AFL-CIO、団体交渉に頼らない組織化枠組の促進を加速

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2013年11月

アメリカ労働総同盟産業別組合会議(AFL-CIO)は、労働組合に入っていない人を対象とした地域組織NPO「ワーキング・アメリカ」を、全米50州へ拡大することを10月23日に発表した。「ワーキング・アメリカ」には、現在、320万人のメンバーがいる。

戸口を叩いてメンバーを増やす

「ワーキング・アメリカ」は、AFL-CIOが行うパイロット・プログラムとして2003年に11州で始められた。労働組合に入っていない人を対象としているため、組織化の手法も従来とは大きく異なるものとなった。

なお、労働組合を組織するという意味で捉えられることが多い組織化という用語は、英語でOrganizeとなるが、その意味には地域社会やNPO、若者グループを取りまとめるということから、台所を整理して使いやすくするという意味まで含まれている。地域コミュニティをOrganizeするといった場合は、地域住民一人ひとりの参加を促し、彼ら自らが問題を設定して活動ができるようにすることを指す。そのように、Organizeに多様な意味が含まれていることを考慮して、本文では「組織化」という用語を「ワーキング・アメリカ」に対しても使うこととする。

その手法は、キャンバサーという名称の組織化担当者を地域に送り、家々の戸口を一軒ずつ叩くことから始まる。経済情勢に関する会話をしながら、「ワーキング・アメリカ」が提供する健康保険の加入掛け金割引サービスや、継続的に情報提供を行うことを通じて会員になることを促していく。

これまで、その活動は政治目的として利用されることが多かった。選挙時期になると、キャンバサーの人数を増やし、推薦する候補者への投票を呼びかけたり、特定の政策についての支持をメンバーに訴えたりすることがその方法だった。

年会費は5ドルだが、実際に支払っているのは全体の15%ほどに留まる。その人達が、、「ワーキング・アメリカ」の中核的な役割を演じている。このような中核的なメンバーの活動を支援するため、「ワーキング・アメリカ」は各地域に取りまとめ役をするスタッフを配置し、その下に複数のキャンバサーが活動してきた。スタッフはパーマネントで、キャンバサーは年間契約である。

コアとなっている活動は、コミュニティ・アクション・チームによる毎週の会合だ。そこで、スタッフやキャンバサーとともに、取り組むべき課題や、その課題の解決のために具体的に何をするべきか、どうやって他のメンバーを巻き込んでいくか、について議論を交わしている。

現在では、単なる政治活動だけでなく、最低賃金の引き上げや、人間らしい生活のできる賃金を目指すリビング・ウェッジ運動などに活動が広がっている。

「労働運動はもはや交渉単位や職場だけでは生き残れない」

10年間の試験期間を経て、ついにAFL-CIOは「ワーキング・アメリカ」を本格的に運用することを選択した。その背景には近年の労働組合への逆風がある。労働組合の組織率が低くなっているほか、派遣、テンポラリー、請負といったような非典型的な働き方をする人が増えため、合法的に行う企業との団体交渉の持つ社会への波及効果が弱くなっている。さらには、労働組合を作りにくくするような州法を制定したり、公共部門の労働組合の団体交渉権を制限するといった動きが広がっている。

そのような動きに対抗するためにも、労働組合員ではない人たちを地域で直接にメンバーとする組織と労働組合とを強く結びつけるという新たな基軸へとAFL-CIOは大きく舵を切ったのである。(『AFL-CIO「労働運動の再定義」―AFL-CIO2013年大会』 )

それは、「労働運動はもはや交渉単位や職場だけでは生き残ることができない」とするAFL-CIOトラムカ会長の発言して現れた。

具体的には、地域の労働組合と「ワーキング・アメリカ」が共同で教育プログラムを実施したり、労働組合が「ワーキング・アメリカ」のメンバーの仕事に関連した問題をサポートするといったことが考えられているほか、これまでも地域の労働組合と「ワーキング・アメリカ」が協力して、労働組合ではないが労働者の権利を守ったり、職業訓練を実施しているワーカーセンターという組織を立ち上げるといったことが行われてきている。また、労働組合の勢力が弱い南部で活動が広がることを期待しており、これまでのところ、ニューメキシコ州の映画産業や、テキサス州の教員をメンバーにすることが取り組まれている。

ナショナル・センターに直接つながるメンバー

「ワーキング・アメリカ」の実験を始める前まで、労働組合員はAFL-CIOと直接つながっているわけではなかった。AFL-CIOは労働組合の全国組織〈ナショナル・センター〉だが、個人を直接のメンバーにしてこなかったからだ。アメリカには、「労働組合とはどのような組織であるか」を規定する法律はない。法人としてどのような活動や形態であれば免税になるかを定める内国歳入法の適用で労働組合かどうかが判断されているのみである。したがって、その適用内であれば、たとえ企業と団体交渉をすることが認められていなくとも労働組合であるといえる組織が少なくない。労働組合、「ワーキング・アメリカ」、大学、NPOといった組織も状況は似ている。いずれも内国歳入法の適用を受けるが、活動によって適用される法律の条項が変わるという程度である。労働組合が使用者と合法的に交渉することを規定するのは、全国労働関係法である。ここでは、同じ事業所や工場で同じように働き、同じように使用者から扱われている従業員を一つの交渉単位としている。交渉単位に属する従業員の過半数が、労働組合に使用者との交渉を委ねるという投票をしてはじめて、労働組合が使用者と合法的に交渉をすることができるようになる。そうやって交渉権を得た労働組合は産業別組織の下部に位置づけられる。したがって、AFL-CIOと個々の組合員との関係は、産業別組織という階層を経たものになっているのである。

そのような狭い範囲では、もはや労働者全体を見渡すことができないということが、「労働運動はもはや交渉単位や職場だけでは生き残ることができない」というトラムカ会長の言葉となって現れた。

当初は政治目的に利用しようとして、限られた州で試験的に始めた「ワーキング・アメリカ」だったが、その予想を上回る発展を目の前にして、新しい労働運動に活用しようと考えるに至った背景があるかもしれない。ただし、「ワーキング・アメリカ」の実験を始めてから、合法的な団体交渉の保護の下にいない労働者の数が無視できないほど多くなり、従来のやり方のままでは組合数が減り続ける状態に歯止めがかからないという切実な現実が拡大していることも見逃すことができない。そして、気がつけばAFL-CIOは産業別組織の干渉を受ける必要がない直接につながることができるメンバーを手にしたのである。その設立や運営費はAFL-CIOが負担している。

18カ月以内に22州に拡大し、5年後の2018年までには全米50州へ拡大する予定であることをAFL-CIOは発表した。

(山崎 憲)

参考

  • Josh Eidelson, AFL-CIO's Non-Union Worker Group Headed Into Workplaces in Fifty States Leave, The Nation, Apr.13.
  • Ben Pen, AFL-CIO Advances Plans to Expand With Working America’s Nonunion Members, Daily Labor Report, Oct.12.

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