若年失業者の雇用に助成金など
―新たな若者向け就業支援策

カテゴリー:雇用・失業問題若年者雇用

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  • 国別労働トピック:2012年1月

若年失業者の記録的な悪化への対応策として、政府は新たな政策パッケージである「ユース・コントラクト」の実施を打ち出した。従来の若年支援策の柱であるアプレンティスシップ(見習い訓練)や就業体験のさらなる拡充と併せて、若年失業者を一定期間雇用する民間企業に対する助成策が盛り込まれており、今後3年間で50万人近くの支援を目指す。

若年失業者100万人を突破

統計局が12月に発表した8-10月期の失業者数は、前5-7月期から12万8000人増加して263万8000人となり、失業率は8.3%に上昇した(0.4ポイント増)。うち3割強にあたる86万8000人が12カ月以上失業状態にある(ここ2年間で約4割増加)。フルタイム被用者が不況期に次ぐ減少幅(18万8000人減)となり、被用者全体では25万2000人減少したが、自営業者の大幅な増加(16万6000人増)により、就業者全体では6万3000人減に留まった。これは公共部門の就業者数の減少(6万7000人)に対応しており、一方の民間部門では雇用はほぼ横ばい(5000人増)となった。

若年層の雇用状況も、前月に100万人を突破して80年代以来の高水準に達しており、以降も悪化が続いている。16-24歳層の失業者数は102万7000人、失業率も前期から1.2ポイント増の22.0%となり、長期失業者(12カ月以上)は不況前の水準の2倍以上に増加した。なお、前後して教育省が発表した16-24歳層の「ニート」(教育訓練も受けておらず就業もしていない者。失業者を含む)も、2011年第3四半期には調査開始以降で最高の116万人に達している。

年齢階層別失業率

年齢階層別失業率(1992-2011年)

参考:Office for National Statisticsウェブサイト

若年層の失業者・ニート等の構成 (イングランド、2011年第3四半期)

若年層の失業者・ニート等の構成(イングランド、2011年第3四半期)

参考:"Building Engagement, Building Futures", HM Government

雇用担当大臣は、雇用状況の悪化は前月より緩やかになっており、状況は安定に向かいつつあるとの見方を示している。若年失業者については、約3割がフルタイム学生のアルバイト探しによるもので、直近の増加分もこうした層によるものと説明、見かけほどの深刻さはないと示唆している。さらに、求職者手当の受給者は依然増加しているが、給付制度全体(注1)では受給者は減少傾向にあるとして、受給者削減に向けた取り組みの成果を主張している。

しかし、政府に経済財政見通しを提供する予算責任局(OBR)を含め、シンクタンクなどの間では、2012年以降も低成長・高失業の状況が続くとの悲観的な見方が強く、また企業調査からは、景気の先行きへの不安感から雇用主が採用を控えている状況がうかがえる。

訓練、就業体験に加え雇用助成も

企業が若者の雇用に消極的な理由として挙げるのは、資格、経験および読み書き計算など基礎的なスキルの不足だ。政府は、アプレンティスシップ(見習い訓練)や就業体験プログラム(注2)など、企業での就労を軸としたプログラムを若年支援策の柱として掲げ、受け入れ企業の増加やプログラムの高度化、本参加に先立つ導入用プログラムの新設など拡充をはかってきた。

悪化が止まらない若年層の雇用状況をうけて、政府は11月末、新たな若年失業対策のパッケージである「ユース・コントラクト」の実施を発表した。2012年から3年間で9億8000万ポンドを投じて、50万人近くの若者の支援を目標に掲げている。

うち16万人分は、18-24歳層のワーク・プログラム参加者(失業期間が9カ月を超える者)(注3)を6カ月間雇用する民間企業に対する2275ポンドの助成による。政府はこの金額について、若者向け最賃額の半額に相当し、企業が若者を直接雇用した場合の社会保険料を上回る額であると説明している(注4)。雇用主は最終的に、最低賃金(現在時給6.08ポンド)以上の賃金を支払いを求められる。実施はワーク・プログラムの請負事業者が担う。政府は、このうち最低でも4万人分を小規模企業の助成に充てるとしている。

また、18-24歳層で失業期間が3カ月超の失業者に対しては、ワーク・プログラムへの参加に先立って、就業体験プログラムや業種別ワーク・アカデミー(注5)での訓練を提供する。3年間で25万人の参加を見込んでいる(既に計画されている5万人分の就業体験および2万5000人分のワーク・アカデミーでの受け入れに追加)。同時に、ジョブセンター・プラスでの面談やキャリア相談を強化、失業5カ月目以降は毎週の面談を義務化する(通常は2週に1回)。

さらに、アプレンティスシップの拡充策として、50人規模までの企業が16-24歳層の訓練生を初めて受け入れる場合に、最高で1500ポンドを助成する。12年度に4万人の受け入れ増加を見込んでいる。また、訓練の質的向上を図る方策として、訓練生の英語と数学の教育資格が一定水準を下回る場合、その取得を訓練内容に盛り込むことを全ての受け入れ企業に義務付けるとともに、大卒レベルの資格取得が可能な高度アプレンティスシップについても提供の拡大をはかる。並行して、手続きの簡素化などの制度改革を順次実施するとしている(注6)。

このほか、16-17歳層のニート2万5000人を対象に、教育やアプレンティスシップ、訓練を伴う雇用に移行するための支援を提供するとしており、年間5000万ポンドの予算を充てる方針だ。

このうち、若年失業者に対する雇用助成策は、前労働党政権が金融危機直後の緊急対策として10億ポンドを投じて実施(注7)していたが、新政権が歳出削減策の一環としてこれを廃止した経緯がある。いったん廃止した施策の焼き直しではないかとの批判に対して、政府は、前政権は公共部門を雇用の受け皿としていたが、今回の施策は民間部門における受け入れを前提とすること、助成額が小さいこと、さらにパーマネント雇用への移行の可能性があることなどを挙げ、前政権の施策とは異なるとしている。

参考資料

参考レート

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