「通常賃金」の解釈で論争激化
―時間外労働手当など算出に影響

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2013年7月

時間外労働手当などの算出基礎となる「通常賃金」の解釈をめぐって論争が白熱化している。従来の行政解釈を覆して、大法院(最高裁)が昨年に、定期賞与が通常賃金に含まれるとの判決を下したためだ。この問題をめぐって、現在、60以上の企業で労使が係争を続けている。

行政解釈と最高裁判決の対立

「通常賃金」は、定期的に一律に支給される賃金であり、基本給と役職手当が含まれる。勤労基準法に基づき、時間外・深夜・休日労働に対しては、通常賃金の50%以上を加算支給しなければならない。

勤労基準法は退職金などを算定する基礎的な平均賃金の定義について規定しているが、通常賃金に関しては勤労基準法施行令に規定されている。また、各種手当を通常賃金に含むかどうかの具体的な判断基準は雇用労働部例規の「通常賃金算定ガイドライン」で定められ、定期賞与は通常賃金には含まれないとされている。

労使はこの行政規則とガイドライインに基づき、通常賃金から定期賞与を除外する慣習を続けてきた。地方裁判所も長年、これに一致する解釈を行ってきた。しかし、大法院は昨年3月、大邱市外バス会社である金亞リムジンの労働組合が会社側を提訴した裁判で、これまでの判例と行政規則に反し、四半期ごとに勤続年数に応じて支払われる定期賞与は通常賃金の計算に含めるべきであるという判決を下した。

大法院の判決に基づき、通常賃金を定期賞与に含めるとすると、企業は現在の慣行を見直す必要に迫られ、結果として予期せぬ人件費の増大を招く恐れがある。賃金請求権の時効は3年であり、労働者は過去3年分の未払い賃金の支払いを求め訴訟を起こすことができる。

韓国GMなど60以上の企業が係争中

通常賃金の問題が国会や世論で大きく取り上げるようになったのは、韓国GMの問題が関係している。

韓国GMの労働組合は、定期賞与も通常賃金に含まれるとして、未払い賃金の支払いを求め会社側を提訴した。裁判所は、2008年の1審、2011年の2審ともに通常賃金の項目に関して組合側勝訴の判決を下した。韓国GMは現在も、大法院の判決を待っている状況にある。

5月初旬に米国を訪問した朴槿惠大統領は、GMのダニエル・アカーソンCEOと面会し、同氏から「通常賃金の問題を解決してくれれば、投資を継続する」という提案を受けた。これに対し、朴大統領は「韓国経済全体が抱えている問題である。合理的な解決策を探してみる」と答えた。この大統領の訴訟当事者企業に対する発言が物議をかもし、裁判所に影響力を行使する「司法への圧力」と批判された。

韓国GMのほかにも、現在、大宇造船海洋、現代自動車、韓国産業銀行、起亜自動車、錦湖タイヤ、双竜自動車、タタ大宇商用車などの大手企業を含む60以上の企業が通常賃金をめぐって裁判を行っている

雇用労働部が賃金改革委員会における議論を開始

雇用労働部は、これまでの通常賃金の問題をめぐる判決は特定の企業に対するものであり、状況がそれぞれ異なるため、すべての企業に一般化することは難しいとしている。また、大法院の判決は、全裁判官の合議体で判断されたものではないため、今後、別の判決が出ることもあり得ると指摘している。雇用労働部は、個々の労使が長い間に形成してきた通常賃金に関する合意を尊重する立場をとっている。

雇用労働部は20年以上にわたり勤労基準法施行令と通常賃金算定ガイドラインを変更していないため、政府が通常賃金をめぐる対立を放置しているとの批判も出ている。

雇用労働部は、賃金制度を改善し賃金構造を合理化する対策について検討する12名の労働専門家で構成される賃金改革委員会を設置し、6月21日に第1回会議を開催した。

委員会は、今後2カ月間、労使および様々な専門家から意見を聴取し、賃金制度の実態や問題点について包括的に検討を行う。その後、賃金構造および通常賃金を含む賃金制度を合理化するための改革案を取りまとめる予定である。

房河男(パン・ハナム)雇用労働部長官は、「通常賃金の範囲をめぐって継続する紛争を考慮し、また、最低退職年齢を60歳に引き上げる法律を計画どおり2016年に施行し、労働時間短縮や雇用創出などの喫緊の課題を達成するため、我々は、賃金制度や賃金構造を改革・改善しなければならない」と述べた。

参考

  • 韓国雇用労働部Web情報、韓国労使発展財団Web情報

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