雇用労働部が「賃金体系改編マニュアル」を発行

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雇用労働部は、2014年3月20日、「新しい未来を開く合理的な賃金体系改編マニュアル(以下、『賃金体系改編マニュアル』と記す)」を発行した。

2013年の法改正により、60歳定年制が義務づけられたことを契機に注1、学界と産業界には、現行の賃金体系の問題点と今後の方向に関する議論が広がりを見せている。また、各企業においても、賃金体系改編の方向・方法についての検討が始まっている。

こうした中で、雇用労働部は「賃金体系改編マニュアル」を作成・発行し、賃金体系改編の方向性を提示した。これにより、労使間での対話と協力を促進し、自主的に賃金体系を改編していくための支援を行なおうとするものである。

雇用労働部が示した賃金体系改編のための方向性

「賃金体系改編マニュアル」の内容は、(1)賃金構成を、基本給を中心としたものに単純化する(2)賃金に占める年功給(号俸制)部分の比率を下げ、職務給・職能給を導入する(3)成果に連動した賞与や成果給の比率を上げる――の3点が主な柱となっている。また、改編の具体的事例として、自動車メーカー(生産職)、銀行(事務職)、病院(看護師)の3業種についてのモデルが示されている。

高齢化社会にマッチした賃金体系へ

雇用労働部は「賃金体系改編マニュアル」により、現在の韓国における賃金体系上の諸問題の解決を期待している。「賃金構成の単純化」とは、韓国の一般的な賃金構成は、基本給と各種手当が入り混じり、非常に複雑化しているため注2、決まって支給する手当については、基本給に含めることによって簡素化するというものである。「年功給(号俸制)部分の比率を下げる」とは、韓国で支配的な年功給の仕組みが、若手と中高年層の賃金格差を著しく広げ、その結果、中高年層の雇用継続に負担を感じる企業が、早期退職を促すことも多く、2016年から義務化される60歳定年制を前にして、こうした仕組みを改めて、能力に応じた成果給や職務の価値・難易度に応じた職務給の導入を図ろうとするものである。そして「成果に連動した賞与や成果給の比率を上げる」ことによって、弾力的に人材を登用できる仕組みを促そうとするものである。

このように、「賃金体系改編マニュアル」が発行された背景には、現行の韓国の一般的な賃金体系が、高齢化の趨勢に適合しないものとなってきていることがある。その結果、企業が若者の新規採用を手控える、あるいは、非正規職員として採用する、といった否定的な影響も現れている中で、賃金体系改編は避けて通れないものと言える。

一方で、雇用労働部は、賃金体系の改編は、企業の人事労務管理制度そのものと深く関連しているため、労働組合や労働者とも協議をしながら推進していくべき事項として、各企業において、十分な検討と準備が必要となることも指摘している。

労働側、経営側の評価

雇用労働部が、今回賃金体系改編の方向性を示したことについて、労使の評価は分かれている。

労働界からは、2大ナショナルセンターがそれぞれ反対の立場を表明している。

韓国全国民主労働組合連盟は、改編の内容が、経営者側だけに有利になっていると主張する。

  • 賃金が企業側の恣意的な評価により決定される
  • 団体交渉による賃上げが難しくなる
  • 企業間・部門間・個人間の競争を助長し、労働強化につながる
  • 競争によって高められた成果・業績に比べ、賃金は相対的に下方平準化されていく

――と指摘する。

また、韓国労働組合連盟は、短期的な成果・業績に重点を置いた賃金体系は、これまで築き上げてきた労働者間、部門間の協力文化を破壊し、これによって得られていたシナジー効果は望めなくなるだろうと懸念の声を上げている。

一方、使用者側からは、今回政府が、定年延長を初めとした様々な労働環境の変化に適した賃金体系を構築していく必要性を示したことについて、高い評価が得られている。

「賃金体系改編マニュアル」は、労働者側あるいは企業側のどちらか一方が有利(不利)になるといった議論をするためのものではなく、生産性に応じた賃金分配の調整を試みることがその趣旨であり、今後、各企業において、労使で協議して状況に合った賃金体系を構築していくことが課題となる――と経営者団体の幹部は述べる。

「賃金体系改編マニュアル」 より――

賃金体系改編の具体的な方法及び事例について、「賃金体系改編マニュアル」よりその内容を以下に抜粋・要約する。

基本給中心に賃金構成項目を単純化する

支給基準が明らかでない様々な手当は労働者にモチベーションを与えられず、人件費の管理を難しくしている。

賃金が労働者の職務価値を反映するようにし、賃金管理の効率性を高めるために、諸手当項目の統廃合等、賃金構成項目を単純化する必要がある。

固定的に支払われる手当及び賞与は基本給に統合し、その他の手当は職務価値、職務遂行能力、成果等を反映する方向で統廃合しなければならない。

基本給から年功性を減らさなければならない

韓国の多くの企業が導入している年功給は、基本給、諸手当、固定賞与で構成されている。このような賃金体系下では、基本給が企業成果や労働者の能力と関係なく、持続的に上昇する特徴がある。また、賞与と諸手当または退職金が基本給に連動して引き上げられる特徴を有しており、企業の負担が増加せざるを得ない。

基本給の年功による自動上昇分を減らし、手当、賞与を基本給に連動して支払うことをやめ、手当は本来の目的に合うように、項目別に定額で支払うことが望まれる。

賞与は成果と連動しなければならない

年功給に基盤を置いた固定給の比率を減らし、成果と連動した変動給的賞与または成果金の比率を増やすことが望まれる。

変動賞与を導入する場合、経営成果がよいほど労働者に支払われる賃金が上昇する長所がある。

賃金体系改編の具体的事例(賃金体系改編モデル)

雇用労働部が作成した業種別賃金体系の改編モデルを表に示す。なお、雇用労働部は、これらのモデルは、試案的かつ標準的なものであり、今後、業種別に具体的な適用やコンサルティング等をとおしての修正や変形が可能である――と説明している。

表:賃金体系改編の具体的事例(賃金体系改編モデル)
区分 自動車メーカー生産職 銀行事務職 病院看護師
業種・職種の特性
  • 基本給が低く時間外手当が多い構造.
  • 完成車製造社は年功給型,部品製造社は職務給型の2元的賃金体系をとり、その賃金格差が大きい.
  • 大企業は,賃金ピーク制(定年まで雇用保障する代わりに,一定の年齢から段階的に賃金を削減していく制度)をとらないまま定年延長する状況にあるが,中小企業は定年保障が厳しい状況.
  • 政府の銀行業寡占的保護により,競争が起こらず,相対的に安定性を追求する組織文化が存在する.
  • 年功給型賃金体系,高い賃金水準,名誉退職によって賃金ピーク制が有名無実化している.
  • 初任給の市場賃金が形成されている.
  • 職務配置及び労働移動が熟練度によって決定される.
  • 同一職種内の類似賃金水準に対する関心が高く,それに収斂する現象がある.
  • 定年前の市場退場が普遍的であり,現在は人材不足状態にある.
総合改善策
  • 短期的には,完成車製造社では職務転換をとおした定年延長を導入する代わりに賃金ピーク制を導入する.
  • 長期的には,完成車製造社では既存の年功給を基にした賃金体系,部品製造社では既存の職務給を基にした賃金体系を,それぞれ生産性を反映した熟練給に転換し,生産性が衰える年齢(40代半ば以降)以降は職務難易度に応じた職務給に転換していく.
  • 短期的には,賃金ピーク制を活性化させる.
  • 長期的には,一般職の役割を中心とした熟練給体系と専門職の職務給体系というデュアルラダー(dual ladder)に転換(約40歳以降)していく.
  • 40歳までは熟練給型賃金体系とし,年功給の部分を改善する.
  • 短期的には,市場における賃金情報の改善とその拡散を促進する.
  • 長期的には,広義の職務(職種)給を基盤とし,熟練給的要素を混合する.
  • 労働力供給不足の状況を考慮して,中高年層の職務の段階的拡大/転換により,専門職賃金体系へ誘導する.
賃金水準の決定
  • 基本給は熟練給とし,完成車製造社では既存の年功的体系を改善する.部品製造社では既存の単一職務給的体系の改善に焦点を置く.双方とも40代半ば以降は熟練度を反映した職務給的体系に転換する.
  • 賃金の上昇は, 熟練度の向上による熟練給に基づく.職務給体系では,職務転換と熟練度の向上によって賃金は上昇するが,成果差により部分的に上昇させる.
  • 基本給は熟練給中心とし,中盤以降は役割給と職務給に分化させる.
  • 賃金の上昇は,熟練給は熟練度の上昇,役割給は職級の上昇.職務給は職務転換によるものとし,全て職能的要素と成果差により部分的に上昇させる.
  • 基本給は熟練度を基盤とした職種給とし,中高年以降は職務給体系とする.
  • 賃金の上昇は,職種給では実務による熟練度の向上や資格取得等の職能的要因による.職務給では職務や職級(役割)の変化による.
成果要素の反映
  • 40代半ば以前は,集団成果給とする.
  • 40台半ば以降は,個別成果給と集団成果給とする.
  • 賃金構成比としては総額の10%前後とする.
  • 一般社員(労組員)は,集団成果給とする.
  • 幹部クラスは,個別成果給とする
  • 賃金構成比としては総額の30%前後とする.
  • 一般看護師(労組員)は,集団成果給と個別成果給とする.
  • 中高年以降は,個別成果給とする.
  • 賃金構成比としては総額の20%前後とする.
優先課題
  • 完成車製造社と部品製造社間の職務比較をする.
  • 賃金ピーク制の再設定.
  • 賃金情報の改善と提供.

資料資料

  • 雇用労働部、韓国全国民主労働組合連盟、韓国労働組合連盟、韓国経営者総協会、各ウェブサイト、「1994年海外労働情勢」厚生労働省

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