女性雇用政策 
―女性の就業率引き上げのために

カテゴリー:労働条件・就業環境多様な働き方勤労者生活・意識

韓国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2014年8月

朴槿恵政権は、「就業率の70%達成」を重要な政策目標のひとつとして掲げているが、最近の統計を見ると就業率は60.9%(2014年6月時点、統計庁)にとどまり、目標達成にはまだ遠い状況にあると言える。

韓国の就業率が上昇しない最大の原因は女性の就業率が低いためである。就業率60.9%の内訳を見ても、男性71.8%、女性50.4%となっている。朴槿恵政権は政策の対象を主に女性に定めて実施してきたところであるが、女性の就業率は、1995年47.6%、2005年47.7%、2010年46.8%とほとんど同水準で推移している。

こうした中、女性の雇用政策に対しては新たなアプローチが必要だとする意見も出始めている。

韓国労働研究院の論文が示す新たな視点

次に示すものは、韓国労働研究院(KLI)が2014年6月に公表した論文の概要である。

韓国の女性の就業率をグラフにすると、いわゆるM字曲線を描く。結婚、妊娠、出産、育児のため、女性が労働市場から離れてしまう経歴断絶(キャリアブレーク)が起こり、これが女性の就業率を引下げる核心的要因とみなされている。女性雇用政策も、このキャリアブレークを緩和することに焦点が当てられてきた。すなわち、結婚、妊娠、出産、育児による女性の負担をいかにして軽減していくかに多くの努力が傾けられてきた。

例えば、保育費を政府が負担する無償保育制度が2013年より導入された。また、仕事と家庭の両立というスローガンのもと、時間制勤務や柔軟勤務の積極的な活用が促進されてきた。これらの政策が、一定の成果を上げてきたことは確かであるが、キャリブレークの時期に当たる30歳代女性の就業率には過去10年間ほとんど変化が見られない(表1)。

表1:女性の年代別就業率(単位:%)
  2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
15~19歳 8.8 7.3 7.0 5.9 7.2 7.4 8.1 7.8 8.3 8.6
20~29歳 59.4 59.6 59.1 57.9 57.6 57.6 57.9 57.8 57.9 59.7
30~39歳 54.6 54.5 55.5 54.0 53.1 54.1 54.1 55.7 56.1 56.7
40~49歳 63.0 64.3 64.6 64.8 63.1 64.4 64.5 64.6 64.6 65.2
50~59歳 52.5 52.5 54.0 55.5 54.9 56.2 57.6 59.0 59.7 61.2
60歳以上 24.1 25.3 25.1 24.5 22.0 22.4 23.1 29.1 24.8 31.9
総合 47.7 48.0 48.0 47.5 46.2 46.8 47.2 48.8 48.0 50.4
  • 出所:統計庁のデータを基に作成。2014年は6月時点のもの。

女性人材が求められる産業分野

これまで政府が推進してきた政策は、女性の負担を軽減することで就業を促進する、つまり、女性労働の供給を図ろうとする「供給中心」の政策であった。女性人材の受入れに対して、企業側にそれなりの弾力性があれば、その効果も望めるだろう。過去10年間で確かに女性就業者は113万人増加したが、そのうちの74.6%に相当する84万3000人は、保健福祉産業での増加である。これに対し、製造業、卸小売業、飲食宿泊業ではむしろ女性就業者数は10万人程減少している。

保健福祉産業の多くが政府の支援で成り立っていることを考えれば、この84万3000人の増加は、企業の需要に起因すると考えることは難しい。言い換えるなら、女性就業率の上昇に、公共サービス、教育サービス、保健福祉サービス等の分野の需要を除外して考えることはできないということになる。

結婚、妊娠、出産、育児はキャリアブレークの単なるきっかけ

次に本論文では、キャリアブレークの側面からも言及している。高学歴の女性について言えば、配偶者の所得が比較的高いため、一旦労働市場から抜けると、再び戻らない傾向がある。彼女たちが職場にいる数年間に、どのような経歴が形成されるのかによって、キャリアブレークの有無が決定されることになる。本論文の主張するところは、自分の未来と自分の職場に希望が持てれば、簡単には経歴を放棄しないというものである。

結婚、妊娠、出産、育児はキャリアブレークの原因というよりも、ひとつのきっかけに過ぎないのであって、キャリアブレークを防ぐためには、20代の女性に対する昇進、昇給における差別を解消し、訓練等における機会を均等にするなど、人事制度や会社文化の改善にも政府が積極的な役割を果たしていく必要があると結論づけている。

以上のように本論文は、これまでの、女性の就業率向上のための政府の政策には限界があることを指摘するとともに、今後の新たなアプローチを求めている。

韓国女性政策研究院の調査結果が示唆する対策

次に紹介するものは、韓国女性政策研究院(注1)が2013年末に公表した調査結果(「女性管理職パネル調査」)である。以下はその一部の抜粋・概要である。

働く女性をサポートする制度の充実と認識の定着

本調査は従業員数100人以上の企業に勤務する女性管理職(代理クラスを含む)約2000人を対象に、2007年、2008年、2010年、2012年の4次にわたって実施したパネル調査である。

女性管理職に、現在の職場における産休制度、育児休業制度等をはじめとした母性保護の制度の整備状況について尋ねたところ、4次調査時点で、産休制度については98%が、育児休業制度については92%が「制度あり」と回答している。産休制度、育児休業制度については、ほぼ整えられていると見ることができる。その他、保育費支援制度については、「制度あり」という回答が年次を経るごとに増え、2012年次で42.9%に達した。このように働く母親をサポートする制度は年々充実していると言える。

それでは、こうした制度について、実際に職場において活用し易いか否かという質問に対しては、4次調査時点で、産休制度は95%(1次調査では90%)が、育児休業制度は72%(同56%)が「制度の利用は容易である」と答えている。母性保護を当然のこととして受け入れる、いわゆる組織文化といったものが形成され、定着してきたと見ることができる。

また、配偶者の協力について、「配偶者が子育てに関与する」と回答した率は、2次調査で48%、4次調査で55%と高まってきている。共働き世帯を中心に、育児に参加する父親が増えてきている。

以上の調査結果から言えることは、働く女性を支援する制度は整い、仕事と家庭の両立という社会的雰囲気も年々広がりを見せていることである。

女性側の意識

また一方、本調査では女性管理職に対する差別についても尋ねている。職場で差別を受けた経験のある者はほぼ4割に達し、どのような差別を経験したかという質問に対しては「昇進、昇給の差別」という回答が4割程度で、いちばん高かった。差別を受けた理由として考えられることを尋ねたところ、「男性中心の組織文化であるため」と彼女たちは考えており、「女性の仕事能力の不足」と考える者は最も少数(2%程度)であった。

また、「従業員」「上司」「職務」「職場環境」「賃金」の項目のうち、最も満足度が高いものはどれかという質問については、1次調査から4次調査まで一貫して「賃金」が最低である。更に、職場を変わったことのある人(転職経験のある人)に対する質問で、以前の職場を辞めた理由を聞いているが、様々な回答があった中で「労働条件に不満」という回答が最も多く、4次調査で54.4%に上っており、仕事と家庭の両立の難しさを理由に退職したと考えられる回答は少数であった(表2)。

表2:以前の職場をやめた理由(単位:%)
理由 1次調査(2007年) 4次調査(2012年)
労働条件に不満 27.5 54.4
差別を受けた 2.0 1.1
専攻、知識、技術、能力等が合わない 3.2 7.7
職場の休/廃業等会社の理由 9.4 4.4
勧告辞職、早期退職等 2.3 1.1
契約満了 2.0 1.1
結婚 1.6 5.2
出産、育児や子供の学習活動の支援のため 2.6 1.9
会社内での人間関係が原因によるストレス 1.9 3.3
生活の余裕、余暇のため 2.0 3.6
健康問題 2.3 2.2
通勤距離、時間の問題 0.8 0.8
その他 42.5 13.2
  • 出所:「2013年女性パネル調査」(韓国女性政策研究院)

なお、企業の全管理職者数に占める女性管理職者数の比率は、1次調査時点の7.8%から4次調査時点の11%と増加している。

コア人材たる女性管理職の育成が重要

以上は調査結果のほんの一部の概要であるが、本調査においても示されているように、働く女性を支援する制度も整い、職場では仕事と家庭を両立させるための意識も広がりを見せている。そして家庭内においても配偶者による育児の協力が得られはじめている。これらのことを鑑みれば、女性のキャリアブレークの原因を「結婚、妊娠、出産、育児」のみに求めることは難しくなる。調査結果にも表れているように、むしろ離職の理由としては、仕事の内容や賃金、昇進・昇給といった労働条件による場合の方が上回っている。

また、本調査では、昇進についての分析も行っている。それによると、課長クラスから次長クラスにかけての昇進において、女性は男性と比べて昇進率が低下していることが確認される。女性管理職は、この段階において本格的なグラスシーリングを経験することになる。

グラスシーリングの問題は、まさに企業の人事慣行における構造的な制約と見ることができると本調査は指摘している。そして韓国の企業は、女性をコア人材たる管理職として育成するための対策をこれまで疎かにしてきた、と最後にまとめている。

参考資料

  • 韓国労働研究院(KLI)「労働レビュー」2014年6月号
  • 韓国女性政策研究院「2013研究報告書15」
  • 統計庁ウェブサイト

関連情報