夜間・日曜労働めぐる論争が活発化
―生活の利便性と労働者保護

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2014年1月

夜間や日曜日の就労を厳しく制限しているフランス。例外規定が焦点となった裁判で、パリ高等裁判所は2013年10月、ホームセンターの日曜営業を禁じた下級審の判決を覆し、それを認める判決を下した。経済の活性化や生活の利便性の見地から、国民や政財界にも、規制緩和を求める声は小さくない。一方で労働組合を中心に反対する声も根強く、この問題をめぐる論議が盛んになっている。

日曜就労 厳しく制限

フランスでは、午後9時から翌朝6時までの就労は、原則として夜間就労と見なされ、厳しく制限されている。夜間に事業所を営業するためには、企業側が夜間の経済活動の必要性と社会的有益性を明らかにし、夜間の就労に関する労働協約を締結する必要がある (注1)

また、雇用主には従業員に対して、1週間に少なくとも一度は、連続した24時間以上の休養を与えることが義務づけられている(注2)。しかも、この休日は原則として、日曜日に与えることが規定されている(注3)。もちろん、日曜日に就労することは可能であるが、これは例外として認められているに過ぎない。

労働法典には日曜就労を例外として認める理由や分野が明記されている。緊急工事や季節労働、駅・港等での荷役業務、清掃や保守管理業務、国防に関連する業務、運輸業(交通機関)、腐敗しやすい原料を加工する事業所(乳製品加工業など一部の食品加工業)、連続稼動している製造業の事業所(発電所や製鉄所など24時間稼動している事業所)、ホテル・レストラン・カフェ、興行施設(劇場、映画館など)、レジャー施設、病院、市場(マルシェ)や展示場、警備員や管理人など(注4)

また、県知事や市町村長が日曜日の休日付与義務の免除を認める場合もある。例えば、日曜日に閉鎖されることが「市民に不利益である」と見なされる事業所が該当する(注5)

大消費都市圏(PUCE : perimetre d’usage de consommation exceptionnel)(注6)では、小売業に限り県知事が地元市町村の意向をくんだ上で、日曜日の休日付与義務の免除地域を指定することができる。ただ、この地域にある小売店で日曜日に就業できるのは、日曜就労に同意した従業員に限られ、拒否しても解雇事由とはならない(注7)。また、小売業は、地元自治体の市長の同意の下、年に5回まで営業することが可能である(注8)。この場合、商店は年末商戦時(クリスマス前の繁忙期)やバーゲン期間(1月初めと6月末)の日曜日に営業することが多い。PUCEにおける日曜就業及び年5日の日曜就業に対して、雇用主は原則として平日の2倍以上の賃金を支払わなくてはならない。

さらに、県知事が定める観光地及び温泉保養地注9の小売店は、日曜日に営業することが可能である(注10)。この場合、雇用主は日曜日に従業員を強制的に就労させることが可能で、割増賃金の支払いも義務付けられていない。

このように、フランスでは厳しく制限された法制度の下で日曜日の就労が行われている。

夜間営業禁止の動向

大型化粧品販売店のセフォラのパリ、シャンゼリゼー店では、金曜日から日曜日の夜間、午後9時以降、深夜の午前0時までの従業員の就業が認められていた。これに反対する労働組合が無効を求めて、2012年9月に提訴していた。一審のパリ地方裁判所は、12月明らかな法令違反は見られないとして、労働組合の訴えを退けた。セフォラによると、午後9時に閉店した場合、45人の雇用と20%以上の売上高の喪失につながるとしていた。

しかしながら、今年9月、パリ高等裁判所は、セフォラに対して午後9時での閉店を命じた。判決にはその命令に従わない場合、夜間営業日1日当たり8万ユーロの罰金を科すことも盛り込まれた。セフォラは、この判決に従い、現在、シャンゼリゼー店を午後8時30分に閉店している。

そのほかにも、スーパーマーケット大手のモノプリも、労働組合の労働総同盟(CGT)が求めた夜間就労に関する詳細を盛り込んだ労働協約の破棄がヴェルサイユ高等裁判所で認められたため、午後9時以降の営業が不可能になった。このため、2013年11月から午後9時閉店となった店舗が多い。

ホームセンターの日曜営業で相次ぐ訴訟

2012年1月、ポントワーズ(パリ首都圏のヴァル・ドワーズ県の県庁所在地)地方裁判所は、ホームセンターのブリコラマに対して、パリ首都圏の大消費都市圏(PUCE)内で日曜営業を認められている地域を除くおよそ30の店舗に対して、労働者に日曜日に休息を与えるために、休業を命じる判決を出した。この判決は労働組合の労働者の力(FO)の訴えを受けてのものであった。判決では命令に従わない場合、1店舗につき3万ユーロの罰金を科すという罰則が含まれていた。

ブリコラマは、売上高の15%が日曜日の営業によるものであるため、控訴して日曜日の営業を継続した。しかしながら、同年10月、ヴェルサイユ高等裁判所は、1月の一審判決後もパリ首都圏で日曜営業を続けるブリコラマに対して、一審判決を支持し、PUCE内で日曜営業を認められる地域以外の店舗の日曜閉店を命じた。その結果、ブリコラマは、11月から日曜営業を中止した。

日曜営業の中止を余儀なくされたブリコラマは、同業のカストラマとルロワ・メルランのパリ首都圏にある24店舗が日曜営業していることを不正競争に当たるとして、2012年11月、2社の店舗の日曜営業の中止を求めて提訴した。日曜大工関連小売業界において、カストラマとルロワ・メルランの2社がシェア70%を占めており、大手のホームセンターが優遇されているとブリコラマ側は主張した。これに対して、カストラマの弁護側は、市や県に対して日曜日の休日付与義務の免除の申請をした上で営業していると反論した。ポントワーズ地方裁判所は、ブリコラマの訴えを棄却した(2012年12月及び2013年4月)。

これを受けて、ブリコラマは2013年7月、日曜営業を続ける2社に対して、新たな訴訟に踏み切った。それに対して同年9月、ボビニー(パリ近郊)の商業裁判所はブリコラマの訴えを認め、日曜就業に関する労働法典の規定に反するとして、パリ首都圏の15店舗の日曜営業の禁止を命じ、従わない場合は12万ユーロの罰金を科す判決を出した。しかしながら、翌10月、パリの高等裁判所は一審判決を破棄し、ルロワ・メルランとカストラマに対して、パリ首都圏の店舗を日曜日に営業することを許可した。

ホームセンターの日曜営業に関しては、その他にも複数の裁判が行われており、ブリコラマを中心とした日曜営業に関する法廷闘争は、既に2年近くに渡っている。

プリコラマ訴訟の背景と政界の反応

ブリコラマの経営陣には、業界大手のルロワ・メルランとカストラマに認められている日曜営業が自社に対して禁止されるのは不公平との認識がある。また、事業内容の近い家具・室内装飾業や造園業では日曜営業が認められるのに対して、ホームセンターには認められないという許可基準の不明確さも背景にある。ブリコラマは、その点を改善するため、現行の法規制の改正を政府・議会に求めている。

このような動向を受けて、与野党問わずにホームセンターの日曜営業に賛同する声がある。与党・社会党ではバルトロンヌ国民議会議長、野党では民衆運動連合UMPのコスシウスコ・モリゼ・パリ市長候補が挙げられる。閣僚の中でも、モスコビシ経済相は、日曜就労の規制緩和に前向きの姿勢を示している。ただ同時に、労働者により多くの権利を与えるべきという姿勢を示している注11。これらの声は日曜日の営業が雇用創出・経済活性化につながるとの見方に基づくものである。

首相への提出報告書、基準見直しを勧告

政権内には、日曜就業に関する規制の大幅緩和には慎重な声もある。そのような中、エロー首相は9月30日、ラ・ポスト (郵政公社)のバイィ前CEO氏に対して、日曜就業のあり方に関する報告書の策定を依頼、これが12月2日に提出された。

内容として、まず、日曜営業を許可する指定地区制度の明確化を提案している。観光及び商業地区を指定した制度を見直し、観光活性化地区(PACT:Perimetres d’animation concertes touristiques)と消費活性化地区(PACC:Perimetres d’animation concertes commerciaux)の2種類の指定地区を設定し、条件が均衡するように配慮する必要があるとしている。また、地区指定とは別に各店舗が年間に開店できる日曜日の日数を増やすことを提案している。市町村の首長に許可する権限がある年5日の開店日を年7日に拡大し、これとは別に5日間は店舗側の裁量によって開店できるようにすることを提案している。

一連の日曜営業に関する議論の契機となったパリ首都圏のホームセンターについては、業種・業態ごとの日曜営業許可の基準を見直すことを勧告している。パリ首都圏のホームセンターを対象として、新たな法整備が完了するまでの時限措置として、日曜営業を2014年末まで暫定的に認める措置を提示している。

首相はこの報告書を受けて、より明確で簡潔な枠組みを設けることを目的として、法制度の整備に着手し、2014年中に法律の制定を終える方針を示した注12

ホームセンターの日曜営業については、日曜営業を暫定的に認めるデクレが12月31日に公布され、2014年頭から暫定的に許可されることになった。ブリコラマ、カストラマ、ルロワ・メルランのほか、ブリコ・デポ、ブリコ・マルシェ、ミスター・ブリコラージュなどの各社の合計で178店舗が対象となり、2015年7月1日までの期間に限り、暫定的に日曜営業が認められることになった。公布後で初めての日曜日となった1月5日には、対象となる店舗のほとんどが開店した注13

世論調査、営業賛成が多数に

調査 Opinion Wayが2013年9月に行った世論調査によると、64%の国民が観光地での商店の21時以降営業に賛成している。特に25歳以上35歳未満の年齢層に限ると、この割合は73%に達する。また、調査会社IFOPが990人を対象に10月に行った世論調査によると、国民の69%、特にパリ首都圏に限ると82%が、商店の日曜営業に賛成している。同調査によると、72%の国民が日曜日の商業施設の営業に関する法規制の緩和に賛成している。さらに、71%の国民が、日曜日に平日より高い賃金が支払われるなら就業する意向があるとしている。

統計的にみても日曜日に就労する者は、増加傾向が続いている。労働省が2012年9月に発表した報告書によれば、日曜日に就業したことのある者は2011年時点で650万人、これは雇用労働者の28.7%に相当する。そのうち300万人は、恒常的に日曜日に就業している。日曜日に就業した者の割合は、1990年には20.4%であったが、2000年には25.5%になり、この20年間増加し続けている。日曜に就業している者は、運輸業(特に航空輸送)(69.5%)や医療関連業(病院など)(66.6%)、通信業(報道関係)(63.4%)などに多く、建設関連(7.3%)、金融関連(7.6%)などの業種で少ない。

このように、国民の間では日曜就業に対する理解が深まってきている。

実態は許可なく日曜営業の例も

厳しく制限されながらも実際には、日曜日に開店している商店も少なくない。特に、大都市における小規模商店ではそれが顕著である。カストラマやルロワ・メルランのように、県知事に日曜営業の許可を申請した上で営業する場合もあるが (注14)、実際にはブリコラマ(2012年11月まで)のように、県知事の許可なく日曜営業に踏み切る場合もある(注15)。もちろんこれは違法であり、摘発されれば罰金の支払い等を命じられる恐れがあるが、そういった事例は少ないのが実情だ。これは、日曜日に営業している商店の数に対して、それを摘発に携わる係官が少ないことや、日曜日に莫大な売上を上げる店も少なくないため、仮に罰金を支払っても(罰金支払い命令を受けること自体少ないが)、日曜日に開店する方が利益が上がる店も多いと言われている。

旧来姿勢を堅持する労組幹部

一方で、労働組合には日曜日の就業について反対する強固な考え方がある。労組は日曜営業が労働強化につながると考えているためであり、キリスト教徒が多いフランスでは日曜日は安息日であるという考えも根強く残っているからでもある。労組のうちブリコラマのFOが会社を相手取って、日曜営業の禁止を訴えたのはそのような背景もある。

しかしながら、雇用労働者の中には積極的に日曜日に就労している者もいる。割増賃金として平日勤務時の賃金の2倍以上が支払われることが一因である。カストラマとルロワ・メルランの従業員には、従来どおり日曜日に就業できるよう「Yes Week-end」と書かれたTシャツを着て就労する者や、裁判を傍聴する者もいた注16。彼らによると「割増賃金が支払われる日曜日の自発的な就労の禁止は、社会的・経済的な自殺である」と主張している(注17)。このように、日曜労働に関して、労働組合員と一般的な雇用労働者(従業員)の意識には乖離がみられることもある。

参考資料

参考レート

(ホームページ最終閲覧:2013年12月17日)

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