「代表的労組」、引き続きCGTなど5労組に
―法改正による職場選挙を初めて実施
政府は3月29日、向こう4年間の全国レベルの労使交渉権を持つ代表的労働組合を公表した。2008年の法改正により労働者による職場選挙で、一定基準以上の得票率を確保することが代表性付与の条件となった。選挙の結果、これまで同じCGT(労働総同盟)など5労組が選ばれた。
代表性への疑問、選挙による確認へ
従来フランスにおける労働組合の代表性は、国家権力によって承認されるという特徴をもっていた(注1)。従来の制度では、1966年3月31日のアレテ(大臣または知事や市町村が発する執行的決定、省令、命令、告示等)によって、CGT(労働総同盟)、CFDT(仏民主労働総同盟)、CGT-FO(労働総同盟労働者の力)、CFE-CGC(管理職総同盟)、CFTC(仏キリスト教労働者同盟)の5つの主要労組には、全国的な代表性が認められ、所属組合には無条件で交渉権が与えられてきた(注2)。ところが、近年、組合組織率が極端に低下していることや企業レベルでの交渉が盛んに行われる傾向に対して、これまでと同様に法律によって承認される「代表性」へ疑問を呈す声が大きくなっていた(注3)。
この状況を踏まえて(注4)、2008年8月20日の法律によって、労働組合の代表性は国家権力による付与から労働者による職場選挙に基づくものへと転換を遂げた(注5)。従来、「組合員数」「財政」等の5つの基準に基づいて代表性が判断されていたが(注6)、2008年法によって新たに7つの基準によって判断されることになった。5つの基準を継承する点が多いものの、新たに選挙によって支持を得る必要がある項目が盛り込まれた(注7)。その選挙に基づく最低基準として、従業員の代表選挙において、企業レベルでは10%、産業レベルまたは国レベルでは8%の得票率が必要であると明記されたのである。同法には施行後5年間は2008年時点での代表性が付与されるとしており、2013年8月21日までに選挙に基づいた新たな代表性付与の手続きが行われる必要があった。
労使関係近代化の加速の可能性
選挙は、従業員規模11人以上の企業の労働者を対象に2009年1月1日から12年12月31日までに、それ以下の零細企業や在宅就労の労働者を対象に12年11月28日から12月12日までに、農業関連の労働者を対象に13年1月に実施された。総数で545万6527人の労働者による投票となった。最終的にはCGTが26.77%の得票率となりトップで、これにCFDTが26.00%と僅差で続いた。以下、CGT-FOが15.94%、CFE-CGCが9.43%、CFTCが9.30%を獲得、代表的労組に必要な8%ラインを上回った。一方でUNSA(独立組合全国連合)は4.26%、ソリデール(Solidaires)(注8)は3.47%となり基準に満たなかった。
CGT | 労働総同盟 | 26.77% |
CFDT | 仏民主労働総同盟 | 26.00% |
CGT-FO | 労働総同盟労働者の力 | 15.94% |
CFE-CGC | 管理職総同盟 | 9.43% |
CFTC | 仏キリスト教労働者同盟 | 9.30% |
出所:労働省発表資料より作成
上位4労組は代表的労組確保が確実視されていたが、CFTCは危ぶまれていた。上位5労組だけで得票率を計算すると、CFDT、CFE-CGC、CFTCの改革派労組が合計で51.15%と多数派を確保する結果となった。
近年進められてきた労使関係に関する制度改正は今後さらに加速する可能性がある。2004年の法改正では企業協定によって上位規範を適用除外にできるようになった。今回の選挙実施によって、2008年法の代表的労働組合の概念に関する改革が一歩前進したことになる。労使関係法制の一つの制度の改革という意味だけでなく、集団的労働関係法制の根本的再考につながる理論的意義が包含されている(注9)。すなわち産業レベルを主軸としてきたフランスの労使関係が、法制度上では企業レベルを主軸とするものに変化したと言える(注10)。
一方で、使用者団体に関しても代表性の議論が持ち上がっている(注11)。現在、MEDEF(フランス企業運動)、CGPME(中小企業連合会)、UPA(手工業連合会)の3団体が全国レベルの交渉で代表権を認められているが、自由業者団体のUNAPL、農民団体のFNSEAなどが代表権の獲得に意欲を示している(注12)。
注
- 小山(2011)p151参照。
- 労働政策研究報告書 No.157のp16、小山(2011)のp162、門(2004)のp151、松村(2008)のp25参照。
- 門(2004)のp166参照。
- 小山(2012)によれば、2008年法の成立過程において、2001年7月16日の労使団体による共通の見解があり、2004年の法の成立を経て2008年法による代表的労働組合の概念に関する改革がすすめられたとされている。
- 小山(2012)のp158参照。
- 5つの項目によって労働組合の代表性の判断基準とした(1950年法)。(1)組合員数、(2)財政、(3)独立性、(4)組合の経験および年数、(5)占領期の愛国的態度(小山(2011)) 。
- (1)共和国の価値の尊重、(2)使用者からの独立性、(3)財政の透明性、(4)交渉レベルに該当する職業的および地域的な範囲における最低2年間の活動年数、(5)選挙に基づく支持、(6)主に活動と経験によって特徴づけられる影響力、(7)組合員数と組合費(小山(2012))。
- 労働政策研究報告書 No.157(p18)によれば、連帯労組連合(Union syndicale solidaire=USS)のこと。今日、40の加盟組合を数え、その代表的なものとしては、連帯統一民主労組(solidaires-unitaires-democratiques=SUD)が含まれる。
- 小山(2011)p144参照。
- 小山(2012)p166参照。
- Les Echos
, 25 Avril参照。
- UNAPL(自由業全国連合)のウェブサイト参照
。
参考資料
- 労働省発表資料(Mesure d’audience de la representativite syndicale : annonce des resultats
, 29 mars 2013)
- Le Monde, 2 Avril
- 労働政策研究報告書 No.157 『現代先進諸国の労働協約システム―ドイツ・フランスの産業別協約―(第2巻フランス編)(PDF:1.0MB)』
- 小山敬晴(2011)(2012)「フランスにおける代表的労働組合概念の変容(1)(2)」『早稲田大学法研論集』140 号(pp.143-161)、141 号(pp.153-171)
- 門彬(2004)「職業教育制度及び労使団体交渉制度に関する改革法が成立
」『外国の立法』 221(2004.8)【短信:フランス】 (※PDF資料)
- 松村文人(2008)「フランスの労働組合と左翼政党
」『生活経済政策』2008.8 No.139 (※PDF資料)
(ホームページ最終閲覧日:2013年4月30日)
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