医療保険制度、都市と農村を統合へ
―政府、経済体制改革の重点として指摘

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2013年7月

中国政府は5月、「2013年の経済体制改革の深化に関する重点意見」を採択した。行政体制、財政・税収、鉄道投資融資、金融、価格、民生、都市・農村の統合、農業、科学技術の9分野にわたる改革の重点を指摘し、このうちの民生の分野では、都市と農村に分かれている医療保険制度の統合を打ち出している。

政府目標、2020年までに皆保険

現在中国は、都市部従業者医療保険制度・都市部住民基本医療保険制度・新型農村合作医療保険の三本柱によって、皆保険を目指している。

改革開放以来、中国政府は都市部・農村部でそれぞれ公的医療制度を制定した。まず1998年に、都市戸籍を持つ従業員を対象とする都市部従業者医療保険制度を実施した。2003年には農村戸籍者を対象とする新型農村合作医療保険制度を試行開始した。そして2007年からは都市非従業者向けの「都市部住民基本医療保険」制度を施行した。これにより、制度上はすべての国民をカバー出来る状態になった。政府の目標は、2020年までに、実際に全国民に保険制度を提供することである(表1)。

表1:中国における公的医療保険制度
公的医療保険制度
  都市部 農村部
名称 都市従業者基本医療保険 都市住民基本医療保険 新型農村合作医療保険
対象者 都市戸籍の従業者 非従業
(都市従業者基本医療保険を除く)
農村戸籍者
(世帯単位)
導入時期 1998年 2007年 2003年
加入形態 強制 任意 任意
加入状況
(2012年)
2.65億人 2.72億人 8.32億人(2011年)

出所:各資料より筆者作成

二重構造の内容―瀋陽市の場合

都市と農村の二重構造という歴史背景により、医療保険制度も都市・農村がそれぞれに制定し、実施している。現在、各地域は公的医療保険制度の実務的な運営の中で、都市部と農村部は医療保険を別々に実施しており、互いに干渉していない。管理部門も、都市部は人的資源社会保障部、農村部は衛生部と分かれている。

以下は、瀋陽市における都市住民基本医療保険と新型農村合作医療保険の例である(表2)。

表2:瀋陽市における都市住民基本医療保険・新型農村合作医療保険の基本状況
  都市住民基本医療保険
(2013年)
新型農村合作医療保険
(2013年)
対象者 高齢者 非従業者
男性
(18~60歳)
女性
(18~55歳)
18歳未満および学生 児童 農村戸籍者
一人当たり可処分所得(年) 2万6341元(2012年) 1万3260元(2012年)
管理部門 瀋陽市人的資源社会保障局 瀋陽市衛生局
加入方式 毎年1~11月に随時加入 毎年1~11月に随時加入 学生の場合、学校により統一加入 指定医療機構や戸籍所在地において 毎年10月~12月に随時加入
負担方式(元/年) 負担方式(元/年)
個人支出 360 455 50 100 70
政府補助 240 240 240 240 280
合計 600 695 290 340 350
入院における給付開始基準(元/回) 入院における給付開始基準(元/回)
一級医院 200 200 100 100 郷級指定医院 0
区属二級医院 300 300 150 150 区級指定医院 0
市属二級医院 400 400 200 200 市属市級医院 500
三級医院 600 600 300 300 省属市級医院 1000
三級特級医院 900 900 500 500    
入院時の給付率(%) 入院時の給付率(%)
一級医院 90% 90% 90% 90% 郷級指定医院 30%(0~200元)
75% (201~3000元)
85%(3001元以上)
区属二級医院 85% 85% 88% 88% 区級指定医院 30%(0~300元)
70%(301~5000元)
80%(5001元以上)
市属二級医院 80% 80% 85% 85% 市属市級医院 50%
三級医院 75% 75% 78% 78% 省属市級医院 50%
三級特級医院 70% 70% 73% 73%    
入院における給付上限(元) 入院における給付上限(元)
  18万 18万 22.5万 22.5万 15万

出所:瀋陽市社会医療保険管理局、瀋陽市衛生局

  1. 対象者

    農村戸籍者は新型農村合作医療保険に加入する。都市住民の場合は高齢者、18歳以上60歳以下の非従業員(女性は18歳以上55歳以下)、18歳未満の住民および学生、児童という四つのカテゴリーに分けられている。それぞれ加入方式や加入時期が異なる。

  2. 加入者の負担方式

    農村住民を対象とした制度は毎年70元の個人支出と、280元の政府補助によって構成される。都市住民を対象とした制度は、政府の補助金が一律に年間240元に設定されており、個人支出はカテゴリーごとに異なる。

  3. 入院における給付開始基準

    都市部の医院は(病院のベッドの数量や医療環境基準により)三等級にランクで分類されている注1。一級医院は町や住民区レベルの病院で、ベッド数が100床以下である。二級医院は市や区レベルの病院で、ベッド数が100~500床である。三級医院は中国衛生部・省衛生庁・市衛生局の管轄で、一定の医療環境基準を満たす(大学付属病院など)医院で、ベッド数が500床以上である。三級特級が最も水準の高い病院である。

    都市を対象とする制度の給付開始基準では、18歳未満と18歳以上の二つに分けている。18歳以上の場合、病院の等級によりそれぞれの給付開始基準が異なり、一級医院が一番低くて1回200元である。三級特級が一番高く、1回900元である。18歳未満の場合、一級医院の給付開始基準は1回100元で、三級特級の給付開始基準は1回500元である。

    それに対して、農村住民を対象とする制度では、医院の等級が、郷級指定医院・区級指定医院・市属市級医院・省属市級医院に分類される。給付開始基準は郷級指定医院、区級指定医院は設定なしで、市属市級医院は500元、省属市級医院は1000元である。

  4. 入院時の給付率

    都市を対象とする制度の給付率は18歳未満と18歳以上の二つに分けている。18歳以上の場合、一級医院が一番高く、90%である。三級特級が一番低く、70%になる。18歳未満の場合、一級医院の場合は90%、三級特級の場合は73%である。

    それに対して、農村住民を対象とする制度の給付率は医院の等級によって異なる。市属市級医院、省属市級医院は50%である。郷級指定医院と区級指定医院は入院費用によって異なる

  5. 入院における給付上限

    都市部では、18歳以上の場合の給付上限は18万元、18未満の場合は22.5万元である。農村部では15万元である。

中国政府が今回、統合を目指しているのは都市戸籍の非従業者を対象とした都市住民基本医療保険制度と、農村住民を対象とした新型農村合作医療保険制度である。2013年中の統合を目標としている。

地方政府、統合政策の検討を加速

社会の開放と経済発展の絶え間ない加速に伴い、中国における伝統的な都市と農村の二重構造は巨大な衝撃を受け、両者の間には大きな「空間」が現れている。そしてその空間において、都市と農村の融合という傾向が見られつつある。このような変化の主な原因は、大量の農民が都市で働き出したこと、都市労働者が一時帰休したこと、都市の郊外(都市と農村の結合部)において絶え間ない開拓がなされていること、そして伝統の戸籍制度に当てはまらない「空間」が表れたことにある。そのため、目下の医療保険制度においては、身分が曖昧な人間を、いかにして医療保険制度に取り入れるかが最も重要な問題になっている。

現状のその他の問題としては、都市と農村の医療保険の管理がそれぞれ別個に行われているため、データの共有がなく、保険への重複加入が発生している。人的資源社会保障部の統計によると、2012年の全国重複保険加入率は10%~15%程度、地域によっては30%に達している。重複加入による本来は無効の補助金は240億~360億元(2012年)に達する。重複加入者は、主に出稼ぎ労働者、都市で就学する農村戸籍の学生、都市戸籍の人と結婚した農村戸籍の人に多い。一部の人は重複加入により給付金を都市と農村の両方からもらい、実際の医療費以上に受給している場合もある。

『2013年の経済体制改革の深化に関する重点作業の意見』に従って、各地方政府は年末までに制度を統一するべく、積極的に統合の政策を設定し始めている。各地域が直面している問題は、統一後の基金損の問題を、どのように解決するかである。

資料出所

  • 瀋陽市社会医療保険管理局、瀋陽市衛生局、人的資源社会保障部、中国証券報、新華社

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