均等待遇の義務化、派遣労働者の増減に影響?
―内容異なる調査結果

カテゴリー:非正規雇用労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2012年11月

派遣労働者の均等待遇を規定した派遣労働者規則が2011年10月に施行されてから1年が経過した。導入を巡っては、派遣労働者の減少を招くと経営側は反対したが、最近に発表された調査結果はこの点の評価について大きな食い違いを見せている。派遣労働者を受け入れる経営側の調査では、規則の影響で派遣労働者の活用を削減したとしているが、派遣業界団体の調査では、むしろ景気減退による利用の減少のほうが大きいという。

EU派遣労働指令に基づく国内法整備として施行された同規則は、就業開始から12週間を経た派遣労働者に直接雇用従業員との間の均等取扱いの権利を保障するもの。賃金や休暇など、基本的な労働条件が対象となる。導入に先立って、経営側からは派遣労働者の利用に関する企業の負担を増加させ、結果的に派遣労働者の就業機会の減少につながるとの批判があった(注1)。

派遣労働者に関して利用可能なデータが限られているため、規則施行の影響について正確な実態を把握することは難しいが(注2)、業界団体の求人・雇用連盟(REC)によれば、企業の派遣労働者に対する需要は2012年に入って減少が続いたものの、直近では再び増加傾向にある(注3)という。RECは派遣事業者や雇用主に対する継続的な調査(注4)の結果から、派遣需要の減少の大半は景気の動向によるもので、規則自体の影響は限定的と結論付けている。同調査によれば、規則導入から2012年4月までの7カ月間で、28%の企業が派遣労働者の利用を停止または縮小したと回答しているが、うち三分の二は景気低迷を理由に挙げており、規則導入が理由との回答は4%に留まる。この間、12週間未満の派遣業務の割合が46%から56%に増加しているが、これについても均等待遇の回避よりむしろ景気低迷による人員調整が大きな要因とRECはみている(注5)。なお、直接雇用の従業員と同等以上の賃金を得ていると回答した派遣労働者は、規則施行前後で41%から53%に増加しているという。RECは、規則施行に先立って既に適正な水準の賃金が支払われていたため、増加が小幅に留まったのではないかと推測している。

また派遣労働者規則は、派遣事業者が派遣労働者を直接雇用し、派遣業務のない期間にも減額された給与を支払うことによって、派遣先における均等待遇義務の適用除外(派遣元での均等待遇)を認めており、この手法が派遣労働者の均等待遇の妨げとなる可能性が指摘されていた。RECによれば、派遣事業者に直接雇用されている派遣労働者は規則施行前後で12%から17%に増加したという。

このほか、複数の調査(注6)が同様に、派遣労働者規則の影響は限定的であったとの結果を報告している。

一方、イギリス産業連盟(CBI)が7月に公表した調査結果は、RECとは大きく食い違う内容となっている。同調査によれば、2012年3月時点で企業の57%が規則を理由に派遣労働者の利用を縮小、12%が派遣労働者数を削減、8%が利用を停止したと回答している。また、36%の企業が対応策として有期契約労働者を、11%が期間の定めのない従業員を増加させたと回答、17%が派遣労働者の利用を控えて他の従業員の時間外労働を増加させたとしている。さらに、派遣事業者による直接雇用の手法を利用するようになったと回答する企業が27%にのぼる。

CBIは、企業負担の増加が派遣労働者に対する需要の減少につながったと主張しており、雇用状況が厳しい中で、柔軟な働き方や職務経験の蓄積などの機会を提供する派遣労働を規制すべきではないとして、いくつかの改善案を示している。まず、均等待遇の対象となる賃金の範囲が非常に複雑であること、また12週間の就業期間の算定方法が短期業務に従事する派遣労働者を不必要に規制対象としていることを挙げ、これらを簡略化すべきであるとしている。同時に、現行の法規制の内容のうち、EU指令の規定や労使間の合意を超える部分や、雇用審判所への機会主義的な申し立てのインセンティブを与える内容については、現行の規則からの削減を求めている。

派遣事業者による職業紹介・派遣等(売上高)の推移

派遣事業者による職業紹介・派遣等(売上高)の推移(1998-2012年)

  • ※ オレンジ:派遣等、青:期間の定めのない職業紹介
  • 50=前月から変化なし。
  • 出典:"Report on Jobs" (Oct.2012), REC and KPMG

参考資料

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