技術者、短期では供給過剰も
―不足論に反論、DIWが検証

カテゴリー:雇用・失業問題

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2012年6月

ドイツ経済研究所(DIW)は、技術者の欠員需要について検証した結果、今後15年以内の比較的短期においては、人材不足よりもむしろ供給過剰となる可能性があり、人口動態の変化を考慮した長期の需要予測と混同すべきではないとの警告を発した。

高齢化、際立って認められず

ドイツ技術者協会(VDI)は近年、技術者不足を訴え続けている。同協会によると、技術者の平均年齢は50~51歳で、今後10年から15年の間に、全技術者の約半数が退職すると予測。平均で年間4万人の欠員需要があるとしている。

しかし、ドイツ経済研究所(DIW)のカール・ブレンケ研究員が、ドイツ技術者協会の欠員需要予測について、マイクロセンサス(小規模国勢調査、全人口の1%)と連邦雇用エージェンシーの雇用統計を用いて検証したところ、マイクロセンサスによると2008年の技術者の平均年齢は43.3歳で、50歳以上が占める割合は29%のみだった。この平均年齢についてブレンケ研究員は「技術者は職業訓練期間が長いため、比較的高い年齢で初めて労働市場参入する事情を考慮すると、際立った高齢化は認められない」としている。同データを2000年と比較した場合、平均年齢は1歳上昇するが、高齢者(55歳以上)を比較した場合でも両年で大きな変化は見られず、ここからも際立った高齢化は見受けられなかった(図1)。

図1.就労している技術者の年齢構成割合(%)

図1.就労している技術者の年齢構成割合(%)(2000年、2008年)

(注)建築士、地域計画士、土木工学技術者、測量技術者等を除く。
出所:マイクロセンサス2000/2008、およびDIWベルリンの独自計算

同研究員は、より新しい数値が使用可能な連邦雇用エージェンシーの2011年統計からも「平均年齢が50~51歳であるという結果は得られなかった」としている。ただ、職種よっては多少の違いが見られ、鉱業・冶金業・鋳造業分野(Bergbau-, Hutten-, Giesereiingenieure)などの技術者は高齢者が占める割合が比較的高かった。これらは主に雇用が継続的に減少している職種が中心で、企業が欠員補充をしなかったために結果として自動的に高齢化が進んでいる分野である。一方で、技術者の大多数を占める機械工業や生産工学技術分野では雇用が拡大しており、その傾向は明らかに若年要員の採用に特徴付けられていた。

長期需要予測は別の問題

若年層の人材育成状況に目を向けると、2010年には5万人以上の大学生が工学系技術者の専攻コースを修了し、2011年の新入生数は機械工学/生産工学専攻だけでも5万8,600人に上る。もちろんすべての新入生が将来技術者として働くとは限らないが、今後数年間、同分野の大学修了者数はさらに増加することが見込まれている。すでに現在、既卒者数は技術者の年間総需要を埋めるために十分な人数を超えており、ブレンケ研究員は「経済状況にもよるが、今後は供給過剰が発生する可能性もある」としている。

以上の検証結果を踏まえると、ドイツ技術者協会(VDI)が発表した技術者の平均年齢は、実際よりもはるかに高く、公的な統計に基づくと今後短期間で見込まれる欠員需要は、ドイツ技術者協会の年間4万人という予測に対して半数の約2万人になる。ただ、「人口動態の変化を考慮した長期の技術者不足については別問題であり、この長期需要予測と、2010年代の迅速な対応を求めるドイツ技術者協会(VDI)の技術者不足に関する予測とは混同すべきでない」と報告書は結論付けている。

  1. 本検証調査で使用した連邦雇用エージェンシーの雇用統計は、社会保険加入義務のある雇用された技術者の情報を得ることができ、マイクロセンサスは、自営業者を含む広範な技術者の情報を得ることができる。ただ、留意点としてマイクロセンサスは、技術職の教育訓練を受けた者で別の職種に携わる就業者も含まれてしまう(例:経営者や技術関連の販売職、専門の技術知識を必要とするジャーナリストなど)ため、両統計には調査対象範囲の違いによって生じる誤差がある。ブレンケ研究員は以上を前提とした上で、労働力不足が主張されている主に工業分野の技術者を対象とした(建築士やインテリアデザイナー、土木工学技術者など建築分野の技術者は含まない)分析を行った。

参考資料

  1. SPIEGEL ONLINE(14.03.2012), DIW Wochenbericht nr. 11/2012 vom 14. Marz 2012

関連資料

2012年6月 ドイツの記事一覧

関連情報