最低賃金、インフレ率を上回る引き上げ

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  • 国別労働トピック:2014年4月

政府は3月、今年10月からの全国最低賃金の改定額を決定した。経済・雇用の好調を背景に、成人(21歳以上)向けの基本額については予測される2%強のインフレ率を上回る3%の引き上げを行う。一方、若年層及びアプレンティス(見習い訓練生)向けの最賃額については、引き続き雇用状況が厳しいことを反映して、インフレ率とほぼ同等の2%の引き上げに留まった。

より長期的な改定案の要望も

最賃制度に関する政府の諮問機関である低賃金委員会は、2月に公表した改定案で、成人向けの基本額について3%の引き上げを提案していたが、政府は3月、これを承認することを決めた。政府の予算責任局(OBR)は、今年のインフレ率を2.3%と予測しており、5年ぶりの実質ベースでの引き上げとなる見込みだ。既に1月には、財相がインフレ率を上回る引き上げを容認(2015年までに7ポンドへの引き上げの可能性を示唆)する発言をしていたこともあり、委員会案における引き上げ幅が注目されていた。

委員会は、2008年(3.8%増)以来となる大幅な引き上げを決めた理由について、景気の見通しが前年(前回改定案の提示時)よりも明るいこと、雇用が好調であること、さらに平均賃金に対する最賃額の比率の若干の低下などを挙げている。政府の承認により、10月の改定では現行の6.31ポンドから19ペンス(3.0%)増の6.50ポンドとなる。委員会は、この引き上げが直接影響する労働者を約125万人と推計、また最賃引き上げによる雇用へのマイナスの影響はほぼないとみている。

一方、若年層向けの最賃額については近年、2012年の引き上げ凍結を含め、基本額に比して改定額が抑制されていた。委員会は、若年層の雇用は景気動向の影響を受けやすいことから、改善を待ってより大幅な改定を行うことを意図していたという。今年の改定に際しては、雇用は依然として成人層よりも低調であるものの、安定化しつつあるとの判断から、実質ベースの額を維持するため、インフレ率相当の改定とした。10月以降は、18-20歳向けが10ペンス(2.0%)増の5.13ポンド、16-17歳向けが7ペンス(1.9%)増の3.79ポンド、またアプレンティス向けが5ペンス(1.9%)増の2.73ポンドとなる。

一方、委員会は今回の引き上げによるコスト増で影響を被る可能性のある低賃金業種として、特に介護業に関して懸念を示している。これまでも、公的介護サービスの委託に際して政府から支払われる委託費の低さが、介護業における低賃金の原因となっていると指摘しており、最賃引き上げへの事業主の対応を可能とする委託費の確保を政府に要請している。

久々の実質的な引き上げは、経営側にも概ね歓迎されている。低賃金委に代表が参加しているイギリス労働組合会議(TUC)及びイギリス産業連盟(CBI)は、いずれも今回の引き上げを支持する声明を発表した。また、会員企業に対する調査で7割が最賃引き上げ支持との結果を得たとしているイギリス商業会議所(BCC)も、政治的影響による大幅な引き上げが回避されたという意味で、「妥当な妥協」として賛意を示している。ただし、低賃金委の報告書によれば、小売業や理容業の業界団体は最賃の凍結を要求していたという。

一方、小企業連盟(FSB)は、改定に関する現行制度の見直しを求めている。現在は、改定に対応する期間が6カ月しか与えられておらず、将来の改定に関する方向性も示されないため、企業にとって不確実性が大きいというのが理由だ。このため、政府の景気予測に基づいて、5年先までの改定の目安を示すことなどを要請している。複数年にわたる改定案の提示については、政府も同様の手法を検討しているとみられる。

図表:賃金・物価および最低賃金の上昇率

図

  • 注:平均賃金額は3カ月間の移動平均、消費者物価指数は各月の値。
  • 参考:統計局ウェブサイトほか

参考資料

参考レート

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