鉄道改革法案をめぐり2010年以降最大のストライキ
―組織統合の合理化法案、7月22日に成立

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2014年10月

鉄道改革法案に反対する抗議活動が5月22日に本格化し、パリで行われたデモ行進には、2万2000人(CGTの発表)が参加した。6月10日からはじまったストライキではフランス国有鉄道(SNCF)職員の28%が参加したため、列車の運休が相次ぎ、利用者に大きな影響が出た。今回のストライキは2010年以降で最大のものとなり、SNCFによると損失は1.6億ユーロに上る結果となった。このストライキを国民の大半は支持しておらず、国民議会での法案審議が世論の後押しによって早期に終了し、7月22日、同法は成立した。

鉄道改革法案を閣議に提出

フランスにおける鉄道改革は昨年度より着手されており、2013年10月16日、フレデリック・キュヴィリエ交通担当相は、鉄道改革法案(注1)を閣議に提出した。この法案の柱は、2015年1月に現・フランス国有鉄道(SNCF:Société nationale des chemins de fer français)とフランス鉄道網保有機構(RFF:Réseau ferré de France)を事実上統合し、一つの公共鉄道事業体となるSNCFグループを作ることである。

フランスの鉄道の大部分(大都市圏の一部の郊外電車や地下鉄、トラムなどを除く)は、かつて(旧)SNCFが施設・設備を保有、運行を行っていたが、1997年行われた鉄道改革の一環として、列車の運行や管理を行なう現SNCFと鉄道網を所有する鉄道網保有機構(RFF)に上下分離された(注2)

今回提出された法案では、鉄道施設保有機構(SNCF Réseau)と鉄道運営運行機構(SNCF Mobilités)、それにこの2機構を調整・統括する組織である(新)SNCFの3つの商工業的公的機構(Epic:établissements publics à caractère industriel et commercial)(注3)に再編し、SNCFグループを形成することにしている。鉄道施設保有機構は、鉄道網保有機構(RFF)と現SNCFの保守・管理部門が統合されたものとなる。鉄道運営運行機構は、鉄道の運行や料金徴収業務などを行うことになる。また、(新)SNCFでは、鉄道施設保有機構の会長と鉄道運営運行機構の会長が参加する機関において、その意思決定が行われ、その機関は政府(与党)、国会議員、地方及びSNCFグループ内の職員から構成される委員会の監督下に置かれる。

鉄道改革法案の目的

この法案の主な目的は、SNCFとRFFの抱える巨額債務を減らすことである。キュヴィリエ交通担当相によると、現在、総額440億ユーロ以上に上る両組織の債務は、このままでは2025年までに800億ユーロに達する見込みである。このような債務を減らすため、この改革では効率化を進め、情報通信関連費や不動産関連費で7億ユーロ、基礎(共有施設)の職種の統合で5億ユーロの節約になるとしている。また、債務の拡大を防ぐため、鉄道網の整備に関わる費用に上限が設けられ、その財源は、主に国及び地方圏に求めることになる。

現在、SNCFは鉄道施設利用料(通行料)をRFFに支払うかたちで運行がされている。この料金は年々上昇しているが、特に新幹線(TGV)の収益性が低下していることが一因とされている。施設利用料の年々の上昇は、SNCFとRFFの組織間関係に影を落としている。SNCFとRFEの間では十分な情報共有ができていないこともあり、2014年5月、SNCFが車両の幅が従来よりも広い車両を発注し、運行を可能とするためには全国の駅で1300カ所のホームの改修が必要であることが判明した。そのための費用としてRFEがおよそ5000万ユーロの費用を負担しなければならない見込みということがわかった。ホームの寸法という基本的情報をSNCFとRFEが共有していなかったためとされている。

政府は、今回の法改正で列車の運行や管理を行なう組織(SNCF)と鉄道網を所有する組織(RFF)の事実上の統合により、両組織間の意思疎通を高めることも狙っている。ただ、実際にSNCFとRFFの事実上の統合によって、鉄道施設利用料の低下に繋がるのかどうかは不透明である。

この鉄道改革法案では、欧州域内の鉄道自由化への対応も盛り込んでいる。ヨーロッパでは2019年から2022年までに、鉄道網の自由化が予定されている。フランスの鉄道網に、国外の新たな事業者の列車が運行されることが容易になる。そのため、新規参入事業者とSNCFの間での不公平を避けるため、単一の労働協約が鉄道事業に従事する全ての賃金労働者に適用されることも、この法案に盛り込まれた。すなわち、恵まれた条件の労働協約(SNCF職員に適用される就業規則や労働時間、賃金など)の適用を、今後参入する事業者にも義務付けるというのである。

労働組合による抗議活動(ストライキ)

鉄道改革法案に反対する抗議活動が本格化したのは、5月22日である。労働組合の労働総同盟(CGT)、独立組合全国連合(UNSA)、連帯・統一・民主・鉄道員労働組合(SUD-Rail)の呼びかけで行われた。これには労働者の力(FO)も参加したが、フランス民主労働同盟(CFDT)は不参加であった。パリで行われたデモ行進には、2万2000人(CGTの発表、警察発表では数千人)が参加した。この日は、フランス南東部などではストライキも実施され、マルセイユ・ニース間の列車の運転本数が通常の4分の1に減るなど、利用客に影響が出た。

その後、6月17日からの国民議会(下院)での鉄道改革法案の審議に先立って、CGTとSUD-Railは、6月10日の午後7時からのストライキを呼びかけた。これは、5月22日に一部実施されたストライキとは異なり、更新可能なストライキ予告であった(ストライキの延長の可能性を事前に予告していた)。このストライキには、FOと鉄道労働組合独立連盟(First:Fédération indépendante du Rail et des Syndicats des Transports)も賛同し、実際にストに参加した。

6月11日のストライキにはSNCF職員の28%が参加したため、列車の運休が相次ぎ、利用者に大きな影響が出た。新幹線TGVの場合、リールやストラスブール等、フランスの北部・東部に向かう路線で半数のTGVが運休し、ボルドーなど南西部やマルセイユやニースなど南部・南東部に向かう路線では3分の2が運休した。また、パリ首都圏の近郊列車は、3分の2が運休した。さらに、国際列車の一部も運休した。

6月12日には、前日より5ポイント低い23%の職員がストライキに参加した。その後もストライキは続いたが、徐々に参加率は低下していった。参加率は、開始1週間後に当たる6月17日には、当初の半分の14%となった。特に、運転手や車掌のストライキ参加率が下がり、翌18日には長距離列車の運休率が3割まで低下し、その後、22日にはほぼ平常運行に戻った。ただ、パリ首都圏ではストライキが続き、その近郊列車は22日時点で4割が運休していたが、24日までにストライキは収束し、ほぼ平常運行に戻った。

これは、国民議会での法案審議が19日に終了し、翌日から、全国各地で、ストライキの中止が相次いで決定されたためである。それに加えて。ストライキ中は賃金が支給されないため長期化することによって減給が拡大することを避けたいストライキ参加者が多かったことも一因として挙げられる。ただ、今回のストライキは、2010年以降で最大のものとなり、SNCFによると1.6億ユーロの損失となった。

労働組合の主張

キュヴィリエ交通担当相は、この法案は「労働組合を安心させる」ことのできる性質のものとしたが、労働組合は納得することはなかった。CGTとSUD-Railは、この法案がフランスの鉄道の終焉に繋がり、鉄道部門の負債を解消することはないとしている。特に、債務削減が、労務費の削減を通じて実現することを危惧したのである。また、CGTは「この法案が、刷新や鉄道網の発展に関わる財源の見通しをまったく示していない」と批判した。さらに、労働組合は将来の鉄道網の自由化(開放)に危惧を抱いており、政府に対して現在の職員の身分を守るように圧力をかけるかたちとなった。ただ、今回の法改正では、職員の身分に関する変更は一切ないとされている。

労働組合は、今回の改革が鉄道事業に関係する組織の統合には至らず、独立した2つの組織の上に更なるもう1つ組織が誕生する。つまり、統合どころか3つの組織に分かれることになると批判している。CGTは「SNCFとRFFを1つの企業へ完全に統合しなくてはならない」としている。CGTやSUD-Railは、取締役会や企業委員会を(列車の運行や管理を行なう組織と鉄道網を所有する組織のそれぞれに持つのではなく)1つにすることを要求している(Les Echos紙5月22日付参照)。3組織化は、鉄道の自由化への前提条件に過ぎないと警戒しているのである。CGTやSUD-Railは、以上のような主張に基づき、今回の鉄道改革法案の撤回と、新たな(更なる)改革を要求した。ただ、こうした労働組合の主張は1997年以前の国鉄の姿に戻ることを要求しているに過ぎないため、改革という意味では大幅後退とも言える。

鉄道改革法案に反対する抗議行動に関して、SNCF内の主要労働組合は一枚岩ではなく、対応が分かれるかたちとなった。組合員数の規模で最大のCGTと第3位のSUD-Railに、FOとFirstが支持を表明したが、第4位の労働組合であるCFDTは、「鉄道員の将来は、現状より改善される」(同組合のコミュニケ)として、5月22日の抗議行動に参加しなかった。CFDTは、6月10日からのストライキにも反対し、改革に対する修正を要求するにとどまった。同労働組合は「鉄道改革を成功させることは重要である。強硬手段に訴えるのではなく交渉を優先させる必要がある。この改革はフランス鉄道が衰退することを食い止め、国民や企業が期待する鉄道へと発展させるためには不可欠である」としている。また、SNCFでは2番目の規模を誇るUNSAは5月の抗議行動には参加したが、6月10日からのストライキには同調しなかった。同組合は、将来的なストライキへの参加は否定しなかったものの、「建設的な対話」を優先するという姿勢をとったことによる。

ストライキが続く中の6月12日、キュヴィリエ交通担当相は、労働組合との協議の場において、改めて政府の方針を説明した。しかしながら、SUD-Railは「大臣が我々の要求に応えていない」(同労働組合のナタリー・ボネ氏)として、協議の場から退席するかたちとなった。

国民世論と国会での審議

ストライキ開始後6日が経過した6月16日に行った世論調査(注4) によると、76%の国民がSNCF職員のストライキに対して「反対」あるいは「どちらかというと反対」という回答を示した。逆に、ストライキに「賛成」あるいは「どちらかというと賛成」していたのは、22%に過ぎなかった(残りの2%は無回答)。これは、交通機関のストライキが国民生活への影響が大きいことや、恵まれた労働条件のSNCF職員の既得権益を守ろうとする姿勢に対する国民の反発がその背景にあるとされる。労働争議に対して、以前は国民の大多数の支持があったが、今日では支持されないことが多い。ほぼ同時期に実施された舞台芸術関係者(intermittents)の抗議行動に対しては、55%の国民が反対していた(Le Parisien誌)。国民の半数以上が舞台芸術関係者の抗議行動に対して批判的であったことになるが、SNCFの職員のストに対する批判はそれよりも大きかった。政府の対応も、舞台芸術関係者に対しては譲歩案を提示して理解を求める配慮があったのとは対照的であった(注5)

「世論」の後押しもあり、政府・与党は6月17日から国民議会で始まった鉄道改革法案の国会審議を順調に進めた。左翼戦線(Front de gauche)は、60に上る修正案を提出しストライキ参加者の意向を法律に反映するように主張した。また、右派の野党・民衆運動連合(UMP)はこの法案では鉄道の自由化の準備ができないとして糾弾し、政権交代の際には見直すことを強調した(2007年から2010年まで運輸大臣を務めたビュッスロー氏)。

こうした反対政党もあったが、法案は24日に国民議会で採決され、賛成355票(与党の社会党やエコロジー党など)、反対168票(右派のUMPの大部分や左派戦線)で可決された(27人は欠席)。この法案は、元老院(上院)に廻され、7月9日から11日の間に審議された。上院での審議の過程で鉄道運営に国会が積極的に関与することなどが盛り込まれ、最終的には7月22日、国会での手続きが終了し、同法は成立した。

(ホームページ最終閲覧:2014年9月29日)

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