2014年の協約賃上げ率は平均で3%
ハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)によると、2014年の主な協約賃上げ率は大半の産業において2~4%となり、平均3%だった。2015年の賃上げも定める有効期間の長い協約をみると、2015年の賃上げ率は1~3.3%の上げ幅となっている。
実質的な賃上げは約2%
2014年の賃金協約について、WSIのラインハルト・ビスピンク研究員は、「2014年の消費者物価指数の上昇率は約1%と控えめだったため、全体でみると、協約賃金の実質的な上昇は約2%と推定できる」と述べている。
協約賃金の締結状況は図表1の通りであるが、いくつか紹介すると、2014年初頭に化学産業では、IG BCE(鉱業・化学・エネルギー産業労組)が有効期間を14カ月とする3.7%の賃上げで妥結した。このほか、基幹建設業ではIG BAU(建設・農業・環境産業労組)が、1カ月の賃上げ凍結後、2014年6月から西部で3.1%、東部で3.8%の賃上げを達成。さらに2015年6月からは西部で2.6%、東部で3.3%の引き上げが実施される予定である。銀行では、Ver.di(統一サービス産業労組)が2カ月の賃上げ凍結後、2014年7月から2.4%の賃上げに加え、2015年7月からさらに2.1%の賃上げと150ユーロの追加の一時金の支払いで合意した。
官吏の給与、公務労働者の交渉結果が波及
ドイツの公務員には2種類あり、労使交渉により給与改定が行われていない「官吏(Beamte)」と、労使交渉により給与改定が行われている「公務労働者(Tarifbeschaftigte)」がいる。官吏については、2014年10月の連邦議会で決議された「連邦給与調整法2014/2015年(Bundesbesoldungsanpassungsgesetz)」によって、4月1日に締結がなされた公務・公共サービス部門の協約賃金を、同期間・同内容で適用することが定められた。
締結日 | 労働協約部門 | 当初の要求 | 賃金・給与・報酬 | |
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2014年 | 2015年 | |||
2月5日 | 化学産業 | 5.5% |
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2月11日 | 製菓(東部) | 6.0% |
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2月14日 | エネルギー産業協約連合 (主にE.ON社) | 5.0%(IG BCE) 5.8%(Ver.di) |
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3月12日 | ペイント・ラッカー塗装業(ザールラント州を除く) |
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3月25日 | 醸造業:バイエルン州 |
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4月1日 | 公務・公共サービス(連邦・市町村職員) | 100ユーロ+ 3.5% |
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4月9日 | ドイツテレコム株式会社 | 5.5% |
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4月14日 | 印刷 | 5.5% |
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4月24日 | 日刊紙 (編集業) | 5.5% |
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5月6日 | 基幹建設業 | 7.0% |
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5月19日 | ホテル・旅館: ザールラント州 |
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5月23日 | 木材・プラスチック加工業: ヴェストファーレン・リッペ地方(パイロット協約) | 4.5% |
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6月3日 | ファインセラミックス産業:西部 | 5.0% |
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6月12日 | 金属手工業(電気・自動車関連、配管工、冷却設備工を除く):ニーダーザクセン州 | 5.5% |
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6月23日 | 民間運輸交通 ノルトライン・ヴェストファーレン州 | 5.5% |
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6月30日 | 銀行 | 100ユーロ+ 3.5% |
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7月7日 | ゴム産業 | 5.5% |
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7月8日/ 7月10日 |
製鉄・鉄鋼業: ドイツ北西部/東部 | 5.0% |
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10月30日 | 紙加工業 | 5.5% |
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11月13日 | 繊維・衣料: 西部 | 5.0% |
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※「基礎額(Sockelbetrag)」とは、製造業等の労働ポストに対して比較可能な成果給データがある場合に、基本賃金に加えて支払うもので、月額賃金の固定的構成部分となる。
出所資料:WSI労働協約アーカイブ(Tarifarchiv)2014年12月時点のデータ。
ドイツ鉄道の協約交渉は難航
ドイツ鉄道株式会社は、2014年夏に労働協約期間が満了し、2008年からの多様な労働者グループに対するEVG(鉄道交通労組)とGDL(機関士労組)の管轄を定めた基本協約(Grundlagentarifvertrag)の有効期間も満了した。そのため、GDLは機関士と、新たにその他の鉄道職員(客室乗務員、食堂車乗務員、機関車入替乗務員など)も対象とする賃金と労働条件に関する要求を行った。一方で、EVGはドイツ鉄道の「全労働者」を対象に(つまり、近年の協約交渉においてGDLの管轄範囲に含まれる機関士も対象に含め)、要求を行った。同社は、双方の労働組合と何度も交渉を重ね、その間GDL側は5回のストライキを行った。12月17日にはドイツ鉄道とGDLが一部(2014年分)合意に至ったとの報道がなされたが、1月の現時点では未だ全体的な交渉解決には至っていない。
2015年の交渉動向
2014年12月末に金属・電機産業と公務・公共サービス(州職員)の労働協約期間が満了した。IG Metall(金属産業労組)は5.5%の賃上げと、職業教育/高齢者パートタイム(注1)の制度化を要求している。Ver.di(統一サービス産業労組)は要求内容をまだ決定していない。
さらに2月から4月までの間に化学産業の地域別の労働協約期間が満了となる。IG BCE(鉱業・化学・エネルギー産業労組)の執行部は4~5%の賃上げ要求と「生涯労働時間・人口動態協約」の推進と「人口動態基金(注2)」の拡充を勧告しており、最終的な要求内容は近日中に決定される予定だ。
3月末と4月には、小売業と卸売・貿易業でも広い範囲で労働協約期間が満了する。4月から5月には自動車販売・修理サービス業の多くの分野でやはり労働協約期間の満了を迎え、その後も農業、民間運輸業、ビル清掃業、ドイツポスト株式会社などで労働協約期間が満了する予定で、各産業の動向に注目が集まっている。
注
- 「職業教育/高齢者パートタイム」は、職業教育を受けるためにパートタイム労働を可能とする制度である。(本文へ)
- 「生涯労働時間・人口動態協約(Tarifvertrag.Demografie und Lebensarbeitszeit)」は、化学産業の使用者団体と労働組合(IG BCE)が2008年に初めて締結したもので、長期労働時間口座の導入や部分退職など高齢化社会への対策を定める協約で、「人口動態基金(Demografiefond)」はその対策の中心となる基金。(本文へ)
参考資料
- WSI zieht Tarifbilanz 2014(16.12.2014)、ARD(17.12.2014)、Tarifarchiv、Bundesbesoldungsgesetz、IAB、IG Metall、IG BCE、IG BAU等の各種サイト。
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=131.38円(※みずほ銀行ウェブサイト2015年1月26日現在)
2015年1月 ドイツの記事一覧
- 2015年における労働分野の主な制度変更
- 2014年の協約賃上げ率は平均で3%
関連情報
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