労使対話促進のための従業員代表取締役の任命義務
―法改正による効果は限定的との見方も

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  • 国別労働トピック:2014年6月

大企業を対象として従業員代表の取締役会への参画を義務化し、労働者の権利強化を図る施策が実施されている。若年者採用促進、パート就労時間制限とともに労働者権利強化を目的とした「雇用安定化法」(2013年6月成立)に伴う一連の措置の一つである。同法には人員削減の手続きを簡素化する規定が盛り込まれたが、解雇手続きの長期化や訴訟への発展は労使対立に起因するとの見方があり、企業経営上の意思決定に従業員が関与することによって、労使対話を促進するというのが今回の措置である。だが、規制の対象外になる大企業が多いとの見方もあり、対象となる企業の範囲を見直す必要があるとの指摘がある。

雇用安定化法による労働者の権利強化措置

フランスでは従業員代表を取締役会のメンバーに任命する規定がいくつか設けられている。民営化された旧国有・国営企業では、2名の従業員代表取締役と1名の従業員株主取締役を任命する必要がある(1986年8月6日法)(注1)。また、法律によって定められた公共部門の株式会社(資本の過半数を国が直接所有する株式会社)の場合、取締役は政府代表、株主選出、従業員代表の3つのカテゴリーから構成され、従業員代表は全取締役の3分の1ないし6名を上限として任命する義務が課されている(1983年7月26日法、1996年4月12日法)(注2)。さらに、株式の3%以上を従業員が所有している上場企業は、従業員株主、または従業員持株会(FCPE)(注3)の監視機関の役員(これも従業員)の中から、取締役を少なくとも1人(注4)を指名しなくてはならないというものがある(商法典L.225–23条)(注5)。また、企業委員会の代表2名が取締役会に出席し、傍聴及び意見陳述をすることを認めた規定もある。ただし、この場合は議決権はない(労働法典L.2323–62条)(注6)

2013年6月に成立した雇用の安定化に関する2013年6月14日法(雇用安定化法)では、労働者の権利強化と労使対話の促進を目的として、大企業を対象として従業員代表を取締役のメンバーに任命することを義務化する規定が設けられた。従来の規定に加えて、商法典L.225–27–1条によって対象範囲が拡大された(注7)

若年者採用促進、パート就労時間制限とともに労働者権利強化

雇用安定化法は、2013年1月の労使合意に基づき厳しい雇用情勢への対応を目的として制定された法律である。同法では、職業訓練を受講する権利の強化(転職や失業による職業訓練の受給権利の喪失の回避を目的とする職業訓練個人勘定の創設)、無期雇用契約での若年従業員採用の促進(26歳未満の若年者を無期雇用契約で採用した場合、ある一定期間、社会保険料使用者負担の免除)、有期雇用契約に対するペナルティー(短期間の有期雇用契約に対する社会保険料使用者負担の引き上げ)、パートタイム就労の制限(最低パート労働時間の設定)などが定められた。また、解雇手続きの過程における行政当局の監督強化によって手続きに要する期間を短縮化、訴訟への発展を回避するための規定なども盛り込まれた(注8)

これらに加えて、従業員の権利強化を目的として、大企業(従業員数がフランス国内で5000人以上、または全世界で1万人以上の企業)を対象として、従業員の中から取締役会の構成員(取締役)を選出することを義務づける内容が盛り込まれた(同法第9条)。従業員の意見を企業経営上の重要な業務の執行の決定に反映させることを意図としている。ちなみに、取締役会(Conseil d'administration)は、業務執行の決定等を行う機関である。その構成員(Administrateur=取締役)は、株式会社(SA:Socié té anonyme) の場合、3人以上18人以下で、株主総会で選出される。企業委員会(注9)を設置しているフランス企業(本社をフランス国内に置いている従業員数50人以上の企業)は、従業員を少なくとも1人(取締役会の定員が12人以下の場合)もしくは2人(取締役会の定員が13人以上の場合)を取締役に任命しなくてはならないことになった(注10)。この任命の期限は、法律施行の6カ月以内に従業員取締役の選出方法を決定し、さらに6カ月以内に従業員取締役を選出しなくてはならないとされている(注11)

今回改正の適用対象は4割強にとどまるとの見方も

従業員の権利強化を目的とした雇用安定化法のこの規定だが、その実効性に疑問があるとの指摘もある(Les Echos紙参照)。パリ証券取引所の株価指数算出の基礎となるCAC40(注12)の企業を代表的な大企業として捉え、この規定の効果を確認してみると、40社のうち8社(20%)は既にこの規定を満たしているが、同法の成立によって任命義務が発生する企業は17社(42%)にとどまり、15社(38%)は雇用安定化法における従業員取締役選出の義務化の対象にもなっていないのである。航空宇宙産業のエアバスや鉄鋼業のアルセロール・ミタッルなど4社は、フランス国外に本社を置いているため対象外となる。また、不動産業のユニバイユ・ロダムコは従業員数が1496人に過ぎないので対象外。さらに、流通大手のカルフールや多くの高級ブランドを持つモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)、通信機器製造のアルカテル・ルーセント、保険・金融のアクサなど10社は、従業員が50人未満のため社内に企業委員会が存在しなく、雇用安定化法の規定での義務対象とはならない。これらの企業は、グループ企業を数多く傘下にもつ持株会社であるために、従業員規模では50人に満たないのである(表及び図参照)。

表:雇用安定化法による従業員代表取締役任命義務対象外のCAC40企業
本社が仏国外にある企業 4社 エアバス・グループ、アルセロール・ミッタル、ジェムアルト、ソルベイ
従業員数が規定未満 1社 ユニバイユ・ロダムコ
企業委員会設置義務のない企業(従業員数50人未満) 10社 アルカテル・ルーセント、アクサ、キャップジェミニ、カルフール、ルグラン、LVMH、サノフィ、シュナイダー、テクニップ、バローレック
  • 出所:Les Echos紙等を参考に作成

図:従業員代表取締役任命義務(CAC40企業)

  • 出所:Les Echos紙等を参考に作成

労使対話促進という目的実現に疑問も

このようにみると、雇用安定化法の企業経営に従業員を参加させるという目的は実現しているとは言いきれないことがわかる。ただ、既述のように持株会社は従業員規模が小さいために従業員取締役を任命する義務が生じないが、傘下にある子会社が、従業員数5000人以上であれば規定の対象になる場合もある。例えば、アクサの子会社では、従業員の取締役を任命することが義務付けられるようになったところもある。また、法律では2015年6月30日までに政府が、この法律の実施状況に関する報告書を国会に提出しなくてはならなく、その中で適用範囲に関する勧告を盛り込まなくてはならない。この法律の改正の余地は残されている。

さらに、現行の規定でも企業側が自主的に従業員代表の取締役を任命することが可能である(1986年のオルドナンス(注13)等によって)。だがその一方で、経営側が懸念する材料がないわけではない。取締役会における従業員取締役の存在が大きくなった場合、従業員としての立場を過度に主張するなどして、経営上の意思決定が迅速にできなくなり、意思決定機関としての機能が不全となる恐れがある。そのため、企業経営に詳しいクリストフ・クレール弁護士(注14)によれば、従業員取締役の選出が義務化されていない場合、企業が取締役に従業員を積極的に登用するのは難しいと指摘している。

参考資料

(ホームページ最終閲覧:2014年5月27日)

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