企業の監査役会、女性クオータ制義務づけへ
メルケル首相が率いる連立政権は、企業の監査役会における女性クオータ(比率)を法律で30%以上とすることを近く義務づける。マヌエラ・シュヴェーズィヒ家族・高齢者・女性・青少年相とハイコ・マース司法・消費者保護相が3月25日に発表した法案の骨子によると、法定クオータ制は、上場大手の108社を対象としており、女性の適任者が見つからない場合は空席を維持しなければならない。
法案骨子
ドイツには、従業員が企業経営の意思決定に参画できる「共同決定」という制度がある。例えば従業員2000人以上の大企業には、共同決定法(MitbestG)に基づいて「監査役会(Aufsichtsrat)」が設置される。この監査役会は、取締役の任免など大きな権限を持ち、同数の株主代表と労働者代表で構成される(注1)。
今回、監査役会の女性クオータが義務付けられるのは、共同決定義務のある企業のうち上場最大手の108社で、2016年から株主側と労働者側の各々に30%以上の義務が課される。女性が選出されなければ空席のままとなるが、定員以下の場合でも監査役会の決定は有効となる。このほか自主的なクオータとして、約3500社を対象に2015年から、監査役会、取締役会、幹部等における女性比率の引き上げに向けた目標設定、具体的措置、結果の公表などを求める。
EUクオータ指令案をめぐる動き
こうした動きは、EUクオータ指令案をめぐる動きと呼応している。2011年3月にEU委員会は、2015年までに30%、2020年までに40%の役員の女性比率を達成するよう域内企業に呼びかけ自主参加を募ったが、ほとんど成果が見られなかった。そこで立法によって義務化する方向で調整した結果、域内の上場企業などを対象に社外取締役の女性クオータ制を導入する指令案(EUクオータ指令案)が2012年11月に提出された。同指令案は、従業員規模が250人以上、年間売上高が5000万ユーロ以上の企業に対して、社外取締役(非常勤)の女性比率を2020年までに40%以上(公企業は2018年)とするよう求めている。ただし、各国・企業の個別事情に配慮し、上記にかわり、社内取締役(常勤)の女性比率に関する自主的な目標設定を認めたり、罰則内容も各国に委ねるなど、比較的柔軟な内容となっている。同指令案は、EUの立法機関である欧州議会および閣僚理事会に送付され、欧州議会本会議で2013年11月に賛成多数で可決した。現在は閣僚理事会で審議が続いている。
EUが昨年10月に発表した報告書「EUの指導的立場における女性と男性2013」では、このクオータ指令案をめぐる一連の動きに呼応して、加盟国企業の女性役員比率が上昇していることが明らかになった。今回の法制化もこうしたEUの動きが影響していると考えられる。
2001年の政使協定を経て
政府と使用者団体は2001年、指導的立場の女性比率の引き上げ、男女の機会均等、従業員のワークライフバランス支援策などに企業が自主的に取り組むことで合意し、協定を締結した(注2)。しかしその後10年間、指導的立場の女性比率はほとんど進展せず、ドイツ経済研究所(DIW)のエルク・ホルスト博士は、「企業の自主性に委ねた試みは失敗した」と見る(図表)。博士は「法定クオータ制の導入によって労働者の働き方や企業文化の変革、経済全体の活性化、社会保障制度の維持などの広範囲にわたる波及効果が期待できる」としている(注3)。
図表:指導的立場の男女比の進展状況(2001~2010年)
- 出所:Statistisches Bundesamt, Frauen und Männer auf dem Arbeitsmarkt—Deutschland und Europa, 2012.
一方、経済研究所(IWケルン)のアンドレア・ハマーマン博士は、「法定クオータ制は、女性が指導的地位を得る上で直面する構造的な不利を改善しない。それよりも保育サービスの充実や、女性が少ない自然科学などの分野に就業を促す策が重要だ」と主張しており、導入の効果に懐疑的な見方もある。
法案発表の際にシュヴェーズィヒ大臣は「過去における企業の自発的な取り組みはほとんど進展を見せなかった。法によって企業の監査役会にクオータ制を導入する“歴史的な”決定の時を迎えたことを嬉しく思う」と述べ、マース大臣は「我々は現在最も教育水準の高い女性を抱えている。最終目標は社内取締役のドアを女性に開くことだ」という今後の抱負を述べた。両大臣が共同で提出するクオータ制導入法案は、今年中に審議・採決を経て2015年に施行予定である。
注
- 監査役会の労働者代表には、従業員代表および労働組合代表を含み、合計人数は企業規模により異なる。例えば従業員規模2000人以上~1万人未満の企業の場合、監査役会は計12人で、株主代表が6人、労働者代表が6人(従業員代表4人、労働組合代表2人)という構成になる。ドイツは労働者組織が「従業員代表委員会」と「労働組合」の二重構造になっており、事業所内の従業員利益を代表する「従業員代表委員会」と、産別を中心に企業外で活動する「労働組合」とは、法的には別個の組織である。
- 家族・高齢者・女性・青少年省(BMFSFJ)、教育研究省(BMBF)、経済労働省(BMWA)、交通建設住宅省(BMVBW)の4省(当時)とドイツ使用者連盟(BDA)、ドイツ産業連盟(BDI)、ドイツ商工会議所(DIHK)、ドイツ手工業中央連盟(ZDH)の4経済団体。その後省庁再編により、協定の政府側当事者は現在5省。
- シンポジウム「女性の指導的地位での活躍推進-日独の状況と課題」(共催:ベルリン日独センター、経済広報センター、ドイツ経済研究所他)におけるホルスト博士の発表、質疑応答に基づく(5月20日東京開催)。
参考資料
- BMFSFJ Pressemitteilungen, Bundesfrauenministerin Manuela Schwesig und Bundesjustizminister Heiko Maas stellen Leitlinien fürein Gesetzesvorhaben zur Förderung von Frauen in Führungspositionen vor (25.03.2014).
- European Commission, Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council on improving the gender balance among non-executive directors of companies listed on stock exchange and related measures, COM (2012) 614final, 14.11.2012.
- European Commission (2013) Women and men in leadership position in the European Union, 2013: A review of the situation and recent progress.
- Council of the European union, Report, Interinstitutional File: 2012/0299 (COD), 16437/13, 22.11.2013.
- EIRO online Mandatory quotas for women company directors (28 February, 2014)
- シンポジウム「女性の指導的地位での活躍推進 ―日独の状況と課題」(2014年5月20日開催)資料
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- 海外労働情報2011年11月「女性役員の最低比率 ―法規制めぐり閣僚間で意見対立」
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=137.97円(※みずほ銀行ウェブサイト
2014年6月13日現在)
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