更に人手不足が深刻な業種については、今後、規制を緩和していくというものである。拡大範囲については、雇用労働部は今後、政労使で構成する委員会において検討を進めていこうとしている。

非正規職の雇用形態のひとつに特殊形態業務従事者がある。例えば、コンクリートミキサー車の運転手、保険外交員、バイク便、家庭教師等、個人で仕事を請負う形態による働き方であるが、この特殊形態業務従事者に対して、雇用保険、労災保険の加入を義務付けるという内容も本対策案には含まれている。

また、本対策案には修習期間中の最低賃金減額支給に対する禁止も盛り込まれている。現行では、修習期間中にある労働者は、修習期間開始日から3カ月までは、最低賃金の10%の減額適用が可能となっている(最低賃金法第5条)。単純作業に従事する1年未満の有期契約の労働者にも3カ月間の修習期間を設定してこの制度を悪用する事例が見られるため、その対策となっている。

2.公共部門における非正規職の労働条件の改善

非正規職問題の解決に向けて、公共部門に民間部門を先導する役割を担わせようとするものである。すなわち、反復的・持続的に契約される業務については、正規職化(無期契約化)を推進するというものである。

国及び地方の公共機関、政府系の研究機関等において、形態別に非正規職の雇用率制限を設定する等の内容も含まれている。

3.労働市場の公正性と活力の向上

労働市場の公正性を図るために、非正規職を主要な意思決定機関へ参加させる案も含まれている。政労使で構成する委員会への参加や、派遣先企業の労使協議への派遣労働者の参加を可能にしようとするものである。

非正規職に関する差別対策としては、非正規職が賃金や福利厚生等の点で差別を受けたと感じた場合は、個人が労働委員会に差別の是正を申請するという現行の仕組みを、当事者個人に不利益が及ばないよう、労働組合が代わって申請できるようにする改善案も含まれている。

また、企業に対する正規職の採用支援と正規職への転換支援に関する対策に加え、正規職に関する様々な改正案も盛り込まれている。例えば、労働時間の短縮化・柔軟化や、年功給中心の賃金体系から、職務成果を反映した賃金体系への改編等である。

更には、正規職の雇用終了に関しても、明確で合理的な基準を設定していくという内容も盛り込まれている。これまで過度に優遇されているという指摘もあった正規職の解雇に関して、より明確な基準を整備していく方針も示している。現行制度では正規職の解雇には「正当な理由」が必要であるが、これがあいまいなため、紛争となることもある。本対策案は、労働者に対する公正な評価と明確な基準を設定することによって、労働者を公正に評価し、基準に達しない労働者については解雇も可能とし、労働市場の柔軟化を図り、活力の向上を目指そうとするものである。

以上の内容を柱とする「非正規職総合対策案」は、経済社会発展労使政委員会(注3)に提出され、今後、そこで議論が進められる予定となっている。その他本対策案の内容については表のとおりである。

「非正規職総合対策案」に対する労使の意見

本対策案に対する経営側と労働側の意見を紹介する。韓国経営者協会(KEF)は、非正規職の範囲を過度に広げる一方で、活用にあたっては規制が強化されており、労働市場の現状に即したものとなっていない、と指摘する。

一方、二大労組の意見は次のとおりである。韓国労総(FKTU)は、非正規職が量産され、固着化するという根本問題に対する解決策が抜けており、本質的な解決にはなりえない、と批判する。また、民主労総(KCTU)は、労働市場全体が下方平準化されていくおそれがある、と懸念を示している。

表:非正規職総合対策案—非正規職改善及び労働市場活力向上法案の概要
各雇用形態における非正規職の労働条件の改善
  • 基本所得の引上げ
  • セーフティネットの強化
  • 単純労働者に対する最低賃金の減額適用の禁止
  • 従業員10人以下の事業所における月額賃金140万ウォン未満の労働者に対する雇用保険及び国民年金の保険料の補助
  • 正規職への転換促進
  • 非正規職の濫用及び差別防止
非正規職に対する労働条件改善と雇用安定向上
  • 退職手当の拡大適用(受給のための必要勤務期間:現行1年を3カ月へ短縮)
  • 正規職へ転換させた中小企業に対し、賃金引上げ分の50%の援助(1年間)
  • 非正規職(期間制及び派遣労働者)の契約期間(現行最長2年を4年へ延長)
  • 非正規職(期間制及び派遣労働者)を正規職へ転換しなかった場合の契約終了時の離職手当ての支払い(退職手当とは別)
  • 非正規職(期間制及び派遣労働者)の契約更新回数を2年間のうち最大3回までに制限
航空、船舶、鉄道分野における制限
  • 国民の生命、安全に関連し、運行上核となる業務における非正規職の使用制限
  • 安全管理者(産業安全衛生法上)への非正規職の指定禁止
差別防止
  • 個人に代わり労働組合による労働委員会への是正申請を可能とする
派遣元業者に対するルールの明確化
  • 派遣元業者と派遣先業者間、派遣元業者と派遣労働者間での標準的契約書を制定
  • 模範的派遣元業者への「優秀」認定の授与
  • 55歳以上の高齢者と高所得者に対する派遣許可業種の拡大
公共部門における非正規職の労働条件の改善 非正規職の濫用防止と正規職への転換促進
  • 公共機関における非正規職雇用率の制限
    • 公共機関(国) 5%(2016年まで)
    • 公共機関(地方) 8%(2016年まで)
    • 政府系研究機関等 20~30%(2017年まで)
  • 公共機関における正規職化(無期契約)の促進
  • 非正規職に関するガイドライン(注4)に違反する場合の相談窓口の設置
労働市場の公正性と活力の向上 非正規職の意思決定機関への参加
  • 経済社会発展労使政委員会(ESDC)の委員に非正規職代表を追加
  • 派遣先企業の労使協議に派遣労働者の参加を保障。苦情処理制度の利用を可能とする
正規職採用のための企業支援
  • 労働時間の短縮化、柔軟化の促進
  • 賃金システムの合理化
  • 労働環境の変化と実態に応じた就業規則の変更を可能とする基準の明確化(注5)
  • 雇用終了のための基準、ガイドラインの設置

出所:労使発展財団のデータを基に作成

参考資料

  • 雇用労働部新しいウィンドウ、統計庁、労使政委員会、労使発展財団、各ウェブサイト

参考レート

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