年金支給開始年齢を65歳から63歳へ一部引き下げ

カテゴリ−: 高齢者雇用労働条件・就業環境

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2014年8月

政府は7月1日から一部の者を対象に、公的年金の支給開始年齢を65歳から63歳に引き下げた。実施に伴う追加費用は、2030年までの累計で約1600億ユーロに上る見込み。少子高齢化などを背景に先進各国が支給開始年齢を引き上げる中で、一部とは言え、「引き下げ」を行ったドイツの決断に内外で波紋が広がっている。

2007年からの方針転換

メルケル政権は2007年、制度の安定化を図るため、年金支給開始年齢を65歳から67歳へ段階的に引き上げる決定をした。しかし、これには労働組合や左派党(Die Linke)などが強く反発し続け、昨年の総選挙でも争点の一つとなっていた。その結果、年金の見直しを公約に掲げた連立相手の社会民主党(SPD)からの圧力もあり、数カ月に及ぶ調整の末、メルケル政権は支給開始年齢の一部引き下げを決めた。

決定に際しては、46年ぶりに国債発行を停止するなどの好調な国家財政状況も追い風になったと見られる。

年金改革の主な内容

今回の年金改革では、支給開始年齢の引き下げのほか、母親年金や病気退職時の年金増額なども同時に実施された。

(1)65歳から63歳へ
支給開始年齢の引き下げ対象は、1952年以前生まれで、かつ45年以上保険料を支払ったことを証明できる者である。該当者は約90万人と見込まれ、7月1日から63歳で満額の年金を受け取ることができる。介護や育児等により保険料納付の中断がある場合も継続して支払ったと見なされる。なお、1953年生まれから、年ごとに支給開始年齢が2カ月ずつ遅くなるため、1964年生まれの人から65歳支給開始となる。

(2)母親年金の増額
1992年より前に子を生んだ母親(および父親)に対する支給月額が、子ども1人当たり西部で28.61ユーロ、東部で26.39ユーロ、増額された。1992年より前には働きながら育児できる環境が整っておらず、1992年以降に子を生んだ者との格差を是正する目的で実施された。政府は約950万人が該当すると見込んでいる。

(3)病気退職時の年金増額
病気等によって労働者が働けなくなり、早期退職したり、限定的にしか働けなくなった場合に国が支給する稼得能力低下年金が平均で月額45ユーロ増額された。

保険料率、今後さらに上昇

以上の措置を実施するため、政府は昨年12月、2014年の年金保険料率(労使折半)を18.9%に据え置く法案を連邦議会に提出した(法改正がなければ18.3%に下がる予定であった)。現在審議中だが、可決されれば今年1月1日から遡って施行される。また、保険料は今後長期的に上がる見通しで、2019年に19.7%、2025年に20.8%、2030年には最大22%まで上昇する。さらに国庫から支出される連邦補助金も2019年から引き上げが予定されている。

なお、今回の年金改革は順調な経済成長を前提としているため、少子高齢化がさらに加速して経済成長が予想を下回った場合、労使と国の負担が今後さらに膨らむ可能性もある。

労組は歓迎、野党・使用者は反発、国外でも懸念の声

改革について、アンドレア・ナーレス労働社会相(SPD)は、「長年働いた人が安心できる明確なシグナルを発信すべきであり、改革は公平で必要なものだ」と評価、労働組合もこれに賛同の意を表している。

一方で野党は、「財源確保の見通しが甘く、改革は貧困に苦しむ年金受給者の問題を解決しない」として反発している。使用者団体も「未来の世代への負担を増やし、改革によって発生する追加費用の約1600億ユーロは、結局のところ年金保険加入者(労使)と納税者が負担することになる。さらに、本来もっと長く働けるはずの技能労働者が63歳で多く退職すれば、技能不足に苦しむ企業も出てくる」として強く反発している。

国外でも反響を呼んでいる。数年前の金融危機時にドイツは、債務リスクが高い一部のEU加盟国に対して緊縮財政を求め、強硬に年金支給開始年齢を引き上げさせた経緯から、「言動が矛盾している」という非難の声もある。デイビッド・ブレイク英国年金協会会長兼カース・ビジネススクール教授は、メディアに対し、「公的年金制度というのは各国固有の決定事項であるが、平均寿命や人口バランスなどを前提に合理的に判断すべきである。一部とは言え、年金支給開始年齢を63歳に引き下げるのは社会的に無責任な行為だ」と述べ、同様の動きが他国へも波及することを懸念している。

参考資料

  • Die Deutsche Rentenversicherung, Das Rentenpaket: Fragen und Antworten (Erscheinungsdatum: 30.06.2014).
  • Frankfurter Allgemeine Zeitung GmbH (26.05.2014).
  • Deutsche Welle (23.05.2014, 24.04.2014, 10.04.2014).

関連記事

参考レート

2014年8月 ドイツの記事一覧

関連情報