失業関連の公的財政支出、過去10年で実質上半減
―反面、低賃金層の拡大が社会問題に

カテゴリー:雇用・失業問題労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2014年3月

労働市場・職業研究所(IAB)によると、2012年の公的財政支出に含まれる失業関連コストは、全体で538億ユーロと、過去10年間で実質上ほぼ半減したことがわかった。背景には、2000年代前半に始まった一連の労働市場改革(「ハルツ改革」)とその後の好調なドイツ経済により、失業率が大きく低下したことがあると見られている。しかし他方で、低賃金層はむしろ拡大しており、2013年末の連立協定書では、法定最低賃金制度の導入(全国一律8.5ユーロ、2015年1月1日運用開始)が明記されることになった。

失業コストはGDP比率でほぼ半減も、失業者1人あたりでは水準を維持

連邦雇用エージェンシー(BA)、連邦政府、年金金庫などの公的機関が失業対策のために行った財政支出の総額は、ハルツ改革が実施されはじめた2003年時点で915億ユーロにまで達していたが、その後10年で538億ユーロ(2012年)にまで圧縮された。この2012年の失業関連コストは同年の国内総生産の約2%に相応する額であり、2003年の4.3%からほぼ半減することになった。

他方、これを失業者1人あたりで計算すると、2012年は平均1万8600ユーロで、2003年の1万8900ユーロからほぼ変わっていない。また、失業者1人あたりの失業関連コストを失業者カテゴリ別で見ると、失業給付I受給者のそれが最も高く、年平均2万1800ユーロであった。これに、失業給付II受給者の1万8600ユーロ、いずれも受給していない失業者の9900ユーロがつづいた(いずれも2012年)。

表:ドイツの公的財政支出における失業コストの推移
   2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年
登録失業者数 (千人) 4,830 4,812 4,861 4,487 3,776 3,268 3,423 3,245 2,976 2,897
失業者1人あたりコスト (千ユーロ/年) 18.9 19.2 18.0 18.3 17.8 17.1 17.5 18.5 18.9 18.6
総公的財政支出額 (億ユーロ) 915 922 877 822 672 559 598 602 563 538
うち失業給付I受給者関連* 251 247 222 176 123 90 138 140 121 110
うち失業給付II受給者関連** 215 233 246 257 227 205 206 202 191 186
うち僅少向け租税減免 177 173 162 150 121 98 100 103 95 90
うち僅少向け社会保険料減免 271 269 247 238 201 165 154 157 156 151
総公的財政支出額 (%) 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
うち失業給付I受給者関連* 27.5 26.8 25.3 21.4 18.2 16.2 23.0 23.2 21.6 20.4
うち失業給付II受給者関連** 23.5 25.3 28.0 31.3 33.8 36.8 34.5 33.5 33.9 34.6
うち僅少向け租税減免 19.4 18.8 18.5 18.3 18.0 17.5 16.7 17.1 16.8 16.8
うち僅少向け社会保険料減免 29.7 29.2 28.2 29.0 30.0 29.5 25.8 26.1 27.7 28.1
  • * 失業給付I; 健康保険、年金保険及び介護保険に関する保険料。ただし、社会法典第三編428条、125条、126条に基づく給付受給者及び職業訓練措置参加者に関するものは除く。
  • ** 失業給付II; 健康保険、年金保険及び介護保険に関する保険料; 失業給付I受給者向け上乗せ金; 社会法典第二編24条に基づく手当;住宅手当; 暖房手当。2005年より前は、失業扶助、社会扶助及び住宅手当。ただし、社会法典第二編65条4項に基づく給付受給者及び職業訓練措置参加者に関するものは除く。 
  • 出所:IAB, IAB-Kurzbericht 2/2014, S.2.

失業コストの半分弱は僅少労働者の税・社会保険料減免分

上記の失業関連コストに含まれるのは、各種失業給付に関連する支出だけではない。ミニ・ジョブ(月収450ユーロ以下)やミディ・ジョブ(月収850ユーロ以下)といった僅少労働者に対する租税及び社会保険料等の減免措置により生じた、徴収分の欠損金相当額もそこに含まれている。その額は2012年ベースで241億ユーロと、失業関連コスト全体の約45%を占めている。残りの55%(296億ユーロ)は、社会法典第三編(SGB III)に基づき支払われる「失業給付I」と呼ばれる失業手当を受給する者に関するコスト(20.4%)と、社会法典第二編(SGB II)に基づき支払われる「失業給付Ⅱ」を受給する者に関するコスト(34.6%)である。

他方、職業継続訓練措置などの積極的労働市場政策に関連して生じたコストは、この計算に含まれていない。その額は2012年ベースで合計130億ユーロであり、これを失業者1人あたりで計算すると4,349ユーロであった。

なお、失業関連コストを財政支出機関別にみると、その大部分は、連邦雇用エージェンシー(29%)と連邦予算(27%弱)から拠出されたものであった。このあとに、年金金庫(16%)、市町村(12%)、健康保険(8%)、州(7%)、介護保険(1%)とつづいている。

コスト圧縮の背景に、労働市場改革と好調なドイツ経済

公的財政支出に含まれる失業関連コストが大幅に圧縮したのは、雇用状況が改善したことによるところが大きい。2003年から2012年まで10年間で、登録失業者数は483万人から290万人に減少し、失業率も10.5%から6.8%に低下した。これにより失業関連コストが大幅に圧縮したというのである。

このように雇用状況が改善したことの背景には、2002年に始まったハルツ改革とその後の好調なドイツ経済があると、IABの労働市場研究員であるエンツォ・ヴェーバー氏らは考えている。ハルツ改革においては、職業紹介組織の再編等の労働市場サービスの効率化策、失業給付システムの再編等の失業者の労働市場統合策、そして派遣労働の規制緩和等の雇用需要の喚起策などが講じられた。また、ドイツの国内総生産も、実質ベースで2001年から2005年の間に0.6%、2006年から2010年の間に1.4%のプラス成長をそれぞれ記録している。

失業率低下の一方で、低賃金層が拡大

もっとも、今後の展開については、それほどの楽観視はされていないというのが実情である。前述のヴェーバー氏らは、「失業率は2013年の時点ですでに下げ止まっており、これ以上の大きな低下はいまのところ期待できない。もし雇用状況をさらに改善させようとするのであれば、職業養成訓練をはじめとする職業訓練システムをさらに充実させ、職業生活を営む者の継続的な技能修得を大きくサポートする必要がある」と指摘している。

さらに、労働者の賃金額に目を転じると、ハルツ改革以降の推移はむしろずっとマイナス傾向の範囲リンク先を新しいウィンドウでひらくにとどまっており、その中でとりわけ問題となっているのは、低賃金層の拡大である。デュイスブルク・エッセン大学付属労働・職業能力研究所(IAQ)の統計リンク先を新しいウィンドウでひらくによれば、中間賃金の2/3(2011年:時給9.14ユーロ)以下で働く就労者の割合は、就労者全体の23.9%に上っており、1995年から4.9ポイント(約260万人)の増加となっている。また、ハルツ改革において規制が緩和され、2002年の約185万人から2011年には約267万人へと増加した僅少労働者に限定してこれをみれば、僅少労働者全体の71.2%がそのような低賃金で就労しているということである。

このような低賃金層の拡大などを背景に、2013年11月にキリスト教社会・民主同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)との間で締結された連立協定書には、それまでドイツにはなかった全国・全産業共通の法定最低賃金制度の導入(全国一律8.5ユーロ)が明記されることになった。

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