政府、労働時間短縮による雇用創出に意欲
―上限規制の見直しや時間外労働の監督強化へ―

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2012年6月

韓国では長時間労働の問題が長年の懸案となってきた。韓国政府は、労働時間短縮による新たな雇用創出と労働者の生活の質の向上をめざし、労働時間規制の見直しや時間外労働の監督強化などの取り組みを進めている。

現行法、最長週68時間まで容認

韓国の2010年の総労働時間は2,193時間でOECDに加盟する34カ国中最長であった。OECD加盟国の総労働時間は平均1,749時間で、それより444時間も長かった。その主な原因は顕著な時間外労働の実態にある。

韓国の労働時間制度は、勤労基準法によって週当たり40時間の法定労働時間に加え、最長12時間の時間外労働を認めている。1週の労働時間の上限は52時間である。しかし、休日労働は法定労働時間に含まれないため、1週の労働時間は土日各8時間を加えた最長68時間まで延長できる。

また、勤労基準法は、特例業種において使用者と労働者代表が合意した場合には、週12時間を超えて時間外労働をさせることができると規定している。特例業種には、運輸業、物品販売・保管業、金融保険業、映画製作・興行業、通信業、教育研究・調査研究業、広告業、医療・衛生事業、接客業、焼却・清掃業、理容業、社会福祉事業の12業種が指定されている。

上限52時間案は見送り、特例業種は縮小へ

韓国政府は1月、土日の休日労働を法定労働時間の計算に含めるよう勤労基準法を改正する方針を発表した。2011年に発表された調査によると賃金労働者の13.8%に相当する241万人が週52時間以上働いていた。土日の休日労働を含む週労働時間の上限が52時間となった場合、企業は生産を維持するために、既存労働者の労働時間を短縮するとともに、新たに労働者を採用しければならなくなる。政府は、法改正が長時間労働の慣行を改善し、雇用創出と労働者の生活の質の向上につながると期待していた。政府の方針に対し、経営側は法改正による人件費コストの上昇に重大な懸念を表明した。労働側も労働時間の短縮が実質賃金の低下を引き起こしてはならないと主張した。韓国政府は6月に勤労基準法改正案を国会へ提出する予定であったが、関係官庁による協議の結果、法改正を当面見送る方針に転換した。休日労働を法定労働時間に含めるのは、現在の企業環境からみて、直ちには難しいと判断した。

韓国政府はまた、労使合意に基づき週52時間を超えて時間労働が認められる特例業種を大幅に縮小する方針を示している。政労使の代表で構成される労使政委員会は1月31日、現行12の特例業種を26業種に細分化し、このうち16業種を特例業種から外して10業種に削減する改革案を採択した。現在、特例業種の労働者の割合は、勤労基準法の適用を受ける労働者(1,055万人)の38%(400万人)を占めている。改革案が実行されると特例業種の労働者の割合は、13%(140万人)まで低下するという。

自動車産業などで交代制の見直しも

韓国の自動車・同部品産業では長時間労働が特に顕著に見られ、雇用労働部の調査によると、自動車製造業の年間総労働時間は2,500時間、金属加工業は2,400時間であった。自動車・同部品産業における長時間労働の慣行には昼夜二交替制勤務が大きく影響している。これは企業が生産設備を最大限活用しつつ労働費用を最小化するため、既存の労働者の時間外労働や休日出勤に頼っていることによる。また、景気後退時の雇用問題の発生を回避する目的もある。

韓国政府は、長時間労働を改善するため、時間外労働の限度時間に係る違反の取り締まりを強化している。これを受けて、自動車産業では最近、昼夜二交替制を見直し、昼間二交替制の導入を検討する企業がでてきている。現代自動車は、2013年から徹夜勤務を廃止し、昼間連続二交替制を導入することを決定した。現代自動車の現在の勤務時間は昼間午前8時~午後6時50分、夜間午後9時~午前8時である。これを午前6時30分~午後3時10分、午後3時10分~午前0時50分に変更する。

現代自動車は2005年に昼間二交替制の導入について労使で合意した。しかし、労組側が賃下げなしの労働時間短縮を要求する一方、経営側は生産性の確保なしには受け入れられないと主張したため、今日まで実施できなかった。労働組合が労働時間短縮を要求しながら、昼夜二交替制を続けてきた背景には、50%の時間外割増手当に依存して生計を維持してきた実態がある。長時間労働は、労使の暗黙の合意に基づく慣行となって いた。

現代自動車以外に、韓国GMや双竜自動車も勤務体制の改編について労使で議論を始めている。起亜自動車では、3月末から昼間二交替制を試験的に実施している。起亜自動車の組合員に対するアンケートでは、9割以上が昼間二交替制を肯定的に評価していた。しかし、労働時間短縮に伴う賃金低下や生産性向上と生産量確保、新規従業員採用などの問題が課題として残っているという。

韓国政府は、昼夜二交替制を昼間二交替制や三組二交替制などに改編して新規に労働者を採用した企業に対し、賃金や職業訓練費用の一部を助成する支援策を実施している。

参考資料

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