広東省、「企業集団協議および集団契約条例」を公布

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  • 国別労働トピック:2014年11月

広東省人民代表大会常務委員会は9月28日、1996年の「企業集団契約条例」を修正した「企業集団協議および集団契約条例」を公表し、2015年1月1日から施行することとした。新たな条例は、広東省が進める労働者の権利を強化する政策の動向を反映し、集団協議・集団契約に関するプロセス、方式、内容や紛争解決の方法などについて詳細に規定している。

新条例制定の経緯

中国政府は1995年に「集団契約規定」(2004年改正)を施行した。それに基づき、現在、北京市(2005年)、上海市(2008年)、福建省(2011年)、浙江省(2011年)など約20の省・都市で「企業集団契約条例」が制定されている。広東省は1996年に「企業集団契約条例」を施行した。近年、頻発する労働争議を迅速に解決するため、広東省は給与や待遇などの集団協議制度に関する規定を定める議論を行ってきたが、企業や企業団体(香港商会など)の反対により頓挫してきた経緯がある。今回公布された「企業集団協議および集団契約条例」(以下「新条例」という)は、「企業集団契約条例」に賃金の集団協議に関連する事項を追加したものである。

集団協議の協議事項

1996年の「条例」に比べると、「新条例」は集団協議および集団契約の定義に関する規定を詳細化した。集団協議は、賃金報酬、労働時間、休憩休暇、労働安全衛生、保険福利などの事項について、従業員と企業の間で相談する行為である。また、集団契約は、集団協議の結果、従業員と企業の間で合意に達した事項に関して締結される契約である(第3条)。

「新条例」は、従業員と企業が行う集団協議の内容をより明確化した。その内容は、(1)労働報酬の決定および増減、(2)労働時間の延長方法、特別職種の労働時間、労働ノルマ基準の設定などの労働時間制度、(3)休憩時間、週休・年休の取得方法、標準労働時間を実行できない従業員の休憩・休暇、(4)労働安全衛生、(5)保険および福利、(6)女性および未成年労働者の保護、(7)集団契約の違約責任、(8)労使双方が協議すべきと認めるその他の事項――である(第8条)。

「新条例」には、賃金に関する集団協議の協議事項や参考事項なども加えられた。賃金集団協議の協議事項は、(1)賃金水準、賃金配分方式、その他の賃金配分事項および賃金支払い方法、(2)従業員の年間平均賃金および調整幅、調整方法、(3)試用期間、病気休暇等の休暇期間の賃金待遇、(4)双方が協議すべきと認めるその他の賃金に関する事項――などである(第9条)。

「新条例」は、賃金集団協議を行う際に参考とすべき事項として、(1)企業の労働生産性と経済利益、(2)前年度の従業員の賃金総額および平均賃金、(3)所在地の人力資源社会保障部門が公表した企業賃上げガイドラインおよび労働市場における賃金水準、(4)当該地域政府の統計機関が公表した都市住民の消費者物価指数、(5)当該地域の最低賃金、関連政府機関が公表した地域・産業別平均賃金の上昇率、(6)その他の賃金集団協議に関する事項――を挙げている(第10条)。

「新条例」は、従業員と企業が集団協議を行う際に、賃金引上げ、賃金据え置き、あるいは賃金引下げなどを提案することができると規定している。従業員側は企業の利益状況、所在地の人民政府が公表した賃金ガイドライン、当該地域の賃金上昇率や同一産業の賃金水準などの要素に基づき、賃金引上げ要求を提出する。企業は年度の深刻な損失状況や、物価、政府の賃金ガイドラインなどの要素を考慮し、賃金据え置き、賃金引下げなどを提案する(第11条)。

集団協議・集団契約の手続き

集団協議の代表者は労使双方から3~9名ずつ選出し、そのうち双方1名が首席代表者を務める。大規模企業で従業員数が多い場合、代表者数の増加が認められる。労使双方の代表者を相互に兼任することはできない(第12条)。従業員側の首席代表者は工会が派遣するか工会で民主的に選出された者、企業側の首席代表者は法定代表人もしくは法定代表人が書面で委任する管理責任者がそれぞれ務める(第13条)。

集団協議は、通常1年に1回行う(第17条)。従業員の半数以上あるいは従業員代表大会で半数以上の提議があった場合、工会は企業に集団協議の要請書を提出しなければならない(第18条)。労使のどちらかが集団協議を希望する場合、書面で相手方に要請し、要請を受けた側は30日以内に書面で回答する義務がある(第19条)。集団協議の実施期限は要請書の提出から3カ月以内と規定されているが、労使の合意により60日間延長できる(第20条)。

労使双方の代表が協議して合意に達した集団契約草案は、全従業員の3分の2以上が参加する従業員代表大会で討議され、従業員側代表者の全員または全従業員の半数以上の賛成によって採択される。企業は、集団契約の締結後7日以内に所在地の人力資源社会保障部門に集団契約を提出し、審査を受けなければならない(第26条)。

集団契約の有効期間は1~3年である。労使双方は相手方に対し、期間満了の3カ月前までに、新たに契約を締結するかまたは現行契約を継続するかを申し出ることができる(第28条)。

集団協議中の禁止行為

集団協議中の従業員側のストや破壊行為、企業側の妨害行為を防止するため、1996年の「条例」には規定されていなかった内容が加えられた。「新条例」は、集団協議中の従業員と企業の禁止行為として、(1)正当な理由なく、故意に集団協議を拒絶または引き延ばすこと、(2)相手方の代表者を威嚇または利益により誘惑すること、(3)暴力、脅迫またはその他の不法手段により集団協議の秩序をかく乱、破壊すること、(4)関係者の人身の自由を制限し、あるいは侮辱、脅迫、暴力傷害を行うこと、(5)その他の対立を激化させる行為を行うこと――などを規定している(第22条)。

さらに、企業側の禁止行為として、(1)労働組合の権限や従業員側の協議代表者の選出を制限・妨害すること、または従業員側の代表者に報復攻撃すること、(2)集団協議に必要な資料の提出を拒否すること、または捏造した資料を提出すること、(3)集団協議の調停を拒否すること――を挙げている(第23条)。従業員側の禁止行為としては、(1)労働契約に違反し、労務を果たさないこと、(2)労働規律に違反し、または様々な手段で従業員に職場から離脱するよう迫ること、(3)企業の入出通路と交通要路を塞ぎ、阻害し、または遮断し、人員・物資などの入出を妨害し、企業設備、工具または企業の正常な生産経営秩序および公共秩序を破壊すること――を挙げている(第24条)。

紛争解決の方法、協議代表者の法的責任

「新条例」は、集団協議をめぐる労使紛争の解決方法として、(1)地方の総工会が介入し、従業員の行う協議を指導、支援する(第33条)、(2)企業側代表者が組織的に介入し、企業が行う協議を指導、監督する(第34条)、(3)人的資源社会保障部門が職員または集団協議専門家を派遣する(第35条)――などを挙げている。

「新条例」は、集団協議の参加者が協議過程で条例に違反した場合の法的責任についても規定している。協議の代表者が企業秘密を漏洩した場合は、情状に応じて民事上、刑事上の責任を追及すると規定している(第39条)。

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