今後5年間、引き続き失業者が増加、就業構造は大きく変化
―ILO予測
国際労働機関(ILO)は1月22日、『世界の雇用と社会の展望:2015年の動向』と題する報告書を発表した。それによると、2014年の失業者数は世界全体で2億100万人に達しており、今後2019年までに2億1200万人に増加すると予測している。さらに今後5年間で就業構造が大きく変化すると見ており、それに対する対策が重要だと強調している。報告書の概要は以下の通り。
世界の失業者数、5年後さらに1100万人増加する見込み
2014年の失業者数は2億100万人に達し、金融危機が始まった2007年より3100万人以上増加した。この傾向は今後も続き、2015年までにさらに300万人、その後の4年間でさらに800万人増加し、2019年には計1100万人増の2億1200万人に達すると予測している。
ILOは、金融危機以降多くの雇用が失われたが、今後5年間のうちに労働市場へ新規に参入する者の分を含め、2019年までに2億8000万近くの雇用を創出する必要があるとしている。
先進国の雇用、経済成長の状況
雇用情勢については、金融危機以降、日本やアメリカ、一部の欧州諸国で改善が見られるものの、南欧諸国を中心に、失業率の高止まりが続いている。
経済成長については、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの先進諸国で上向いているものの、日本や欧州諸国の停滞がそれを相殺する状況となっている。
日本について見ると、経済成長率は2013年の1.5%から2014年は0.9%に低下した。政府は2%のインフレ目標を設定し、大規模な金融緩和政策を実施しているが、中長期的には、財政赤字の削減が重要な最優先課題として残る。なお、日本の就業意欲喪失率(the discouragement rate)(注1)は、金融危機後に上昇したものの、2013年には危機前の水準(0.8%)にまで改善した。
世界的な懸念が残る若年失業
15歳~24歳の若年失業率は、金融危機以降あまり改善が見られず、2014年には13.0%と成人(25歳以上)のほぼ3倍近い値となっている。例えば2013年の若年失業率を国別に見ると、アメリカでは成人の2.6倍、カナダでは2.3倍、ニュージーランドでは3.6倍、日本では1.8倍となっていた。
2007年以降、若年者における高等教育卒業資格保有者の割合は、分析可能な30カ国中26カ国で上昇したが、若年失業者における同資格保有者の割合も同様に18カ国中16カ国で上昇していた。現在多くの国で若年者の就業が困難な状態が続いており、予測では2015年には13.1%に増加し、その後も高止まりする可能性が指摘されている。特に2015年以降、若年失業率が大幅に増加すると予測されているのは、東アジアと中東である(図表1)。
図表1:若年失業率の5年後予測 (2014年~2015年)(%)
出所: ILO(2014)
注:上記のチャートは、2014年から2019年にかけた若年失業率の変化予測である。色が濃いほど、失業率が大幅に高くなると予測している(予測不能な地域は白)。
なお、高齢者の雇用は、若年者と比較して状況が安定しており、改善も見られる。いくつかの国では高齢者の失業率が高いものの、早期退職や技能を有する高齢労働者の解雇を避ける努力を一部の企業で実施したためだと思われる。しかしながら、そうした状況にもかかわらず、失業した高齢者が再び新しい職を得る難しさは増している。
就業構造の変化と政策の必要性
同報告書はまた、今後の就業構造の変化も予測している。それによると、今後新たな雇用が最も多く創出されるのは民間サービス部門で、5年間で世界の労働力の3分の1が関連産業で占められると予測している。特に保険医療や対人サービス業務に対する需要が伸びており、大規模な介護市場が誕生する兆しも見られるとしている。
また、保険医療、教育、行政といった公的部門でも増加の速度は落ちるものの引き続き雇用全体の15%を占めると見ている。これと対照的なのが工業部門で、特に製造業の就業者数は今後5年間でほとんど増加せず、2019年時点で雇用全体に占める割合は11%に低下すると見られている。
このようなサービス業労働者の大幅な増加と製造業労働者の割合減少という就業構造の変化は、今後労働市場で求められる技能が大きく変化することを意味している。特に機械操作や組立工などのいわゆる中級技能職は、自動化やデジタル化の進展によって代替されて大きく減少し、こうした業務に就いている労働者は、今後新たな技能を習得しなければより低技能の仕事に移行せざるを得ない状況に陥るリスクがあるとしている。また、中級技能職の消滅速度は途上国や新興国よりも先進国で速くなっており、求められる技能水準の二極化が進み、所得格差の拡大にも影響を及ぼしていると分析している。
機械工や組立工などの定型業務(ルーティンワーク)の減少は、地方や農村部の労働者から雇用改善の機会を奪い、特に教育や訓練機会が得られなかった人々は高技能職へのアクセスが阻まれ、低技能職へ流れる可能性が高い。そして、そのような変化は消費レベルや貧困水準にも影響を与えると見られている。ILOでは、こうした問題を回避するために、「とりわけ女性が経済や社会のラダー(はしご)を上ることを妨げる障壁を取り除き、企業や労働者が新たな技術や技能にアクセスする機会を支援する政策の役割が重要になってくる」と結論付けている。
注
- 就業意欲喪失率は、失業期間の長期化に伴い、自身の能力への不信等から求職活動を断念した者の割合を示す。特に15~24歳の若年層に顕著な問題となっている。(本文へ)
資料出所
- ILO『World employment and social outlook: Trends 2015
(世界の雇用と社会の展望:2015年の動向)』
- 『Private sector services and the care economy, key engines of job creation
(民間サービスと介護市場が雇用創出の鍵に)』
- 『Unemployment on the rise over next five years as inequality persists
(今後5年、平等が拡大し失業増が加)』
- ILO駐日事務所プレスリリース(1月22日付)
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